二二話 バグワーム三
「やっぱり、胸糞な結末よりも希望のある結末の方がしっくり来るね」
執行機関の監獄からバグワームの本体が脱走していた。代わりに分身体が残っているので脱走は気付かれていない。
「万能装備ちゃんはいいね。一回しか共闘しなかったけど、こうシンパシー的なものを感じたよ。。それに可愛いし」
「彼女は是非とも欲しい」
「あとは彼や彼女がいれば完璧だ」
薄暗い裏路地で一人話すバグワームの前に女が現れた。
「君はどちら様かな? 白い羽とかあるけど天使のコスプレかな?」
「あっ。喋りはしないんだね。分かった分かった。なら、君は僕の敵だ」
バグワームはプラスドライバーを女に向かって投げた。
「翼でガードするのね。本物の天使って訳じゃあないよね。どんな能力なのかな?」
「うわっと。光のビームって本当に天使みたいだね」
女の目から光線が放たれるもバグワームに当たる事は無かった。
「はあ、そろそろ。会話をしようよ。僕がひたすら喋っても誰も得しないんだよ」
「君は輝く白い肌と金髪のナイスボディな体で顔も美人だからさ。きっと声を出したらファンがいっぱい来ると思うよ」
「僕がファン一号でいいかな? ねえねえ、そんな光線を撃たずにお話しようよ。出来ればもっと楽しい事をしようよ」
攻撃をされながらも、ナンパをするかの様にバグワームは話し掛けた。
「喋らずに攻撃するってことは襲って下さいって解釈するよいい? 全裸になるよ。いや、その前に肩に触るよ」
バグワームが女性に手を伸ばした。
瞬間。真っ白な羽がバグワームを遮るかのようにして振り落ちた。
「はっ!?」
羽に触れた部分の腕が丸ごと消えていた。
「神聖を持っているのか! なら、君は本物の天使なのか」
消えた肩を抑え、後ろに仰け反る。女性は追撃と言わんばかりにバグワームの体に光線を浴びせた。
触れた部分が蒸発するかのように消えた。
「この世界の神は少々手荒らしい。自分の管理が下手くそだっただけなのにこうやって他の存在を虐げるなんてね」
「そもそも、ちゃんと管理出来ていれば僕は発生していないからね」
「残念だけど、君の主の目的は僕には分からない」
体に穴を開けながらも笑っている。
「だからちゃんと言って置けよ。僕は! 君の! 敵だ! ってね」
「僕は君たちには容赦はしない。僕の能力は『物事にバグを挟み込む』。つまり、チートだよ」
バグワームが指を鳴らすと天使の女性が砂粒となり、崩れて行った。
「組織を作ろう。神にも負けない無敵の組織を」
バグワームから笑顔が消えた。
――――――
宇宙のとある星までカラスを連れてきていたバグワームの分身は本体からの指令を受け、万能装備を回収していた。
戦闘が終わっている氷藤が着ている『万能装備』の方も能力を使いすり替えて、奪っていた。
カラスが上空から現れた時に氷藤から『今日の万能装備に関する記憶』も奪い、地球に帰った。
――――――
地球に万能装備を連れて帰ったバグワームの分身が本体に吸収された。
「長旅、お疲れ。起きているかな?」
「あなたはバグワーム!? どうして、私はここに?」
「君に取引があるんだ」
笑顔のバグワームに気圧されて、万能装備は他の質問を全て捨てた。
「僕と組織を作らないかい?」
「唐突ですね」
「うーん。確かにそうだね。僕だっていきなりこんな事はしたくなかったよ。でも、急がないといけない事情があるんだ」
「事情とは?」
逃げる事が出来ない以上聞くしかなかった。
「この世界には神がいる。その神は堕落しており、世界の管理を疎かにしていた。そのせいで現実性が薄れてしまって君たち現実改変者が発生したんだ」
「宗教ですか?」
「ここら辺の話はまたいつかにしようね。分かりやすいように君が僕の組織に入るメリットを教えよう」
神とかいう非現実的なものを出されて困惑してしまった。それを察したバグワームは手っ取り早く利益という形で勧誘する方向にチェンジした。
「君は氷の女王の正体を知っているね。だから、暗部の他の人より執着は低かった。でも、接点が無くなるのは怖いんじゃないかな。少し調べたけど、君は『依存癖』があるね。誰かに頼らないとなにも決定が出来ないんじゃないかな?」
「そんなことは」
「大丈夫。僕の組織に入れば、一生氷藤先生に相談してアドバイスを貰えるようになる」
依存する性格を見抜かれ、目を逸らした。
「そして、もう一つ。僕が作る組織は一週間以内に解散する」
「え?」
「僕の目的は神の抹消。これだけさ。これは少なくとも一週間以内に終わるからね。でも、安心してアドバイスを貰えるのは一生だからね」
「何をすればいいんですか?」
完全に納得していないものの組織に入る事を承諾したかの様な流れで質問をしている。しかし、これは救助が来るまでの時間稼ぎである。
きっと、氷の女王が助けてくれる。この一点をひたすらに信じていた。
「僕を信仰してくれ。……なんてね。違うよ。君は氷の女王もとい氷藤ちゃんを愛し、信仰すればいい」
「それだけですか?」
「うん。戦闘とかは別に期待していないから。だって僕は最強だからね。神でも倒せるから」
バグワームはこっそりと万能装備の脳にノイズを走らせた。
「じゃあ、後は自由に生きてね」
「はい」
意志を失ったような目をして、部屋から出て行った。
「ごめん。人道に反することをしてしまった。でも、奴さえ倒せば君に輝かしい未来を約束するよ」
バグワームは笑顔を崩さない。
「さあ、あとは《黒き翼》や《レジスタンス》も含めて他の組織から引き抜きをしようか」
着実に何かが始まろうとしていた。




