11話 歯車が動き出す(8)
久志の記憶力は、常人と比較すれば何十倍も優れている。
学校のテストでは一夜漬けなどしなくても、学校で教科書をサラサラと読み進めればほぼ九割は取れるレベルの記憶力を持っているのだ。
何故難関大学に行かなかったのかと聞かれれば、授業を受けるのが大変面倒だと久志本人は言っている。
彼曰く「すすきのにある専門学校に一先ず通って、取り敢えず街の行く末を見れればなんでもいいのさ」とのことだ。
なぜわざわざ専門学校なのかと言えば、家から最も近い学校という理由だからである。
話を戻して彼の記憶力に関してだが、その常人離れした記憶力で彼は相手型の電話番号、顔、名前など全て記憶しているのだ。
彼の師匠はそんな久志に「いつか脳を壊すぞ」と忠告していたが、久志は何処吹く風と言った表情で「情報屋に必要な事はなんでも頭に入れるって決めてんだ。むしろ褒めて欲しいね!」反抗する言葉を返している。
しかし今回は久々に見慣れない電話番号から電話がかかってきた。
情報屋に電話をする人間は基本的に裏社会に足の底をつけている人か、裏社会を嗅ぎ回るハイエナのような人物の二択である。
そして大抵この手の見た事もない電話番号は、情報屋の噂を聞いていたずら半分で電話をして来る大学生か、新しくこの街に踏み込んだ新参者なので、久志は若干顔を不快にさせつつも、何処か面白い事を運んでくれるという、微かな期待を胸の中に抱きながら電話に出るボタンを押した。
結果、それは久志にとっては僥倖としか言えない程の内容であった。
「はい、こちら情報屋!あなたの求める情報を迅速丁寧にお伝え致します!」
【本当に情報屋がいるとは……一つ仕事を頼みたいのだが構わないか?】
「ええ、内容によって料金は変わりますけど」
【料金はいくらでも構わない。堺家という家ついて聞きたい事がある】
久志は堺家という単語を聞いた瞬間から、この街に厄介ごとを運ぶ最高の客が来たと思い、口元を思わず歪めて相手の求める情報をさらに細かく聞いて行く。
「構いませんけど、もっと知りたい情報を具体的に教えて頂けると助かります」
【知りたい事はその堺家の場所だけだ。歴史についてなんぞ興味は無いから省いて貰って構わない】
「了解……料金はそうだな……二枚でどうです?」
【構わない】
「それでは────」
久志は頭を空いた手で軽く叩きながら、記憶の奥底に眠る情報を引き出し始める。
無数の歯車と文字の羅列を抜けて、堺家というアンサーへ記憶の海を泳ぎ、そしてその場所を思い出す。
「家は東区、元町で降りれば近い。住所は×××だ。何をするかわからないけど、まあご武運を祈ってますよ」
【ありがとう、料金はどうすれば?】
「これからあんたのメールに指定の番号を送るからそこから入金してくれ」
【ではアドレスを教えよう。×××だ。送ってくれればすぐにでも入金しよう】
「そりゃ親切に。それじゃあ俺はこれで。またのご利用、心よりお待ちしております〜」
【ああ、助かった】
プー、プー、プーと電話の切れた音が鳴り響き、久志の耳元には静寂が訪れる。
────堺家を追う奴ね……?
久志は今の電話相手を考えながら、地下鉄を待ち続けていた。
────街でそこそこに名を馳せている一家とは言え、わざわざ家まで向かう物好きなんているのか?
────あそこにはそこそこ強い屈強な男達が揃ってる筈だろ?何の為に行くんだろうな。
そんな事を考えている最中、久志は数ある情報の中からある事を思い出した。
しかしそれは久志の顔を幽鬼の様に白くする考察であったが────
────そう言えば『リバース』と堺家が抗争をしてたって言ってたっけな。
────そういやさっき『リバース』の奴らが何かを追ってたよな……?
────おいおいおい、まさか三春のやつそれに巻き込まれたとかじゃ無いよな?
先程までのピースが突如嘘のように型に嵌り、久志の脳を活性化させていく。
────いや、とりあえず一緒にいたあの美人の事を探るしかねえ。堺家に女は少なかった筈だしすぐ情報は掴める。
────クソッ!ここに来て情報不足かよ!
久志はホームで足を小刻みに上下させながら事の面白さに胸を躍らせる。
それはまるで玩具を与えられた子供のように。
────これだから情報が無いと窮屈なんだ!
────あぁ!これだからこの街は飽きないんだ!
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