30話 堺家騒乱(7)
必ず『リバース』の障害になると判断したハバネは再び立ち上がり、魔力を練り始める。
再び殺気が戻ったハバネに対して基仁は決して油断する事無く、しかし硬直する訳でも無い平然とした態度でハバネを待ち構えていた。
相変わらず左手は刀に添えられており、いつでも抜刀できるようになっている。
ハバネはそんな刀に注意を払いながら、恐らく今までに放出した事のない魔力量を足に貯め始める。
────コイツには今までのスピードじゃ追い付かれる。
ハバネは制御が効かない自身の魔力を抑え込む為、毎回その魔力量を程々に留めていたが、今回ばかりは相手が違う。
ハバネの意識に直接訴えかけられるように老人から放たれている独特な『圧』はハバネの緊張を増加させて行き、集中力を研ぎ澄まさせていく。
それを読み取っている基仁は、やはり焦る事は無かった。
それどころかその圧を押し留める事もせず、尚も緊張感を走らせその『圧』を増幅させている始末であった。
「何、そう構えるな。今のお前さんの若さで俺に勝てる事など万に一つもあり得はしない」
「減らず口を……!」
基仁の言葉を合図にハバネは足に一気に力を入れて思い切り床を蹴る。
先程とは明らかに次元が違う速さにハバネは、もはや視覚などには頼らず、直感のみで基仁との距離を測り、右の拳を突き出した。
しかしそんなコンマ数秒の世界で基仁は確かに────動いていた。
ハバネが床から足を離した瞬間に基仁は流れるように姿勢を落とし、同時に左手は刀を収納している鞘へと移動させ、右手を柄に回した。
そうして、その刀身が部屋の明かりを反射しながら姿を現す。
光は刀身が鞘から剥き出しになる程に強く輝き、その輝きは刀の切れ味をこれでもかと体現している。
基仁はある程度刀を抜き終わると、鞘を押さえていた左手も柄に移動させる。
しかしその柄の掴み方は何処と無く異様であった。
本来柄を握る右手と左手の間には拳一つ分の間が開くのだが、基仁の握り方は些か正式な握り方とは異なった。
基仁は拳一つ分の間など作る事はせず、右手と左手の間を詰めて刀を握っていたのだった。
本来なら力の掛け方が難しくなる握り方なのだが、基仁はそれを短所とは思わせない程に悠々と、流れるように抜刀を終え攻撃に繋げる。
そしてその刀は天を駆ける竜の様に上へと振り上げられ、ハバネから迫り来る拳を────腕ごと斬り落とした。




