25話 堺家騒乱(2)
玄関の破壊音は凄まじく、瞬く間に家内の者達に何が起きたのかという焦りが伝染した。
そしてその音に釣られ、玄関に辿り着いた者から順次ハバネの凶器とも言える拳に一人、また一人と意識を飛ばされていた。
どれも屈強な男達の筈なのだが、誰一人として彼女の拳に耐えうるものは無く、全員が成す術もなく倒れ伏していた。
「お前……本当に人間か?」
意識を失う寸前────堺家の一人がハバネに対してそんな質問を投げかけた。
するとハバネは少し笑いながらその質問に答える。
「そうかもな」
ハバネは言葉を言い終えると同時に相手の顔面に無慈悲な蹴りを捻じ込ませ、微かに残っていた意識を完全に沈めた。
家の中はハバネの侵入により、半ば混乱状態に陥っており、その話は遂に三春や凛のいる客室にまで届いた。
家内の者が情報を伝える為に扉を開くと、そこには突然の喧騒に慌てふためく三春とそれを見て呆れる凛、そして周りの焦りなどどこ吹く風と言わんばかりに堂々と座っている当主────堺 基仁の姿があった。
「何があった」
基仁は家内の者が部屋に入るなり目線を変えずに、当主の貫禄を感じさせる重々しい声色で端的に質問をした。
「家の中に『リバース』の者と思わしき人物が侵入をした模様で!どうすれば……」
焦りを抱いている家内の者とは真反対に基仁は尚も冷静を保ちながら言葉を返す。
「まずは落ち着け。これ以上家を壊されては修理代が馬鹿にならん。束になって取り押さえろ」
「わかりました!当主様と凛様はすぐに裏の車で──」
「俺が逃げるだと?凛はまだしも俺に対して馬鹿な事を言うんじゃない。そんな事を言っている暇があるならすぐに俺の部屋から刀を持って来い」
基仁は家内の者の言葉を遮り、さらにはその家内の顔を青褪めさせる言葉を口にした。
これには凛も驚いたのか、顳顬に少量の汗を掻いていた。
最もその驚きとは、基仁が出る事による相手側への心配であったのだが……
「しかし、当主様に何かあれば──」
「この家で一番強い男は誰か知っているか?」
家内の者の言葉を再び遮り、基仁はその家内の者の顔にグッと身体を近付けた。
老人とは思えない迫力と雰囲気に押されながらも、家内の者は顔を引き攣らせながらなんとか言葉を探す。
しかし基仁は質問した相手の答えを聞く前にその答えを相手へ放った。
「俺だ」
基仁の言葉に家内の者は未だに顔を引き攣らせているが、反論の言葉はその口から出ることは無かった。
基仁の持つ独特な雰囲気に完全に当てられてしまっていたのだ。
そんな家内の者の顔を見た後に基仁は相手から一歩引き、薄笑みを浮かべながら言葉を紡いだ。
「さあ、急いで刀を持って来い」
家内の者は踵を返して急いで基仁の部屋に向かって行った。
それを見送った後に基仁は視線を三春と凛に移動させて二人にも指示を出した。
「凛は裏口から逃げろ。お前が捕まり怪我でもしようものならあの世の上さんに顔向けができんからな」
「でも────」
「何案ずるな。愛刀を手にした俺に切れぬ相手など居やしない」
凛の気持ち的には「アンタが出向けば相手側に大怪我が生じる」という意味で言葉を発しようとしたのだが、基仁はそれを聞く前に言葉を遮ってしまった。
こうなってしまえば父は止められない。それを何より知っているのは凛の為、止めるのは小さなため息を吐くと同時に諦めた。
「久々にこの刀を手に取る日が来たな」
基仁のセリフは通常なら臭いセリフを使い回す時代劇が好きな老人としか思われないだろう。
しかし基仁は違った。
家内が混乱している中でも一人不気味に笑い、戦闘に赴く姿はまるで幕末の時代に生きていた武士を錯覚させる。
そして先程の部屋に向かわせた家内の者から刀を受け取るといよいよその立ち振る舞いは侍としか思えないものになっていた。
「では、参ろうか」




