17話 情報屋(1)
阿波内 久志を一言で紹介するならば『情報中毒者』という言葉以外存在しないだろう。
頭の中には常に新たな情報を探りたいという好奇心が存在しており、その好奇心は友人と話している最中も止めどなく上昇し続ける。
目の前の彼はいつ生まれたのか?彼はなぜこの街にやって来たのか?どこに住んでいて、どうこの街の歯車になっていくのか?彼の情報への貪欲さは尽きることを知らない。
久志は昔から情報に囚われていた訳ではない。
彼が情報に囚われ始めたのは今から数年前────札幌で最も信頼できると言われていた情報屋に引き取られた時が彼の人生のターニングポイントであった。
久志の両親はある事件に巻き込まれ、彼が幼い頃にその命の灯火を失っていた。
そこには情報屋が絡んでいた。
久志は持ち前の頭の良さと子供ながらの人当たりの良さを駆使し、ネットに散りばめられた噂話などを集め『顔が無い』とすら言われていた情報屋へ自力で近付いた。
久志が情報屋へ話しかけた時、その情報屋は酷く驚いていた。
当時子供の久志がどうやって自分の正体を掴んだのか。
その歳で既に街の裏に踏み込んでいたなど理由は様々である。
そして、次に放たれた久志の言葉にさらに情報屋は驚きを露わにする事となる。
「×××事件で俺の母さんと父さんの死因を間接的に作った情報屋だな」
なぜその事件を?という疑問を抱いたのは確かだ。
しかしその事件はあまりに綺麗に片付いた事件だった。
情報屋、街のヤクザ、何でも屋、とある一家の傭兵────全ての歯車が綺麗に重なり起きた事件。
あまりに綺麗に終わった事件が故に、証拠という証拠は残らず、警察が最終的には手を引いた程だった。
その事件の足跡をこの少年は突き止めたのだ。
そして今、その少年は事件の足跡を僅かに残した人物に対して質問をしているのだ。
情報屋は思わず、そんな少年に質問をする。
「どこで調べた」
「情報屋なんだろ?調べてみろよ。俺みたいな餓鬼に尻尾掴まれる情報屋なんてたかが知れてるけどな」
少年とは思えない殺気と雰囲気を纏った久志は情報屋に対して冷酷な口振りで言葉を返す。
しかし情報屋はそんな口振りに怖気付く所か、笑いながら久志に言葉を返した。
「お前さん。この街との相性が頗る良い様だな」
「あ?」
「その事件について俺はお前に話す義務がある。お前さんの両親が如何にして殺されたのかを話す義務がな」
情報屋は淡々と言葉を紡ぎ、そして最後に久志を本格的に裏の世界に入り込ませる言葉を吐く────
「ただしお前さんが俺の後釜になるならの話だがな。俺には後継者が必要でな」
「は?」
時は進み現在────
「成る程。これが今の堺家の内情って訳ね」
久志は自室の巨大なモニターにマウスの矢印を走らせながら目を細めて画面に映る情報を貪り食っていた。
「にしても女性が少ないとは聞いてたけどまさか三春を連れ回してるお嬢ちゃん一人だけとは。男の中で育った女は面倒臭いからな……三春も難儀なこった」
何処となく無責任な事を言いながら久志はさらに画面を進めていく。
普通のサイトでは辿り着けない情報を久志はスルスルと頭に入れていく。
車のナンバープレートからの個人情報特定、家系図、抗争のきっかけ、噂話……必要な情報は余す事なく頭に入れていく。
そんな中でいよいよ三春を連れて行った女性が堺家の御令嬢と知ると久志は大きなため息を吐いた。
「『リバース』のなんか偉そうな奴に場所教えちまったなあ……三春の奴まさか堺家に向かってないよな?」
自身の行動にため息を吐きながら、久志は街の監視カメラの映像を盗み取り、二人の行方を探す。
久志のパソコンは外部ツールなどがこれでもかと言うほど取り込まれており、必要な情報はほぼ確実に手に入る。
監視カメラはもちろん、店の情報やその店の購入情報……情報入手に使うツールは全て揃っているのだ。
下手をすれば犯罪紛いの事をしているのだが、久志の師匠曰く「情報屋は何をしてもこの街では許される」との事なので久志は特に気にせず情報を漁っていた。
「もし『リバース』の奴らが堺家を襲撃しようとしてんなら俺は随分と余計な真似をしちまったな。まあこれもこの街の縁ってやつだな」
久志は画面に映る三春ともう一人の女性を見つけると目を細めて深刻そうな表情とは裏腹に、何処か期待を含んだような声色で独り言を呟く。
「友達になったよしみだ。手助けはしてやる。でもな、こんぐらいの事はこの街に住むなら乗り越えないとな?三春」
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