恋敵 十一
それからまたいつもの日常が始まった。
長谷川家はギクシャクしているが、淳は病院で診察し、母は家の中のことをし、相変わらず貴子が長谷川家や病院に出入りしている。
そんなある日、長谷川家の庭番が医院に走り込んできた。
「大変です。奥様が、」
「母さんが?」
慌てて淳が家に走る。家に着くと、母が布団に寝かされていた。
「台所で急に倒れられて、何とかここまでお連れしたんですよ。」
家の女中がそう教えてくれた。
「母さん、」
淳が声をかけると、母は薄目を開けて頷いた。意識はあるようだ。
脈もしっかりしている。急を要する状態でないことが分かった。
淳は父のこともあり、最悪のことを考えて走って来た。ホッとして力が抜けた。
そこへ貴子がやって来た。
「だから、大丈夫だって言ったのに。」
そう言って庭番を一瞥した。
淳は他人事な貴子に腹が立った。
「大したことないから、そんなことで淳先生を呼びに行かなくていいって言ったんですよ。それなのに大げさにして。」
貴子は腹立たしそうに腕組をしている。
「万が一のこともあるだろう。何かあったらどう責任取ってくれるんだ。」
淳は頭生きて怒鳴った。
貴子は驚いた様子だったが、その顔は怒りに満ちて行った。
「この私に怒るなんて。許さないんだから。」
そう言って大きな声で泣きだした。
騒がしさに気が付き、普段は横になっている父が足を引きずりながら部屋から出てきた。
「どうしたんだ。何かあったのか?」
そう言って、母が布団に横になっているのに気が付いた。
「母さん。」
そう言うと、母の枕元に崩れ落ちた。
慌てて淳が父を支え、
「大丈夫だよ。命にかかわるようなことはない。」
そう聞いて、父は安心したようだ。
「私、もう帰る。」
沈黙を破るように貴子はそう言うと帰って行った。
母は、家のことに加え父の介護も加わり、その上淳の結婚のことでも思い悩んでいた。心身の過労で倒れたようだ。家には通いの女中がいるが、淳は日中仕事があって、母の看病までは手が回らない。父の介護にも手が必要だ。
本来兄嫁のお光に助けを求めるところだが、来月出産予定でとても頼むことはできない。
これはいちかばちか、淳はある考えが浮かんだ。




