14話 歯車が動き出す(11)
三春と凛が協力を結んだ同時刻────
「こりゃ酷えな」
「いっぱい居るね〜」
すすきの駅の近くにて、一台のバン車が街の様子を眺める様に止まっていた。
バン車の中には杏梨と修哉を始めたとした、バンド仲間三人が乗っており、車内には楽器関係の物が積まれているのでかなりぎゅうぎゃう詰めの状態でメンバーは乗っている。
元々修哉らが乗っているバン車は楽器を運ぶ用の車なので狭い事は致し方ない事であり、ツアー中は基本この狭さで移動しているのでメンバーは慣れているのか、特段愚痴をこぼす様なことはしなかった。
そんな車の窓を開けて『リバース』の様子を比較的余裕のある前部座席に座っている修哉と杏梨が覗いていた。
すすきのを歩く人間の大半が青い鳥の刺青を右手に携えており、まさにその光景は異様としか言いようが無かった。
刺青をしていない人間には突如肩を回し、走って逃げられない様にしながら『リバース』への勧誘を勧めている。
これじゃただの迷惑宗教だなと修哉は心の中で呟きながらとりあえず街の中をバン車でゆっくりと走らせ観察していた。
「ここまで人数揃ってたらそりゃ警察も手こずりますね」
バン車の後ろに座っているバンドのベース担当の灰田と呼ばれている男も後部座席の窓からその異様な光景を見つめて、思わず感想を漏らした。
「こんな奴らが暴行事件……さらには殺人紛いの事まで起こしてるのはちょっと怖いな」
そんな灰田に続く様に同じバンドのドラム担当の池尻と呼ばれている男が言葉を外の『リバース』の面々に抱いている感情を吐き出した。
今のところ暴行を働いている所は目視出来ていないが、何十件も暴行をされたと噂では聞いている。
さらには警察も暴行が原因で何度も現場に駆り出されていると聞いているので、人目につかない所で陰湿に暴行を働いているのだろうか。
そんな事を思いながら修哉はバン車をゆっくりと走らせつつ今後の予定を思案した。
「どうする?この人数は俺達じゃ手に負えねえぞ」
右を見ても左を見ても『リバース』の面々が必ず視界に映り込むので今現在すすきのには『リバース』のメンバーは間違いなく百以上はいるだろう。
それを修哉達だけで収めるというのには些か無理があった。
さらに────
「俺達って……いつも手を焼いてるのは修哉さんだけっしょ。俺らはただ見てるだけなんすから戦力に数えんで大丈夫っすよ」
最後のバンドメンバー、リードギター担当の津田と呼ばれている男が修哉の言葉に半笑い気味にツッコミを入れた。
津田の言う通り実際戦うのは修哉だけなのである。
修哉が街の荒らしを殴り付けているところをメンバーはほぼ傍観しかしない。
この前に起きた騒動では「暇だから」という理由で敵のアジトで楽器の調整を始める始末であった。
このように修哉の強さを信じているからと言えば聞こえはいいが、基本的に周りのメンバーは手を出さないのである。
しかし修哉はこの事を特に諫める事はなかった。
修哉は最近ようやく出世街道に足を踏み入れたメンバーに対して暴行罪なんてくだらない枷をつけさせてはいけないと思っており、「手伝え」なんて言葉は絶対に口にする事は無かった。
「まあ、とりあえず親玉を倒すのがこの手の輩は早いけどな。ここまで外に人数がいるとなると、こいつらのアジトにも相当の人数がいそうだな」
修哉はそう言いながらポケットから携帯を取り出し、慣れた手付きで電話帳を開いてある人物の電話番号を探す。
すると横にいた杏梨がどうするのかを察したのか修哉に楽しげに言葉を投げる。
「おっ、何でも屋に頼っちゃう!?」
「まあ、久しぶりの再会も兼ねてな」
修哉は楽しそうに電話帳を漁り、やがて一つの電話番号に行き着くとその手を止めた。
電話帳の名前登録には沙羅 篶成の名前が書かれており、修哉はその番号をタッチすると同時に耳元に電話を持っていった。
ワンコール、ツーコールと車内に電話が鳴り響く。そして────
【こちら札幌何でも屋です。ご用件をどうぞ】
名前とは相反する様な可愛らしい少女の声が電話越しに響き、用件を聞いてきた。
何でも屋の想像とは似ても似つかない。そして何処か憎めない、なんなら愛おしい程に可愛く、さらには透き通った声に大半の人は初見で本当に何でも屋なのか?と驚くが、修哉は驚きもせず言葉を交わす。
「久しいな美鈴。修哉だ。篶成はいるか?」
【修哉さん!お久しぶりです!お兄ちゃんですね、今変わります!】
二人はどうやら顔見知りらしく、修哉の名前を聞くなり可愛げな少女の声はフェードアウトし、同時に低音が冴えた男の声が響いた。
【よう修哉。何の様だ】
何処と無く冷たく、そして初見ならば怒っているのかと思う程、本能的に『怖い』と感じさせる声が電話越しに響く。
しかし修哉はそんな雰囲気に言葉を曇らすどころか楽しげに会話を始めた。
「久しぶりだな篶成。久しぶりに会うついでに依頼をしたいんだが今日の夜は予定あるか?」
【ねえ……よな?美鈴】
【無いですよ】
【らしい。修哉の頼みだ。料金は三割引きにしてやるよ】
小さい声で少女の声も聞こえた為、近くに待機しているのだろうかと思いながら修哉は依頼の内容を口にした。
「それはありがてえな。とりあえず内容なんだが、俺の手伝いをして欲しいんだ」
【喜んでやってやるさ。内容は?】
「最近すすきのを荒らし回ってる『リバース』をボコる。楽しそうだろ?」
修哉の言葉を聞くなり篶成と呼ばれている通話相手は酷く笑いながら言葉を返した。
【いいね!勿論やるさ!金はやっぱいらねえ。今度美味い飯でも奢れ。具体的に何をすればいい?】
「そうだな……とりあえずすすきのに来て暴れてくれ」
【はいよ。今そっちに向かう】
電話が途切れプー、プー、プー、という音が車内に響いた。
修哉は電話をポケットに仕舞いニコニコと笑いながら篶成の到着を待つ事にした。
「なんで暴れてくれって?」
そんな修哉に後部座席の灰田が通話の疑問点を聞いた。
「私も知りたい!」
灰田に続いて杏梨も質問をし、修哉は徐に説明を始めた。
「とりあえず人員を割く為だな。あの人数相手ならある程度数減らさねえとどうしようもねえ。しかもすすきのにいる奴らが篶成にやられたってなりゃ組織も慌てるだろ。それで『リバース』の上に位置するやつが出て来てからが本番だ」
「というと!?」
「こんだけの組織だ。上層部的なのは必ずいる。その上の奴を拉致ってアジトを聞くってわけだ!」
一本の通話により、街最強の歯車が動き出す────
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