12話 歯車が動き出す(9)
────さっぽろ駅にて。
「アンタ何言ってんの!?」
清々しい程の罵声がさっぽろ駅のホームに華麗に響き渡った。
三春は見栄を張るために、一緒に『リバース』を潰さないかという提案を持ち掛けたが、それを目の前の少女は真っ向から否定した。
しかしそれは当たり前と言って良かった。なんせ三春に戦闘能力など皆無なのだから。
さらに言えば話しているだけでタジタジな三春を戦力として捉えるのには些か無理があった。
「ゲームでいう市民Aみたいなアンタがあの暴力集団を潰す!?冗談でも笑えないわよ!」
「うっ……」
少女の言葉に三春は再び固まり言葉を言い返せずに、その場に硬直している。
しかし少々は容赦なく三春に言葉を投げつけていく。
「まさか一人が怖いからとかじゃ無いでしょうね!?嫌よ!私が巻き込んだ側だけど匿うのは絶対に嫌よ!この街の住民なら一人で生き延びなさい!」
図星であった。一人が怖い事に関して三春は何の言い返しも思い付かなかった。
最も三春は思い付いたところで何も言えないのだが……
────ぐうの音も出ないとはこの事だなあ……
三春は少女の言葉にいよいよ反論が思い付かず、結局また固まり完全に言葉を失っていた。
「アンタが戦力にならない事なんて見たら分かるのよ。そんな奴をわざわざ匿うなんて無理よ」
少女が放った無慈悲な言葉に三春は完全に一緒に潰そうなどとぼやいていた時の勢いはもはや見る影もなく、終いに三春は目線すら逸らしてしまっていた。
「この街で空気にならずに生きるって事はそういうことよ」
少女は三春に背を向けてさっぽろ駅から地上へと出る階段へ向かい始めた。
そんな背中に三春は心の中で不平を募らせる。
────この街に来たばっかりなのに……わからないよ。
────僕はただ……都会に憧れていただけなのに。
そんな事を思っている間にも仕事帰りのサラリーマンや街の人々が三春の横をまるで何も感じていないかのように通り過ぎていた。
それはまるで三春が空気とでも言うように見え、三春は益々不平を募らせる。
────全員……狂ってるよ!
三春は自身の拳を固く握りしめながら少女の跡を追い始めた。
厄介払いされるのは目に見えている。
しかし三春の心の中にある感情が芽生えだし、その感情が止まる事を許さなかった。
彼もまた、知らぬ間にこの街の空気に汚染され始めているのかもしれない────
「僕が役に立つ方法は……あるよ」
「え?」
尚も食い下がらない三春に少女はまた来たか……という表情で振り返り、三春の事を見つめる。
三春の目には何らかの覚悟が宿ったような強い眼差しが備わっており、その眼差しは目を逸らす事を良しとしないような言葉にできないような強さがあった。
そんな眼差しに少女は真っ向から向かい合い、言葉の続きを待つ。
「囮役……なら喜んで買えるよ」
二人に対し、周囲の人が不思議そうにまた視線を送り始めた。




