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The Rampage 2021 - The Beginning of the Rampage!!!  作者: 冬野 立冬
一章 beginning
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20話 堺家(3)


 結局三春(みはる)は流されるがままに客間に正座をしていた。

 部屋に案内される途中、案内人に先程の話は盛り過ぎだと弁解しようとしたが案内人は「自信を持て」と謎の励ましを送るばかりで、根本的な勘違いは全く良い方向に転ばなかった。

 そればかりかあっという間に家内の者達に三春の噂は広まり、時々部屋の中を覗きに来る者が跡を立たない始末であった。


「人気者ね。諸葛 孔明さん?」


 そんな三春の気持ちを知ってか凛は相変わらずニヤニヤとしながら自身が年下にも関わらず三春をいじっていた。


「僕……今から死ねる自信あるよ」


「死すら(いと)わずに堺家を勝利に導くなんて流石ね?」


「ちょっと!」


 明らかに嫌味満載の凛の返事に三春はすぐにツッコミを入れようとするが、部屋の外から覗いていた家内の者の感嘆の声を聞いてその言葉は綺麗に遮られてしまった。


「取り返し付かないんだけど?」


「勝てば良いじゃない。脳みそを働かせなさい」


「そんな無茶な……」


 明らかに凛はこの状況を楽しんでいるようで、駅や車の中では一切見せなかった笑顔が眩しいほどに煌めいていた。

 もっともその笑顔は三春にしたら暗雲極まりないのだが、凛にそんな事は関係ない。

 凛にとって今の三春は正直な所お荷物そのものであり辛辣(しんらつ)な事ではあるが邪魔なのである。

 囮役を買って出ると言った所は別に良いが、敵の構成員が把握できていない以上囮として機能できない可能性は充分にあり得る。

 それ故に凛は三春の事をまだ共に戦う仲間とは認識していなかった。



「失礼する」



 凛と三春が他愛もない会話を続けていると、ドアの向こうから重みのある言葉が響いた。

 普通の声の筈なのにやけにその声は部屋に響き、空気を一変させたと誤認識させる程に重々しい言葉だった。

 三春はドアの向こう側から声をかけた人物が誰なのか容易に想像が付いた。


 ────凛さんのお父さんだ……


 三春は一度大袈裟に唾を飲み込み、床に適当に遊ばせていた足を正座の体型に直し座り直した。

 三春がチラッと横を見るといつの間にか凛も正座をしており、やはり当主の人なのかと再確認した。


 目線を障子(しょうじ)に向けるとその障子が(おもむろ)に開かれ、段々と声の主が姿を表した。

 白い髭と白い髪を携えた老齢な男。

 しかしその雰囲気は弱々しいものなどでは断じて無く、見るものに無条件で圧力を与えるような筆舌に尽くし難い独特の気配を纏っていた。

 当主は部屋に入るなり、(はかま)の襟を直しながら三春の席の目の前にその身体を下ろした。


「此度はよくぞ来てくれた。歓迎しよう。早速で悪いが今家内は満身創痍(まんしんそうい)でね。是非君の意見とやらを聞きたい」


「えと……」


 三春は完全に口が曇った。

 相手の圧力を受けて今更そんなものはありませんなどと言えなくなってしまった。

 もしここでそんなものを言おうというのなら首が飛ぶ。

 そんな気配を三春は目の前の老体から感じ取ったのだ。


「何、緊張などしなくても良い。しがないご老体の哀願(あいがん)だ」


 無理がある。

 そんな事を三春は心の中で呟いていた。

 哀願などではない。

 目の前の老体が発する言葉は無条件で命令に聞こえる。

 どれだけ優しく言葉を紡ごうが、その裏にある禍々(まがまが)しい雰囲気を悟ればその言葉は凶器と化す。

 三春は完全に相手に心を呑まれていた。


「ふむ……人と話すのが苦手かね。困ったな」


 当主は固まる三春を見て白い髭をいじりながら目線を横に移動させた。

 その視線の先には凛がいた。


「凛よ。何処で彼と出会ったのだ」


「『リバース』に追われてる時にたまたまよ」


 凛は三春とは打って変わって実の父親の為、慣れているというのもあると思うが緊張感を全く感じさせずにさらりと答えた。

 しかしその返答は些か説明不足じゃないか?と三春は心の中でツッコミを入れていた。

 正確には巻き込んでしまっただろうと三春は思っていたが雰囲気に声を殺されてその思いが言霊に姿を変える事は無かった。


「そうか。では、君もあの組織に命を狙われていると言うわけか」


「えっと……そうなりますね」


 ────僕の馬鹿!


 雰囲気に完全に呑まれた。

 実際命を狙われているのは間違いでは無い。しかし説明不足にも程がある。


「そうか。お互い不憫(ふびん)だな」


 老人の言葉に三春は「そうですね」と愛想笑いで返した。

 しかしその愛想笑いは一瞬で消え去る。


「して、策とやらは」


 三春は泣きたい気持ちに駆られた。

 老人の視線は三春を捉えて離さなかった。

 対して三春の目線は回遊魚のように泳ぎ回り老人の事など全く見えていなかった。

 そんな悠々と泳ぎ回る目線を見て老人は口元を少し歪ませて三春に声をかけ直した。


「策など無いのだろう少年?」


 ────!?


 図星だった。確かにそんな策など言い出した覚えもないし、ある訳もない。

 しかし────何故この老人は考えを読み取れたのだろう?

 目線が泳いでいたから、口が曇ってしまったから、実は自分が弁解しようとしていたところを見ていたなど様々な予測が三春の頭の中に飛び交うがそのどれも的外れであった。


「何、長く生きていれば人の目を見るだけで心が読み取れるようになるさ」


 そんなわけあるかと三春は思ったがこの老人にはそれすらも可能だと思わせる独特の雰囲気があった。

 それ故に三春は信じ難い老人の言葉を最後はすんなりと受けいれた。

 そして不思議な事に間に受けてから三春の言葉はスルスルと出てきた。

 何かが吹っ切れたのか三春の先程から続いていた辿々(たどたど)しい物言いは気付けば姿を潜めていた。


「あの、当主さんの言う通り策なんてありません」


「当主さんは辞めてくれ。名を基仁(もとじ)と言う」


「その……基仁さんの娘さん、凛さんに僕は『囮役になる』という事で付いてきました」


 自身の言葉を流れるように紡ぐ三春を凛はふーんと言った顔で見ていた。


「囮役とな?囮役って事は囮に使われてる間に誰かが仕留めるという事かな。それは誰を指名するつもりだ」


「今の所…… 沙羅(さら) 篶成(すずなり)さんに頼もうと思っています」


 三春の言葉から放たれた言葉に凛は大きく目を見開き、驚きを露わにした。

 凛だけではない。

 障子の裏でコッソリと聞き耳を立てていた家内の者達も思わず声を上げて驚きを露わにした。

 そして目の前の基仁と名乗る老人は────笑った。


「あの暴れん坊を使うか。しかし金はあるのか。あいつは身内以外には何十万単位の金を容赦なく請求する男だぞ」


「それは……バイトで何とか……」


「バイトですぐ払える額じゃないでしょ!」


 思わず凛がツッコミを入れるが、それを基仁はさらに笑った。


「ふむ。策士とやらではないが場を掻き乱すスタンドプレイヤーとしては面白い人物だな」


 基仁は床から立ち上がり障子に近づいて行った。

 何をするつもりなのだろうと三春は呆けて見ていたがすぐにその呆け顔は正された。


「金は案ずるな。俺が出そう。そうと決まれば戦準備を始めなければな。私は家内の者達を一旦呼び寄せ兵を作ろう。君はすぐに沙羅へ連絡を図れ」


「はっ、はい!」


 三春はすぐにその場で鞄から携帯を取り出し、沙羅という人物への連絡を図ろうとした。

 しかし────


「車の中に携帯置いてきちゃった!凛さん、さっきの運転手の人いる!?」


「いるけど……本気なの?」


 凛の(いぶ)しむ表情とは裏腹に三春は生き生きとした顔で頷いた。

 先程のおろおろとしていた態度とは信じられない程に変わり果てた顔に凛は困惑を覚えた。

 何が今の三春を突き動かしているのはわからない。しかし今の三春は実に頼りになる気がした。

 そうして歯車が大きく動き出そうとした瞬間────


 家の一部分に大きな()()()が響き渡った。


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