46話 邂逅(3)
「不死者だって?」
ハルネの言葉にライムはあからさまに顔を硬らせて言葉の真意を聞く。
するとハルネは右ポケットから小さなカッターを取り出し、その刃先を腕の橈骨動脈の部分に押し当て、勢いよく引き裂いた。
当たり前のように腕からは血がダラダラと流れ始め、一瞬でハルネの腕は赤色に染まってしまった。
しかし次の瞬間、ピタリとその血が止まったではないか。
そうして血はまるで独立した生物のように蠢き始め、地面に散った血は宙を舞い、腕に流れていた血は逆再生のように切り傷に収束され始めた。
気付けば完全に傷は治っており、ハルネは何食わぬ顔で会話を再開した。
「これで証拠は充分だろ?」
一部始終を見ていた周りのチンピラ達は化け物を見るような目でハルネを見る者もいれば、その光景に憧れを抱くものなど様々であった。
不死者。
その概念を信用していなかった者も中には複数人いる。
しかしライムではないとはいえ、目の前であんな現象を見せられては信用せざる終えなかった。
本当に、この世の断りを否定するかのような現象が存在するのだと。
「わざわざ何の用だい?同じ不死者だから手を組もうって口か?」
突然現れたハルネにライムは最大限の注意を払いながら会話を進めていく。
「まあ、そんな所かな。不死者の情報を集めていてね。協力してくれるなら悪くはしないよ」
何処と無く上からの物言いにライムは不機嫌になりながらも相手の言葉に耳を傾け続けた。
「それに、こちらに来ればあの土地の情報はある程度掴めるはずだ。君の目的はアメリカだろ?何処かで君と似たような人物の情報を聞いた事があるよ」
「……なぜそれを?」
ライムは今までの警戒心をさらに深めてハルネの情報とやらを確かめる。
実際ライムの最終目標はアメリカで成し遂げられる為、ハルネの情報は合っていた。
しかしどこでそんな情報をハルネは掴んだのか全く予想できない為、ライムは訝しむ目線をさらに細めてハルネを見つめる。
しかし、そんな目線を気にせずハルネは知っている情報を淡々と開示していく。
「1851年。こんな事件がアメリカで起きた。メキシコを本拠地とするマフィアの御子息が率いる組織がアメリカの組織相手に抗争を持ちかけた事件。結果としてはメキシコ側が敗れたがその事件はあまりの異様さに長らく語られる事になった……」
ハルネの情報は当たっているのかライムは少しハルネのことを不気味に思い額に汗を湿らせながらその話を聞き続ける。
「なぜならメキシコ側にいた緑色の髪が特徴的な少年が弾を喰らおうが、斧で切られようが死ななかったから。この特徴君に合致していると思わないか?」
「どこでその事件を────」
「協力するなら教える。しないなら教えないし今日の君の計画をとことん邪魔しよう。さあ、どちらを選ぶ?」
周りの『リバース』のメンバーは完全に話についていけずに黙り込んでいた。
対してライムは先程から顎に手を当てて何かを考え込んでいるような素振りを見せていた。
そうしてライムは徐にその回答を口にする────
「今日の計画が上手くいけばアンタの力なんて無くても俺の計画は上手くいく。魔術師も不死者も全て介入は許さない」
その返答を合図にハルネの横に突如黒い影が現れた。
ハルネはその影に気付いていたが、特段気にする事なくライムから視線をずらさなかった。
しかし影は勢いをつけてハルネの顔面に向けて衝撃を繰り出そうとしている。
が、その影の衝撃は呆気なく止められてしまった。
影とハルネの間には瞬時にプラトが入り込み、その影を受け止めたのだ。
影の主は『リバース』の親衛隊の一人、トーチカであった。
トーチカは咄嗟に出てきたプラトに驚きながらも、口元は笑いながら言葉を紡いだ。
「アンタ、いい反射神経してんね」
「アンタこそ良い蹴りじゃねえか」
プラトはトーチカが繰り出した蹴りを押し返すと二人は戦闘態勢に入り、いよいよアジト内で大きな戦闘が始まろうとしていた。
そんな二人を横目にハルネはライムと再び会話を再開する。
「残念だよ。ならさっきの言葉、通り君の計画を邪魔させてもらうよ。満月の夜とこの魔力濃度が異様に高い札幌が条件となる大魔術……僕の計画の邪魔になる要因は早急に取り除こう」
ハルネはそういうと上着の内ポケットに手を入れてある物体に手をかけた。
それを見てライムは完全に目の前のハルネという男が敵対し、面倒事を運ぶ存在だと認識し大声で『リバース』のメンバーに合図を送った。
「総員!この二人を潰せ!」
ライムの合図により『リバース』の面々は二人に対する恐怖心が若干和らいだのか、その目に殺意を宿らせる。
そうして一人が声を上げながら突っ込むと芋づる式に次々と『リバース』のメンバーがハルネとプラトに向けて突っ込み始めた。
しかしそんな中でもハルネとプラトは冷静に顔色一つ変えずに事の対処にあたる。
「数が多いな。頑張ってくれよプラト」
「お前も頑張るんだよハルネ」
「ははっ、じゃあまずは挨拶代わりだな」
ハルネは胸の内ポケットから手にかけていた物体────拳銃を取り出し、その銃口を流れるような自然な動作でライムに向けた。
周りのチンピラ達は咄嗟に現れた銃に思わず慄き、その足を止めた。
それはライムも同様であった。
当たり前のように銃を取り出し、その引き金を引こうとしているハルネにライムは若干行動が遅れてしまったのだ。
ライムがアメリカでの抗争を繰り広げていた1800年代では銃は裏口を使えば簡単に手に入る時代だった為、その対処にも慣れていた。
しかし2021年の現在ではほぼ銃を使う人間などおらず、ましてや日本では違法とまでされている品物である。
それ故にライムの感覚は鈍っていた。
少し早く気付いていれば銃なんて食らわなかったかもしれない。
しかしライムがすぐに避けようとした時にはもう、時すでに遅しと言った状況だった。
一発の弾丸がライムの脳天を貫き、ライムはその衝撃で思わず後ろに倒れた。
「ハッタリじゃない不死者なら生き返るさ。これは今宵のイベントを盛り上がる為の合図だと思ってくれ」
本当に撃ち出された鉛玉と拳銃から臭う火薬の匂いに周りのチンピラ達は再び恐れ慄き、完全にその足を止めてしまう。
しかし再び工場内に響いた声と共にその不安感は消される。
「総員躊躇うな。突っ込め!」
額に弾丸を受けた筈のライムが気付けば立ち上がっており、さらには傷の跡が全く見られないではないか。
この時、初めてこの場所に居合わせた『リバース』のメンバーがライムも正真正銘の不死者である事を確認し、同時に士気を昂らせた。
バックに本当の怪物がいるなら俺達は人数でも勝っているし負ける筈が無いと。
そうして再び足を踏み込んだ瞬間────
「ぎゃあああ」
工場の入り口付近で数名の『リバース』のメンバーの悲鳴が響いた。
それと同時に車のガス特有の低音が工場内に響き渡り、辺りは異様な喧騒に包まれた。
さらにはその音を発している車の眩いライトが月明かりに混じり合い、一気に工場内は明るくなった。
『リバース』のメンバーが何が起きたのだと呆けた顔をしている中、突如として現れた車の中から何処と無く場違いで、呑気な声が響き渡る。
「街の守り屋参上!」
「恥ずかしいからやめろ!」
「いいじゃねえか修哉。カッコいいぞ!」
「そうそう。登場シーンは肝心っすよ」
「熱くなってきたな!」
バン車の中には修哉や杏梨を中心とするバンドメンバーが乗り合わせていた。
そんな中の修哉がこの抗争の火蓋を本格的に切るように車から降りると己の拳を交えて呟く。
「さあ、暴れるか」
× ×




