お見合い 六
しかし、お雪の幸せを願わない人間がここにいる。お春だ。
例のごとくお春は淳と主人の話を盗み聞きしていたのだ。
お春がひがまないわけがない。何とかして淳とお雪の仲を裂いてやろうと、悪だくみを企てている。
そのお春の様子を梅の木の精とツワブキの精が見ながら何やら相談している。
しばらく話し込んでいたが、最後には何か良い案が浮かんだようである。
「お雪、ご主人から何かお話あった?」
夕食の準備中お春が話しかけてきた。
「話って?」
何も知らないお雪は何のことだかわからない。
「何もないならいいのよ。」
お春は探りを入れてきたのだ。まだお雪が何も聞いていないなら、ちょうどいい。
お見合いの日までもう4日しかない。明日にでも計画を実行し始めないと。
何やらお春には策があるらしい。
次の日、お春は夕飯の材料が足りないと無理やりお使いを買って出た。
そして外に出ると、お使いとは反対の方向へ出かけて行った。
向かった先は、お雪が見合いをする大工の庄太のところである。
お春は庄太のところに行って、お雪が実は良い仲の男がいて、それなのに見合いをしようとしていると、あることないこと言いふらしてやろうと思っているのだ。そうすればお雪はふしだらな娘だと近所で噂になるだろう。そんな魂胆だった。
庄太が住む長屋の検討はついていた。広い通りから一本入り突き当りの辺りがその長屋だ。長屋が見えてきたので通りすがりの人に聞いてみることにした。向こうから藍染の股引きに半纏を羽織った人が歩いてくる。しかもいい男だ。お春は面食いなので緊張しながら喜んで話しかけた。
「あの、すみません。この辺りに大工の庄太って人の家があるって聞いたんですけど。」
そう言って近くで見ると、その男は年も若く整った顔立ちをしている。
「庄太は俺だけど。」
まさか自分が声をかけた相手が庄太だったとは。お春は何も言わず、くるっと振り向き慌てて走った。走りながら庄太の顔を思い出し、顔がぽっぽと熱くなるのを感じた。
お春の計画は失敗に終わった。庄太が男前なのは想定外だった。
こんなことなら私がこの縁談を受ければよかった。縁談を断ったことを今では後悔している。この話を聞いた時は、長谷川淳のことで頭がいっぱいだったが、冷静に考えれば医者と女中が結ばれるわけがないことはわかっている。
どうにかして、3日後のお見合いに私が行くことにはできないだろうか。お雪ばかりが幸せになるなんて、我慢ならない。お春は無い知恵を総動員して考えている。
いつもおしゃべりなお春がここ二日黙り込んでいるので、お雪やお咲は不思議がっていた。
「一体、どうしたんだろうね。いつもあんなにおしゃべりなのに。」
お咲はお春が何か悪だくみをしているのではと、疑っている。
「何か悪い物でも食べたんじゃないの。」
お雪は笑っている。お雪は空元気だ。見合いが近づき、淳のことを思うと胸がぎゅっと痛む。自分にはこれが一番良いんだと言い聞かせ、元気そうにふるまっている。




