13話 歯車が動き出す(10)
「囮役を買った所で勝てる保証なんて無いわよ」
「何もしないよりマシだよ……君の、この街の言う『空気』に成り下がりたくないんだ」
三春は少女から視線を離さず言葉を続けていく。
「僕は自分変えたいんだ」
三春の突然の独白に少女は何の事だろうと思いながらも妙に強い眼差しから目を逸らす事が出来ずに黙って三春の言葉の続きを待った。
「田舎育ちで内気で弱々しくて……自分で決断も出来なくて鈍間で……そんな自分を……この街で僕は変わりたいんだ」
三春の独白を聞いた後に少女はため息をつきながら言葉に反論した。
「人が変わるのなんて簡単じゃないわよ」
「大丈夫だよ。それは僕が一番よく知ってるから」
三春の言葉には妙な説得力があり、少女は思わず反論の言葉を失ってしまった。
三春は先程とは別人のように意思が強い人間に見えた。弱々しい態度は変わりないように見えるが、何処と無く今の三春には『芯』があるように感じたのだ。
そして少女はそんな三春の雰囲気に負ける形で仕方なく、先程の提案の了承を口にした。
「わかったわ……でも、足手纏いになるのなら容赦なく見捨てるから」
「酷いな……」
「自分の身は自分で守る。だから自分達の街も自分達で守る。これが堺家の教えよ」
「堺家?」
「堺 凛。それが私の名前よ」
三春は相手の名前を聞いた時にふと自分も自己紹介をしていないと思い、強い眼差しを優しいいつもの眼差しに変えて右手を差し出した。
「僕は東堂 三春。よろしく」
自己紹介をした三春の手を凛は握る事はなく振り返り階段に歩き出した。
「えぇ!?」
三春は華麗にスルーされた事に若干のショックを受けながらも凛の後ろ姿を追った。
すると凛はそんな三春に背中で語るように振り返らないまま言葉を紡いだ。
「握手は『リバース』を潰してからよ」
そんな凛の言葉に三春は納得したように笑いながら凛の後ろに着いた。
大きな歯車が一つ回り始めた────
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