16話 何でも屋(2)
篶成、美鈴ペアが動き出した頃────
────あぁ、面倒だなあ……
不死者であり魔術師を名乗る『リバース』の設立者、ライム・ノルウェーツの横で懶惰な事を心中で呟いている人物が居た。
ライムは特に信頼を置いている人物三人を親衛隊の様に配置しており、彼はその親衛隊の一人に任命された人物であった。
最も、彼は全くライムの事など信頼していないのだが……
彼────ウィル・レヴィーは何でも屋を営んでいた。
海外、主にイタリアで活動している何でも屋なのだが、ある日そんなウィルに偽名でとある依頼が手紙という形で舞い込んだ。
依頼はライム・ノルウェーツという男が日本で作っている組織の内情を調べて欲しいというものであった。
依頼主の名前がラララートという明らかな偽名であった事や、わざわざ日本まで行かなきゃ行けない事を含めてウィルは最初は面倒に思い手紙を破いてゴミ箱に捨てようとしたが、最後の一行でウィルの心が大きく揺らいだ。
『依頼を受けるのならば毎日三万円を支払おう』
よってウィルは速攻で荷物をまとめて遥々日本まで足を運び『リバース』への潜入を果たした。
しかしその選択は最悪に等しかった。
何故かわからないがライムはウィルを気に入り、何百人といる『リバース』の中で親衛隊に任命されてしまったのだ。
親衛隊はウィルを含めて三人おり、残り二人はライム同様、怪しい魔術を使う人物であった。
名をトーチカとハバネと言い、どちらも外国人の女性である。
ハバネはウィルとは違って心の底からライムを尊敬しており、常にライムの為に動いている人物である。
一方トーチカの忠誠心はハバネ程のものではなく、ただライムの計画が面白そうだからという理由で付いている節が見えた。
ハバネとトーチカは昔からの知り合いらしく、しょっちゅうハバネがトーチカに対してライムの事を語っては、トーチカが興味無さそうなしている様をウィルは目撃していた。
二人の特徴といえば、先程も書いた通り、ウィルが使えない魔術を使う点である。
例えばハバネであれば『身体強化』。
体の身体能力を一時的に底上げし、常人では不可能な力を発揮する魔術である。
トーチカは身体強化、さらには幻影を見せる魔術を使えるらしいのだか、ウィルはまだその力を使っているところを見た事が無かった。
このように親衛隊は基本的には魔術因子を予め持っているのである。
だからこそウィルは疑問を抱いていた。
────どうして魔術なんてとんでも技が使えない俺が親衛隊に?
そんな事を考えながらウィルは暇潰しに夜のすすきのを歩く。
辺りは同胞に塗れ、何処を見ても青い鳥が視界に入り込む。
街の灯りが届かない裏路地ではそんな青い鳥が暗闇の中で仄めかしく輝き、まるで空を飛んでいるように見えた。
そんな同胞達の合間を縫ってウィルはあるビルの地下へとその足を向かわせた。
今はどの会社も使っていないビルの地下には人がほとんど入り込まず、悲しい雰囲気が漂っているが、ウィルにとってそのビルは最高の場所だった。
ウィルはポケットから携帯を取り出し徐に番号を打ち込み依頼主への連絡を図り始めた。
毎日の定期連絡────これが一日三万円を貰う条件であった。
これを怠れば三万円は振り込まれないのでウィルは毎日真摯に電話を掛けていた。
しばらくすると依頼主が電話に応え、ボイスチェンジをしたかのような異様に低い声で【今日の報告を】と呟いた。
「特に異常なし。問題は明日だな。ライムがどう動くか」
【監視を続けてくれ。この後金は振り込んでおく】
「毎度の事どうも。今後もどうぞご贔屓に……」
ウィルはいつも通りの会話を終えて電話を切ろうとしたが、ふとした気まぐれで質問を投げかけてみた。
「なあ、あんたのその湯水のような金はどこから湧いてんだ?宝くじにでも当たったのか?」
ウィルの質問に対して電話の向こう側の相手は黙ったままなので、ウィルはついでに言葉を付け足していく。
「それにライムに対してそんなに金をはたく必要はあるかね?俺は無いと思うんだが……過去になんかあったとかか?」
【依頼内容に私の詮索は含まれていたか?金を途切れさせたく無いのなら黙って働け】
「おお……気に障ったならごめんよ。安心してくれ。俺は仕事はキッチリと熟すナイスガイだからな」
ウィルがジョークを言うと同時に相手側が強制的に通話を切り、ウィルの耳には電話が切れた時に鳴るプー、プー、プーという音が鳴り響いた。
────ジョークの一つも笑わねえのな。
ウィルは依頼主にそんな感想を抱きながら無人のビルを後にする。
外はまだ春の暖かくも、どこか冬の冷たさを孕んだなんとも言えない風が吹いていた。
気を抜けば風邪にでもなってしまいそうな北海道の風は服の隙間から入り込み体温を奪う。
そんな奪われた体温を取り戻すようにウィルは足速にアジトへと戻る。
青い鳥の合間を縫う様に────ウィルはこれから被る不憫な出来事など知る由もなくステップを刻んでいた。
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