恋敵 四
一週間後、白川澄子の歓迎食事会が長谷川家で行われた。
「こんばんは。」
家で着替えてきた澄子が手土産を持ってやってきた。
「白川澄子でございます。こんばんはお招きいただきありがとうございます。これ少しですが、お召し上がりください。」
そう言って、母に土産をわたす。
紺のワンピースに白いレースの付け襟、髪はシニヨンにまとめている。
都会的に洗練され、品がある。そして澄子の目鼻立ちの整った美形に洋装がよく似合っている。母はすっかり見とれてしまった。
「まあまあ。よくおいで下さいました。どうぞお上がり下さい。」
母は上ずった声で、澄子を奥に通した。
澄子を囲み、歓迎の食事会が始まった。
「澄子先生、何もございませんが、どうぞお召し上がりになってください。」
母は上機嫌で澄子に勧める。
「ありがとうございます。どのお料理も美味しそうですね。遠慮なくいただきます。」
澄子は気取ったところがなく、これも母にとっては高評価だ。
「お父様、その後の体調はいかがですか?」
父への気遣いも怠らない。
「おかげさまで、少しずつですが楽になっています。」
父も嬉しそうに頷いている。
「そう言えば、大学の山本や川田は変わりない?」
淳が澄子に親し気に聞く。
「二人とも変わりないよ。山本君は結婚して、今度自分の医院を始めるみたいよ。」
「山本が結婚か。そうか。まあ、俺たちもそんな年だもんな。」
淳がそう言うと、すかさず母が話に入って来た。
「澄子先生は、ご結婚は?」
「母さん、いきなりそんなこと聞いて失礼だろ。」
淳が母を制すが、澄子は気にすることなく、
「仕事に邁進していましたので、まだなんですよ。良いご縁があるといいんですけど。」
と意味深に言って微笑んだ。
母は“まあ”と言って手を合わせ喜んだ。
食事が終わると、
「淳、夜道は危ないから澄子先生をお送りして。」
と、母が勧めてくる。もとよりそのつもりだが、魂胆が見え見えだ。
「そのつもりだよ。」
ちょっとぶっきらぼうに言うと、淳は澄子と外に出た。
「良いご両親ね。」
澄子は食事会が楽しかったようだ。理由は淳と話が出来たからだが。
「そうかな。ところで、大学病院でバリバリやっている澄子さんが、どうして臨時の助っ人になんてなったの?何か大学病院であった?」
淳は気になっていたことを聞いてみた。
澄子は一瞬考えたが、
「それは、淳君に会いたかったから。」
そう言うと、ふふふとはにかんで笑った。
淳は思ってもみない答えに驚いた。
「もう近いから、じゃ、おやすみなさい。」
そう言うと澄子は足早に去って行った。
あれは冗談だったんだろうか。淳はしばし立ちすくんでいたが、俺にはお雪ちゃんがいるからどうであれ関係のないことだ、と思いながら家に帰った。
家では母が淳の帰りを待っていた。
「お帰りなさい。淳、いいじゃない澄子先生。ちょうど年も頃合いで。」
そう言ってにこにこしてる。
それを聞いて淳はイライラした。お雪の話はあれ以来していないが、自分の気持ちを無視した発言に反発を覚えた。
「母さん、俺の気持ちは変わらない。俺が結婚したいのはお雪ちゃんだ。」
語気強く発言する息子に母はやや驚いた様子だが、負けていない。
「あなたは医者なのよ。澄子先生と結婚すれば二人で医院を開くことだってできるわ。何よりも医者同士ならお互いの仕事に理解があるでしょう。それに澄子先生はあんなにお綺麗で、文句のつけようがない人だわ。案外淳に気があったりして。」
淳の気持ちなど一切考えずにそうまくし立てた。
淳は話すのも嫌になって、部屋を出て行った。
お雪ちゃんに会ったこともないくせに、勝手なことばかり言って。淳は腹が立って仕方なかった。
しかし母にお雪を合わせたところで、お雪が嫌な思いをするのは目に見えている。いつもこの堂々巡りだ。淳は途方に暮れた。




