50話 大暴れの幕開け(3)
「合図来たよ」
「遅え」
「まあまあ、三春君頑張ったじゃないですか」
『リバース』のアジトである廃工場の屋根上に篶成と美鈴は待機していた。
屋根の下では絶賛『リバース』と突入をした修哉達による戦いが繰り広げられており耳を澄まさずとも人が喚いている音がよく聞こえた。
そんな抗争に突入する為に篶成は勢いよくその屋根を蹴り飛ばした。
下に勢いよく、地団駄を踏むように蹴り下ろされた篶成の蹴りは屋根を勢いよく突き破り、篶成が足を置いていた部分の屋根が綺麗にこそぎ落ちた。
下にいた『リバース』の面子は突如落ちてきた屋根に驚き、思わずその視線を上に向けた。
屋根は綺麗に一部分だけ蹴り落とされており、その間からは月明かりが差し、上を見る『リバース』の面子は思わず片手でその月明かりを半分遮った。
そうしてもう半分の視界にその男は映った。
まるで地獄から来た悪魔を想像させるような狂気を孕んだ笑みを浮かべるその男は悠々と眼下に群がる『リバース』の面子を見下ろし、その眼下にいる『リバース』の面子がその男に恐怖を示す表情をした瞬間、落雷の如く速いスピードで屋根から地面に飛び降りた。
降りた衝撃で地面にヒビが入り、たったの数秒で篶成がただ者では無いことを周りの『リバース』の面子は本能的に理解した。
コイツの攻撃を受けたら一溜りも無いと。
しかし一歩引こうとした時には既に遅かった。
篶成はほんの一瞬でまずは目の前にいた男の顔面に飛び膝蹴りを食らわし、その後空中に留まったままその近くにいた『リバース』の連中3人を回し蹴りで沈めた。
「おいおい手応えねえな」
篶成はそのままの勢いでさらに近くにいた『リバース』のメンバーを殴り倒して行く。
「ハハッ、相変わらず規格外だな」
「いいぞ篶成!」
「やれやれ篶成!」
篶成の登場に修哉は思わず感嘆の言葉を漏らした。
それに続いてバン車の中からロケット花火を飛ばしている杏梨と津田がテンションを上げながら篶成を鼓舞した。
篶成はそんなバン車の中の二人を見て調子のいいことばかり言いやがって……と小さなため息を吐いた後に再度拳を握り直し再び『リバース』のメンバーに殴りかかった。
「相変わらずお兄ちゃんは凄いなぁ」
そんな篶成を屋根の上から美鈴はニコニコとした表情のまま見下ろしていた。
「さて、そろそろ私も行きますか」
美鈴はそう言うと軽い調子のまま屋根の上からその身体を空中に投げ出し、廃工場の中へと侵入した。
しかし美鈴の空中落下は些かこの世の事象に反していた。
「おい、何だあれ?」
「女の子……?」
篶成の事でただでさえ頭が混乱していたのにその混乱はさらに混沌を極めることになってしまった。
何故なら彼らの視界に映る美鈴はまさしく────空中を浮遊しているのだから。
美鈴は何より特徴的と言っていいゴシック調の黒いドレスをふわふわとはためかせながらゆっくりと空中を降りて行た。
通常なら重量の法則で美鈴はそこそこのスピードで落下をする筈である。
しかし美鈴はその法則を完全に無視したゆっくりとしたスピードで落下しているではないか。
美鈴のその種にいち早く気付いたのは美鈴と同じ魔術師────ライムとハルネだった。
────あの少女……まさか……
ライムが美鈴の姿を見て何やら思案を巡らせている中ハルネは実に楽しそうな笑みを浮かべながら美鈴を見ていた。
────あれが沙羅家の呪いか。
ハルネが美鈴の正体に気付き、笑みを溢している間にライムはこれから美鈴が行おうとしていることを察して大きく声を張り上げた。
「全員!あの少女に目を向けるな!」
ライムの咄嗟の叫び声に『リバース』の面子は何事かと急いで命令通り視線を外すが────
「もう遅い」
美鈴はその幼い外見にそぐわない妖美な笑みを浮かべながら魔術を展開させる。
「寝寝粉路夢」
美鈴が展開した魔術の名前を言い合えると同時に突如として美鈴を見つめていた『リバース』のメンバーが倒れ始めた。
突如眠気に襲われた様な感覚に陥り、皆それぞれが深い夢の中に堕ちていく。
次々と倒れる『リバース』のメンバー見てライムはあからさまな舌打ちをした。
「ライム様……?」
初めて見る極端に苛立った様子を見せるライムに隣にいたトーチカは思わず息を呑んだ。
今のライムには普段の落ち着いた雰囲気など微塵も感じず、ただただ悪鬼迫る緊迫感の様な物を感じ取っていた。
────予想外だな。
ライムは突如現れた美鈴を睨み付けながら言葉を投げる。
「その歳でその魔術。将来は魔法使いにだってなれるかもしれないのに……こんな辺境の地で甘んじているのは勿体無いな」
「あら、褒めてくれるの?でも残念。私は別にそんなものに微塵も興味が湧かないの。私は私の魔術が嫌いとまではいかないけど好きでは無いから」




