二三話 寵愛
カラスの少女に肩を持ってもらい、目的の機械のある場所へと移動をした。
そこにはSFチックなポットが並んでいた。
「持ってけ」
「これでご主人が助かるそうですね。やりましたね」
「こんな大きなものをどうやって運ぶんだ?」
「ん? 飛びますよ。地球までの方角は分かりますので」
飛ぶ? ワープの事だろうか?
「行きますよ」
少女が機械を一つ持った。おいおい。まさか、このまま宇宙に行くという訳じゃないだろうな。
怖くなって念の為に外気の空気を凍らせて、即席の宇宙服を作った。
「うわあああああー!」
嫌な予感は的中し、高く飛び上がった。よく見ると少女の背中に黒い翼が生えている。形容するなら堕天使っぽい姿になっていた。
「あっ。そうだ。私の名前をまだ言ってなかったですね」
こんな状況なのにさっきまでと同じように話しかけてくる。
「私の名前はクロウです。ご主人が付けてくれたんです」
「まんまじゃねえか!」
「何か言いましたか? 聞こえませんでした」
カラスの名前がクロウってただ英語にしただけじゃないか。犬にドッグと付けるのと同等のネーミングセンスだぞ。こんな低レベルの文秋が名付けたはずはない。
だって、チーム名の『縫』は英語に直訳するような安直な考えをする人間から生まれる名前ではないからな。
そうこう考えている内に宇宙に到着していた。
辺りの星々が光り、綺麗に見える。
「これから三十分ほどで地球に戻ります」
「早くないか?」
「ええ、身体能力が違いますから」
クロウが羽を広げる。宇宙空間では翼は物理的に意味を成さない気がする。それなのに広げたという事は何か意味があるのだろう。
一回、翼をはためかせた。
「は?」
たった一回で、星々が流れていき景色が点から線に変わった。
「しばらく暇になりますから、私の事を語っておきましょう。あなたの事はご主人からいっぱい話を聞かせて貰っているので知っています」
なんで、そんな事を言うのかという理由を訊いても良かったが別に彼女について聞きたくない訳でも無いので大人しく聞くことにした。
「元々、私はあの星で王女をやっていました。ある日突然、あの鳥の姿に能力が目覚めてついでに力も増して、王すらも圧倒する力を手に入れてしまいました。あの王はプライドだけは高くて、私と戦いを挑んできたんですよね。そうしたら、周りの町も巻き込んであの廃墟の有様ですね」
あの荒廃した都市はクロウと私も戦った王によるものだったのか。
「まあ、町の方は地下移住計画がほぼ終わっていたんで実質被害はゼロです。戦ったせいであの星に居ずらくなって放浪していた所を不思議な引力があったんですかね。地球に到着したんです。それも、ご主人の場所ですよ」
文秋とクロウが出会ったのは私が病院に向かって背負っていた時。あれが運命的なものだったのか。
「その時に直感で悟りました。このヒトが私の仕える方だって。地球の言語は難しかったですが、何とか習得しましたよ」
仕えるというのは違和感のある言い方だ。さっきから文秋の事をご主人というのも何か違和感がある。
「どうして仕えるのか? って思っている顔ですね。私も最初はなんで仕えようって気持ちになったか分かりませんでした。でも、数日で完全に体で理解しました。それは、私はご主人からの寵愛を求めていることです」
この子も文秋の『何か』に惹かれて来たのだろう。類は友を呼ぶのか特殊な奴は特殊な奴を呼び寄せてしまう。
「神。ご主人は神だったのです。私は仕える天使。この姿とかも地球でいう所の天使をイメージして変化しています。どうでしょうか? ご主人は気に入るでしょうか?」
私に聞かれても困るが、文秋には前科がある。女性の必死の努力を完全に無視したという前科がな。ならば、文秋に人間らしい可愛さを求めても無駄だろう。
クロウもその位は知っているだろう。ここは天使の姿っぽいかを重視して伝えよう。
「堕天使っぽいな」
「堕天使っぽい。ですか。質問が悪かったですね。これでご主人と交尾できますか?」
「はあ。そっちから襲えばワンチャンあるかもな」
「そうですか。なら、諦めます。しばらくは前の姿でナデナデされるのを楽しんでおきます」
どうして、文秋の周りにはこんな変なな女の子ばっかり集まるのだろうか。それを考えた所で答えが出ないというのは分かり切っている。
そんな事より、この宇宙空間でどうやって声を発しているのだろうか? 私からの声は口の動きを見て内容を掴まれているという事は目線で分かる。しかし、クロウからの声はしっかり私に伝わっている。一体どうゆうからくりなんだ?
「この首輪って何か分かりますか?」
「金属のか?」
「はい。氷藤さんも腕に似たようなものを着けていますが、これは特別なんですよ」
腕と言われて見てみると銀色の腕輪を着けていた。こんなの付けた覚えはないが、これは一体なんだろうか?
「正解を言いますと宇宙空間で喋れるようになって更に他言語を学習して翻訳してくれる優れものです。凄い技術力ですよね。これも水挽ちゃんが開発してくれたお陰なんです」
「水挽か」
「知っているんですか」
水挽はバグワームによって殺された。この事を伝える気はない。あの口ぶりからして知り合いないし友達の可能性は非常に高い。ここで地雷を踏んで宇宙空間に取り残されれば確実に死が待っている。
「いや、すまない。別の人と間違えた」
「あなたは私に似ていますね」
「何?」
「例えば、自分を守る為に嘘を吐いたりする所とかご主人と行動を共にしようとしている所とか」
嘘だと見抜かれていた。機嫌を損ねるのはまずい。
「安心してください。別に怒ってもいませんし、ここに放置しようとも思っていません。まあ、ここで氷藤さんを殺してしまったら、ご主人に合わす顔がありませんからね」
「そうか」
「ここで良いニュースと悪いニュースがあります」
この宇宙空間では私は何も分からない。最悪すらも想定出来ない。
「良いニュースは後もうちょっとで地球に着きます。そして、ご主人はまだ生きています。次に悪いニュースですが……」
道に迷ったとかではないだろうが、もしかして隕石にでもぶつかりそうなのか?
「地球でいう所の三日。時間が経過しています」
時間が経過しているというのは確かに悪いニュースだ。しかし、深刻な出来事ではない。文秋が生きていればそこまで問題はない。私たちは治す為に宇宙に行ったのだからな。
「非常にまずいです。私は先に着陸します。あなたの能力なら落ちても死ぬ事はないです」
「ちょっと待て」
星の流れが止まり目の前に地球が現れた。
クロウは私だけを投げ、治癒装置を持って地球の後ろ側の方に行ってしまった。
「あっちが日本か」
地球儀を詳しく見たことは無いが、南アメリカのブラジルが見えるということはこの後ろ側が日本だという事になる。
どうすれば私も日本に落ちることが出来るのかを考える。
宇宙空間は真空だから慣性のある状態なら真っ直ぐに飛んでいける。だから、地球から外れるという事はまずない。後は横に進む推進力があれば行きたい場所に行ける。
私の能力では推進力を生むのは難しい。宇宙上では固体の氷は作りにくい。
なぜなら、宇宙にある元素は水素が一番多い。水素は絶対零度で十七ケルビン。つまりセ氏マイナス二五九度以下という非常に低い温度でなければ、固体にならないのだ。
私の能力で温度を下げても、体力を異常に消費して十分な質量の固体を生成できない。
宇宙空間上で私の体が動くためには最低でも体重ぐらいは無いといけない。
更に悪い事に、どうにか考えている時間はどうもなさそうだった。
「宇宙ゴミ」
小さな破片であっても鉄板すら貫通するというゴミが宇宙に漂っていた。




