41話 歯車が再び動き出す(7)
街中にて────
「痛て……」
大柄な男に服を鷲掴みにされている少年────東堂 三春が脚力のみで空を実質飛んでいる沙羅 篶成に捕まりながら苦悶の声を上げた。
「大丈夫ですか?」
そんな三春の顔を篶成に抱き支えられる形で楽な姿勢を保っている篶成の妹、美鈴が覗きながら声を掛けた。
「んん……微妙ってとこですかね」
三春は数十分前に堺家と『リバース』の抗争に巻き込まれた際、『リバース』のメンバーからの度重なる暴力を受け、身体は誰が見ても痛々しい風貌になっていた。
そんな三春の傷を美鈴はそっと撫でるように触った。
「痛!?」
突然触られた事に三春は驚き慌てて今の状況に焦りを感じる。
久志が言っていた話や堺家での態度からするとこの位は我慢しなければ美鈴の兄である篶成が美鈴に対して無礼な事をするなと苦言を呈するのではないかと思わず三春は思い込みそっと顔を上にあげて篶成の顔を覗き込んだ。
「じっとしてろ」
すると篶成は特に文句を言う訳でもなく視線を変えないまま三春に指示をした。
「そうそう、じっとしていてください」
美鈴がニコニコとしながら篶成の言葉の後に続いた直後、美鈴の手から緑色の眩い光が現れた。
「え?」
突然現れた光に三春は何をしているのかと思い呆然とした表情を露わにするが美鈴は特に気にすることも無く作業を進めていく。
すると驚く事に光が当たった所にあった三春の傷がみるみる治っていくではないか。
「どう言う原理?」
ツッコミたい所は山々あったがそれを全て総決算して三春の口からはその疑問の声が挙げられた。
そんな疑問の声に美鈴はまた他の傷の部位に光を当てながら答えていく。
「魔術ですよ」
魔術。
三春はこの街に来てからその単語を聞くのは初めてであった。
久志の口や『リバース』関連で聞いていてもおかしく無かったのだが結局一度も触れる事なくここまで来てしまった。
「えと、魔術?何それ?」
「……『リバース』関連で知ってると思ってました。ごめんなさい」
「あっ、いや!いいんだ!なんか傷も治って動きやすいし!」
三春は申し訳なさそうな顔をした美鈴に対して直してもらった右腕を軽く振る事で元気なことをアピールした。
しかし美鈴の顔は晴れる事なく言葉を返す。
「ん〜魔術側、即ち裏側の世界に引き込んでしまったのが何よりアレですよね……」
美鈴の言葉から放たれた物騒な言葉に三春は何かの冗談かと思い、頬を引き攣らせながらその真偽を確かめる。
「えっと……魔術って本当に存在するの?」
「おいおい、今目の前で腕の傷を治してやったろ」
三春の質問には篶成が答えた。
確かにありえない速度で回復はしたが本当にこの世にそんな事象が存在するのかという疑問を三春は払拭出来なかった。
するとそんな三春の疑問を晴らすかのように美鈴が魔術に関する説明を始めた。
「魔術っていうのは普通に生きていたらまず使用する人間には遭遇する事はありません。普通の人に魔術因子が発動する割合は一億人に一人の割合と言われていますから」
「一億人に一人!?って事は……世界の総人口が今は訳70億人ぐらいだから70人しかいないの!?」
三春は少々オーバーなリアクションをすると美鈴は作り笑いを浮かべてさらに言葉を続けていく。
「そう。でも例外はいますよ。魔術因子っていうのは九割が家系の血で決まります。優秀な魔術因子を持つ家系は魔術師同士の間に子供が産まれるのでほぼ魔術師が生まれます。初めて子を親のさらに親が魔術師じゃない人とで作った場合は劣性遺伝の関係で生まれないこともありますが……」
「えっ、ええと?」
美鈴の解説に三春は少しずつ頭を悩ませつつも耳を傾けて続けた。
そんな三春を見て美鈴はなおもニコニコと笑いながら解説をする。
「ふふっ、ようは遺伝の法則です。メンデルの法則を聞いた事はありませんか?」
「ああ、それなら!」
流石に大学生となった三春もその程度の知識は知っていた。
三春は一応医療系の学生の片割れという事で遺伝病に関してはそこそこの知識を有していた。
メンデルによって発見された遺伝の法則。
今も様々な場面で役立っており、医療では遺伝病の類でこれでもかという程参考にされている法則だ。
その法則の名前が出てきた事により三春は少し納得したような表情になった。
「ようは生まれた子のさらに子には遺伝の法則で魔術因子が発動しない可能性があるってわけか……」
「そうです!三春さん頭いいですね!」
「えっ!?いやそれ程でも……」
三春は自身の頭の後ろを抑えながらオーバーな照れ方をするがそんな三春を他所に美鈴がさらに話を進めていく。
「今全世界に魔術因子を持つ人間は250人と言われています。その中の一人にこれから倒す『リバース』の長も含まれているでしょう」
三春は改めてこれから戦う相手の事を思い思わず息を飲んだ。
三春は堺家内で魔術絡みの戦闘を見ていないとはいえ、自身をボコボコにした相手のさらに上がいると思うと息を飲まざる終えなかった。




