恋敵 六
ある日のこと、昼休みの時間兄の良一と雑談をしていると、お雪のことを聞かれた。
「その後、あの女中さんとはどうなってるんだ。」
兄は以前相談されたこともあり、気になっているようだ。
「どうにもならないよ。」
淳がうなだれていると、
「そうか。でもな、あまり悠長に構えてまたお見合いの話でもきたらやっかいだからな。何か策を考えた方がいいんじゃないか?」
そう言って淳の肩をたたいた。
確かにその通りだ。先日のお雪の様子では、見合いの話が来たら受けてしまうかもしれない。でも今の自分は仕事に追われ、会いに行くこともままならない。
そうだ、会いに行けないならば手紙を書いてみよう。そう思い立ち、夜に淳は筆を執った。
お雪ちゃん
彼岸を過ぎ朝晩涼しくなってきましたが、お変わりありませんか。
相変わらず長谷川医院にはたくさんの患者さんが来院し、毎日忙しく仕事をこなしています。
先日話をした時、何か勘違いをしているようだったので筆をとりました。
今臨時で手伝いに来てくれている人は、白川澄子さんという女医さんです。僕が大学病院に勤務していた時の同期で、今回たまたまうちの助っ人として来てくれた次第です。
お雪ちゃんは彼女のことを何か誤解しているようだけど、彼女とは全くなにもありません。
僕が大切に思っているのはお雪ちゃんだけです。
結婚の話がなかなか進められず不安にさせて申し訳ないけど、僕の気持ちは変わらない。
どうか信じて下さい。
会える時間が減ってしまったけど、いつもお雪ちゃんのことを思っています。
長谷川淳
「お雪、先生からお手紙よ。」
奥様に呼ばれ、手紙を渡された。
お雪は手紙などもらったことがない。以前お咲さんから夜の時間を使って読み書きを教えてもらったので、手紙は読める。
先生から手紙なんて、何が書いてあるのか。気になって一日中他のことが上の空だった。
夜になってやっと仕事が終わり、部屋の隅でお雪はそっと手紙を開いた。
淳の手紙を読み終わると、淳の熱い思いが伝わり嬉しくて涙が出た。自分があんなことを言ってしまったのに、先生は怒るどころか、心配しないように手紙を書いてくれた。
先生の気持ちが嬉しいとともに、自分は先生のために何ができるんだろうと考えた。自分の境遇に悲しむよりも、先生のために何ができるか考えてみようと思った。この結婚がうまくまとまらなくても、こんなに幸せな気持ちにさせてくれた淳のために今自分ができることを考えよう。お雪は手紙を何度も読み返しながら、そう決心した。




