24話 堺家騒乱(1)
時は三春が堺家で話し合いをしていた頃────
「ここが堺家か」
「立派な家っすねえ」
堺家にとっての悪夢が家の目の前にその足を運んだ。
『リバース』のリーダー、ライムの親衛隊の一人────ハバネは堺家の御令嬢を攫う為に、そして出来るだけ敵となる家内を戦闘不能にする為に敷地内にその足を踏み入れる。
「我々が今相対している敵の領地に実質単独で踏み込む。これ程燃える展開は無いな?」
「単独って……俺は含まれてないんすね」
部下の問いにハバネは心底意味がわからないという顔をして言葉を返す。
「何故戦力外を連れて行かねばならん?私の足手纏いで死にたく無いだろう?」
ハバネの言葉に部下は作り笑いを浮かべながらハバネに対して一歩分線を引いた。
「敵意も何も無い。寧ろ善意で言ってんだからほんと……まあ、ご武運を祈っときますよ」
「あぁ、大きな騒動になる前に片をつける。日本では短期決戦と言ったか?それでは」
そうしてハバネはどんどん領地にその足を踏み入れて行く。
ハバネが踏み入れた場所は三春達が入った駐車場とは真反対になるまさに正面であった。
歩く度にジャリジャリと不気味に鳴り響く砂利道を抜けて自分の家のように堂々とハバネは侵入して行く。
そしてドアの前で初めてハバネは敵と邂逅を果たす。
初めに気付いたのは堺家の人間であった。
本来ドアの前に人が待機していることなど無いのだが、たまたま外出から帰ってきた所で正門前に怪しい車を見つけたので玄関前に聳え立つ木の影に隠れて様子を見ていたのであった。
するとその車の主と思わしきハバネが屋敷に踏み込み我が物顔で玄関へ向かっていく。
木陰から見ていた堺家の人間はまずハバネの扇情的な服装に目を取られた。
肌の露出が多いチャイニーズ系の服を着ているハバネに堺家の人間はまず見惚れてしまった。
しかしその見惚れも手のひらを見てから一瞬で消え去る。
『リバース』の証である青い鳥の刺青。
ハバネの手のひらに彫られた刺青を見て様子を窺っていた堺家の人間は冷や汗を掻いた。
────どうして『リバース』の奴が俺達の家に!?
驚いている間にもハバネは着実に玄関に近付いていく。
堺家の人間はとりあえず部下に報告をしようとしたが生憎携帯は手元に持っておらず、家の中に居るものに連絡をするには目の前のハバネと同じ玄関から入る必要があった。
三春達と同じ駐車場のある裏門から入るには敷地外を回らなくてはいけない為、時間ロスが懸念され、さらにはどうせ裏門に行く途中に目の前のハバネに見つかってしまう可能性がある事を考えると彼は覚悟を決めた。
ジャリジャリと響く音が二つに増えた。
ハバネはすぐにその事に気付き、音の元凶と思われる玄関横に目をやった。
すると横の木陰から大柄な男が現れ、強固な城壁の如く玄関の前でその身を止めた。
ハバネはその男を見るなり口元に薄笑みを浮かべて男が抹消の対象である事を認識した。
それは男にとっても同じであり、お互いに異様な殺気を纏わせていた。
「そこ、通りたいのだが」
まず最初はハバネが歩きながら男に対して言葉を投げた。
「生憎だがうちの家内は全員鳥アレルギーでね。その右手の鳥を見るだけで蕁麻疹が出ちまう」
男が『リバース』の象徴とも言える青い鳥を嫌悪する言葉を返したが、ハバネはそんな煽りに怒りを駆られる事は無く涼しい顔でさらに近付いていく。
「それ以上来るってんなら女だろうと荒技で止めるぞ」
そんなハバネに対して男は腰を少し落とし、まるで空手の型のように両手を前に出し膝を曲げ、いつでも交戦出来るような体型を作り出した。
「私の方がお前より強い訳だが……止めれるか?」
次の瞬間────ハバネは大きく砂利を踏み込み、男の懐に身体ごと潜った。
────速ぇ!?
明らかに常人とは思えないスピードで懐へ潜られた男はすぐさま腕を腹の部分に戻し、防御体制を取る。
そしてその腕へ目掛けてハバネの強力な拳が叩きつけられた。
本来、拳を叩きつけられた程度では人間の身体は動くことがない。
余程の体格差があれば別の話だが、今この状況に至っては殴った側の方が身体が一回りも小さかったのだから。
しかし、そんな常識ごとハバネは叩き潰した。
男は殴られた衝撃を全身に受け、思わず背後で守っていた筈の玄関の扉に打ち付けられた。
なんとかまだ立っているが、あまりの衝撃に驚きを隠せず息切れをしている有り様だった。
驚くのも無理はない。
ハバネの身体は鍛えられているとはいえ、腹筋が特質して割れているわけでも腕の筋肉が目に見えるレベルで発達しているわけでも無かったのだから。
だからこそ、その身体から異常とも言えるレベルの一撃が放たれるのはおかしな事だった。
「丁度いい。玄関には鍵穴のようなものが見えたから蹴りでぶち破る予定だったんだが……お前の身体を使えば私は足を怪我する可能性もなくそのドアを壊すことが出来るわけだ」
「舐めるなよ小娘……!」
「あまり私を舐めるなよ小童」
ハバネは言葉を言い終えると同時に右足に少し助走をつけて蹴りのモーションに移行した。
男はそれより早く殴りかかろうとするがスピード勝負で彼が勝てる筈がなかった。
まるでサンドバックを蹴った後のような通常なら人体から鳴り響くことの無い鈍い音が最初に鳴り響き、その次の瞬間に扉が壊れる破壊音が鳴り響いた。
ハバネは一蹴りで男を沈めたのであった。
男はそのまま気を失ったらしく、ドアの破片と共に玄関に寝そべっていた。
その男をまるで絨毯のように踏みつけてハバネは家への侵入を果たす。
「お邪魔しますっと」




