出会い 三
「見た?見た?長谷川先生。いい男だったわ。」
お春が胸の前で両手を合わせ、体をくねくねさせながらうっとりしている。
「口ばっかり動かしてないで、手を動かしなさいよ。手を」
お房に、怒られた。
夕飯の準備が始まったのに、お春はそっちのけで昼間の、若い男の話が止まらない。
しぶしぶ、食器の用意をしているが口は動いたままだ。
「今度から往診に来る、長谷川先生って言うんだって。」
鼻の下を伸ばしている。
長谷川先生と言えば、いつも往診に来てくれていたお医者様だ。年のころは六十歳くらいだったから、
今日の人は、その息子かな?
すかさずお春が答えてくれる。
「長谷川先生は、いつもの先生の息子で、次男なんだって。」
半ばあきれて、お咲が突っ込む
「まあまあ、今日来たばかりなのに、どうしてそこまで知ってるの?」
あきれられていることにも気付かず
「この家の事なら、何だってわかるのよ。私は気が利くからね。」
だそうだ。気が利くの意味が分かっていない。
「それにしても、長谷川先生、素敵だった。結婚はしていないかな?今度聞いちゃおうかな。」
お春の頭の中は、名前同様、春のようだ。
「お雪だって、もういい年なんだからね。そろそろ嫁の行き手考えなきゃいけないんだよ。まあ、もらってくれるところがないかもしれないけどね。」
と、相変わらず嫌味を言ってくる。いちいち私にからまなくてもいいのに。
何か言ってもまた言い返してくるのはわかっているので、いつものように聞き流した。
あの男の人は長谷川先生の息子だったんだ。じゃ、あの時“ありがとうございました”って言えばよかった。
次からはそうしよう。
今日も雪かきでくたくただったお雪は、その日も布団に入るとあっという間に意識を失った。




