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The Rampage 2021 - The Beginning of the Rampage!!!  作者: 冬野 立冬
3章 再び歯車は動き出す
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38話 歯車が再び動き出す(4)


 時を同じくして『リバース』のアジトにて────


「酷い有様だね」


 薄暗い廃工場に月明かりが差し込み、その光に反射する埃が煌びやかに舞っている場所────即ち『リバース』のアジトに顔面を蒼白にさせながら歩く女が一人。

 女には右手が存在せず、止血処置としてタオルが巻かれていた。

 タオルは元々白い色だったのだが、今はほぼ血によって赤く染め上げられており、見るだけで体の力が抜けるほどにグロテスクな光景を演出している。

 実際『リバース』に属するチンピラ達も見るに耐えない女の姿に視線を向けると意図せずとも気色の悪い視線を送ってしまっていた。


 そんな女────ハバネは申し訳なさそうな表情を顔に貼り付けながら口を開いた。


「申し訳ありません……個人の判断で動いた挙句に右手を失うなど……」


 自身の舌を噛み切るのでは無いかと思う程に深い苦悶の表情を浮かべ、頭を下げたまま上げようとしないハバネに対して『リバース』のリーダーであるライムは特に(とが)めることもせずに優しい口調で言葉を返した。


「構わないよ。命が無事で何よりだ。片腕を失おうと君の身体能力は変え難いものだ。これからも役に立って貰うよ」


「でもそれじゃあ自慢の腕力が振るえないな」


 ライムの励ましの言葉とは真逆に、突如としてハバネの横からハバネをおちょくるような言葉が投げられた。


「トーチカ……」


 ハバネはすぐに声の主に気付き、ライムに対して頭を下げたまま目線だけをその声の主に向けて口を開いた。


 トーチカ。

 『リバース』の三人の幹部の一人でハバネと同じ魔術を使う者。

 ハバネと同じ女性なのだが実力は男勝りであり、ハバネと変わらずそこら辺のチンピラなら軽く倒せる程の実力者であった。

 ハバネとトーチカは昔からの知り合いであり、いわば腐れ縁のような関係であった。

 昔から何かにつけてどちらが優れているかを競い合い、マウントを取り合うというなんとも言えない関係性を持った二人なのだが、今回ばかりはハバネはトーチカに向けて口が開けなかった。


「もう競い合う気も起きないなあ?片腕だけの木偶(でく)の坊に成り果ててしまったんだからな?」


 ハバネはトーチカの煽りに反抗的な目を向けるが決して言葉を返すことはしなかった。

 否、出来なかった。

 実際片腕のない状態でトーチカと殴り合いにでもなればハバネが負けるのは必然的だろう。

 さらに今は心身ともに疲れ果てている為、身内同士のくだらない争いは避けたいところであった。

 そんなハバネの反応を良い事にトーチカはいけしゃあしゃあと気分を高揚(こうよう)させながら言葉を続ける。


「親衛隊失格じゃ無いか?今なら魔術が使えねえウィルにも負けちまうだろ?情けないなぁ!ハバネ!」


 トーチカは両手を仰々しく広げながらハバネに近寄り、最後には頭を下げたままのハバネの頭に片手を置いて耳元で言葉を囁いた。


「で、誰にやられた?お前をそんな事にするやつなら随分強いんだろ?」


「堺家の当主だ」


「は?」


 ハバネの解答にトーチカは思わず顔を(しか)めた。

 堺家の情報は『リバース』の中にある程度は広まっている。

 さらに当主となればその情報を知らない人はいないだろう。

 白髪の老人で今はほとんど暴力沙汰の事件には関わっていない筈の人物。

 そんなやつにハバネは腕を斬られたのだと言う。


「なんの冗談だ?あんなジジイに負ける?お前が?不意打ちでも食らったか?」


「いや違う。真っ向勝負でこの有様だ。あの老人は化け物だよ」


 ハバネの真剣な表情にトーチカは嘘では無いと思い「マジか……?」と小さく呟いた。


 そんなトーチカを他所(よそ)にハバネはようやく顔を上げてライムに目線を向けて言葉を紡ぎ始めた。


「堺家の当主は()()()です」


「へぇ……」


 ハバネの一言にライムは不敵な笑みを浮かべながら相槌を打った。

 周りのチンピラ達もハバネの一言に動揺を隠せずにざわつき始める。

 チンピラ達はライムが不死者と名乗っている事は周知の事実として知っているが、それを見た事がないので正直不死者という存在を完全に信じているわけではなかった。

 しかし今、目の前で『リバース』の中でも戦闘力だけで言えば最高戦力といっても過言ではないハバネがその不死者という単語を出した事によりチンピラ達の頭の中に本当に存在するのでは……?という考えが過った。

 確証が持てないチンピラ達に不死者は存在すると確信させるための演技なのでは?と疑う者もいたが、その為にわざわざ腕を失うのは大袈裟すぎるとその場にいた全員が思っていた。


 ────本当に、不死者なんて者がいるのだろうか?


 そんな考えにチンピラ達が気を取られている間にライムとハバネは会話を続ける。


「治る瞬間を見たのかい?」


「いえ……しかし老人とは思えない身のこなしからして疑わしい箇所は見受けられました。そして何より、本人が不死者と名乗っていました」


「そうか……」


 ライムは顎に手を当ててしばらく考え込み、やがてその場から立ち上がり周りのチンピラ達に向けて言葉を発した。


「今の報告から、堺家との抗争で一つやって貰いたい事が出来た。堺家の当主が本当に不死者ならば生捕をしろ。まあ、殺しても死にはしないけどね」


 自身の言葉の矛盾にライムは少し笑いながら言葉を続ける。


「すぐに携帯を使って周りに連絡してくれ。今日の日付が変わるタイミングまでには堺家と蹴りをつける」


「不死者を捉えたいなら私に策が……」


「何?」


「堺家の当主の────娘を捉えております」


 ハバネの言葉と同じタイミングでチンピラ達の合間を縫うように、堺家を共に襲撃した男がアジトに姿を表した。

 そして男の右手には凛の服が乱暴に掴まれており凛は苦しそうな表情を浮かべながら男に引きずられるような形でなんとか歩いていた。


 ライムの目の前に着くなり、男は凛を乱暴に前に押し出し、凛は思わず勢い余ってライムの目の前に倒れてしまう。

 すぐに凛は目の前にいる『リバース』のボスと思わしき男────ライム・ノルウェーツを睨みつけるが、ライムは凛とは対照的に顔に凶悪な笑みを浮かべて凛を見下ろしていた。


「よくやった。コイツを餌に当主を呼ぶぞ」


 歯車は回り続ける────


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