36話 歯車が再び動き出す(2)
美鈴の三春に対しての第一印象はハッキリ言って予想外であった。
抗争を止めるというのだから、そこそこに頭がキレるカリスマ性を持った人物なのかと思えば、目の前に現れたのは誰がどう見ても何処にでもいるひ弱な大学生であった。
さらに美鈴は凛を救うという話を聞いてからイケメンだと勝手に想像していたのだがそれも外れた。
ブサイクという訳ではないが、特段イケメンというわけでもなく本当に普通。
髪をいじればまだ整うというものなのだが、三春は特にそこら辺に拘りを抱いた事が無いので、結局普通である。
しかし美鈴はあからさまに態度を変えずにいつもの明るい調子で三春に対して質問をした。
「あの……三春さん?今回はどう言う了見でこの場を設けたのですか?」
子供相手だというのに、質問をされると何故か挙動不審気味になる三春に対して美鈴は、若干引きつった汗を流しながら質問の返答を待つが、三春が答えるより先に篶成が口を開いた。
「おいクソガキ」
「はい!?」
「俺がこの世で嫌いな物の一つを特別に教えてやる」
「……」
突如として殺気を正面からぶつけられた三春は思わず硬直してしまい、挙動不審になる余裕すらも無かった。
そんな三春を無視して篶成は淡々と言葉を紡ぐ。
「俺と美鈴に対してビビり散らかして話すら出来ねえ奴だ」
篶成が言葉の怒気とは裏腹に似合わない優しげな笑みを浮かべながら三春に対して言葉を紡いだ。
三春は思わず息を呑んだが、すぐに小さく頷き言葉を返した。
「はい。はい!」
三春は自分でも驚くほどに簡単に出てきた言葉に驚いた。
恐らく三春は篶成が恐ろしすぎて一周回って冷静になったのだろう。
三春はそのまま勢いに任せて言葉を続けた。
「あの、『リバース』の一番上の人を倒して欲しいんです」
「ああ、いいぜ」
「え、いいの!?」
呆気なく了承した篶成に三春は思わず目を見開いて驚きを露わにしたが、その横にいた美鈴がそんな三春になぜ了承したのかを説明し始めた。
「私達、元々『リバース』とやり合うつもりだったんですよ。だからまあ、ついで?です」
「そっ、そうなんだ?」
本当に呆気なく話が進んだ事に三春はどう対処していいのか分からず、再びおどおどし始めたがそんな三春を他所に美鈴がさらに言葉を続けて話に肉付けを始めた。
「とある人と一緒に『リバース』が暴れすぎてるから壊そうってなったんですよ。だから頼まれなくてもどうせお兄ちゃんと私は『リバース』を倒す為に動いてたって訳です!今もその一環でここにいるんですから」
「他にも『リバース』を潰したい人がいるんですね……」
「そりゃそうだろ」
三春の反応に篶成がさも当然と言った表情で美鈴の代わりに言葉を繋ぎ出した。
「『リバース』は近年稀に見る暴れ馬だ。この街に思い入れのある奴、単純に強え奴を調教したい奴は『リバース』崩壊の為に動いてる。この街のイカれた住民らしいだろ?」
久志も言っていたのだが、この街の住居がイカれているという前提はなんなのだろうと三春は考えた。
トラブル前提の暮らしを強要されているのならおかしいとは思わないのだろうか?
例え偶然だとしてもそんな治安の街に住みたくは無いんじゃ無いだろうか?
しかしこの街の住民は逃げる所か、一部の住民は対抗までしている始末らしいではないか。
────なんなんだこの街……
三春は純粋な疑問を溢した。
自分の住んでいた田舎とは180度違う世界────
コンビニ屯するヤンキー被れを見れば誰でも逃げ出す。
しかしこの街の住民はそんなヤンキーと相対するらしい。
一体どこまで交戦的なのかと思わざる終えなかった。
「まあ、とりあえず話を戻してだ。お前はただ単に『リバース』を潰したくて俺達に話を持ち掛けてんのか?」
篶成がすっかり硬直気味になってしまった空気を変える為に先程の本題に話を戻した。
三春は今度はそこまで悩まずに言葉が出てきた。
起きてからずっと考えていた事。
堺家に来た時の当初の目標────『どのみち危険ならば強い人と共に』という気持ちは気付けば消えていた。
今はただあの少女を守る為に────
「僕は、連れ去られた凛さんを助けたいです」
三春が目標を打ち上げると横で基仁が面白そうに小さく微笑んだ。
三春はそれに気付いていない為、恥ずかしげもなく言葉をさらに続けていく。
「凛さんは僕が守るべきだったのに……守れなかった。だから取り戻します。責任は果たさないと」
「おいおい待て待て。女にカッコつけたいのはわかるがお前のその体格じゃ無理あるだろ?」
三春の言葉を遮り、思わず篶成がツッコミを入れた。
実際篶成の言った通り三春の身体は決して強そうには見えない。
火事場の馬鹿力で凛を攫った男を一度はノックダウンさせたが、それもたまたま当たりどころが良かっただけであり、それが毎回決まるかといえば決まるわけはない。
さらには『リバース』の構成員のほとんどがある程度の実力を持っているとするならば三春は手も足も出ないだろう。
しかし三春はそれを自分が一番理解しているとばかりに真剣な顔で小さく頷き、篶成に言葉を返した。
「だから街最強の何でも屋────篶成さんに暴れて欲しいんです。その隙に僕は凛さんを助けます」
「へぇ……」
三春の一言に篶成はわざとらしく微笑みあからさまに気分を良くした。
「街最強ねぇ……」
明らかに様子が変わった篶成に対して三春は何かまずい事でもしたのかと一瞬冷や汗を掻いたが、すぐにその汗は引き、代わりに驚きの汗を掻いた。
三春の身体は篶成に肩を回された事により、小さく揺さぶられていたのだ。
「いいねえ、お前いい感性してるぜ。そうだよなぁ?何でも屋でこの街最強と言えば俺だよな?」
三春は篶成に若干乱暴に揺すられながらまたもや久志の言葉を思い出していた。
『最強って呼ばれてるうちの一人だよ』
────もしかして最強って呼ばれてる人は篶成さん以外にもいるのかな?
三春はそんな事を思っていると篶成が答え合わせのようにある人物の名前を出した。
「浦河なんかより俺の方が強えよなぁ!」
突如として出された聞き覚えの無い言葉に三春は困惑しながらも、篶成の機嫌を損ねないように適当に愛想笑いをしていた。
どうやら浦河という人物の名前を出したら墓穴を掘ってしまうらしい。となるとその名前を出してしまえば、この話は無しになってしまったかもしれないので、浦河という人物を偶然教えてくれなかった久志に対して三春は心の中で感謝をしておいた。
「よし、気に入ったぜ。そうとなりゃ『リバース』潰しをするぞ」
篶成の先程のイラついた様子はもう何処かに消え果てており、三春のさりげない一言により完全に気分を舞い上がらせていた。
────何なんだろうこの有無を言わせない感じ……
斯して、街最強の歯車とか弱い少年の歯車が混じりあった。
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