恋敵 十五
気が付くと、黒田家の和室に寝かされ淳が心配そうな顔でお雪を見つめていた。
「ここは?」
「お雪ちゃん、よかった気がついいたんだね。気分はどう?」
そう言うと、淳はお雪の瞳孔や手や足の動きを確認した。
「軽い脳震とうだね。」
大事に至らなくてよかった。そう言ってお雪の手を握った。
あの後、貴子はさっさと逃げて行った。一大事を見かけた淳の母がお雪を助け起こし、黒田家に運び、淳を呼びにやったのである。
お雪の意識が戻り、主人、奥様と淳の母が部屋に入って来た。
「ご主人様、」
そう言って起き上がろうとするお雪を、淳が止めた。
「まだしばらくは安静が必要だよ。」
「そのままで。」
主人もそう言った。
横になるお雪の周りを皆が取り囲んだ。
始めに話し出したのは淳の母である。
「この度は、どこから誤っていいものやら。お雪さんにたくさん嫌な思いをさせてしまって、本当にごめんなさい。」
そう言って淳の母は手をついて頭を下げた。
「母さん。」
淳が驚いて母を見る。主人と奥さんは顔を見合わせている。
「貴子さんのことも、私がけしかけたりしなければこんなことにもならなかったのに、何て謝っていいかわからないわ。」
そう言って頭を下げっぱなしだ。
「奥様、どうか頭をお上げください。」
お雪が申し訳なさそうに言う。
「私が寝込んでいる間もずっと通ってくれたいたのに、何も知らずにあんなひどいことを言ってしまって。」
淳の母の後悔する気持ちがよく伝わってくる。
「食欲のない時に、いろいろ心配りしてくれたのはお雪さんだったのね。とても嬉しかったわ。」
そう言って淳の母はうっすら涙を浮かべている。
「母さん。」
そう言って淳が母の背中をさすった。やっとわかってくれたんだと淳も嬉しそうだ。
淳の母は主人に向きなおすと、
「先日の贈り物を受け取りもせず、いままでの数々の無礼大変失礼いたしました。」
と言ってまた頭を下げた。
主人は穏やかに言った。
「誤解が解けたということで、いいでしょうかね。」
淳の母は深く頷いた。
淳は黒田夫妻と母の方を向くと、姿勢を正した。
「ご主人、奥様、そして母さん。僕はこのお雪ちゃんと一生、一緒にいたい。お雪ちゃんと結婚させてください。」
そう言って、頭を下げた。
「淳先生、お雪を任せましたよ。今まで苦労した分幸せにしてやってください。」
そう言ってご主人と奥様、母も頷いた。
お雪はまるで夢を見ているようだった。
自分と淳との結婚が許される日がくるなんて。
始めてこの黒田家で淳を見た時のこと、伊勢谷での食事会、二人で言った初詣、いつもの土手でのおしゃべりが走馬灯のようによみがえった。
そしてお母さんの、“一生懸命やっていれば、必ず日の目を見るよ”という言葉を思い出した。お母さん、天国で見てる?私、淳先生と結婚出来ることになったよ。と心の中でつぶやいた。




