お見合い 三
見合いの日まで後5日となった。
「お雪、ちょっと。」
お雪は奥様の部屋に呼ばれた。
「何でございましょう。奥様。」
「もう少しでお見合いね。お雪に似合う着物を選んでおこうと思って。」
そう言うと、奥様は箪笥から何枚かの着物を出した。
「奥様、いつも気にかけていただいてありがとうございます。こんなきれいな着物私にはもったいないようです。」
そう言ってお雪はさみしく微笑んだ。さみしくするつもりはないが、心の寂しさは自然と染み出す。
「お雪、もしかしてお見合い、乗り気じゃないんじゃないの?」
奥様はお雪の雰囲気がいつもと違うことに気が付いた。
「そんなことはありません。ただ、緊張しているだけです。」
良い相手だといってご主人が進めてくれた縁談だ。誰が文句など言えよう。そして自分が決めたことなのだ。
「そう、ならいいけど。そうよね、不安にもなるわよね。何かあれば私にいうのよ。いつだって力になるわ。」
奥様の優しい言葉が胸に刺さる。
本当は見合いなどしたくない。お雪は淳と一緒にいたいのだ。でも身分違いでそんなことはありえない。こんな気持ちは一時の事。結婚すればきっと幸せになれるはず。
お雪は自分に言い聞かせる。
淳は兄、良一の家に来ていた。
六歳違いの兄は実家近くに家を建て、医院には通ってきている。
五年前に結婚し、今では子供も一人いる。
「兄さん、忙しいところ急にごめん。」
「かまわないけど、どうしたんだ淳が家にくるなんてめずらしいな。」
そこへ良一の妻、お光がお茶を持ってきた。
「本当、淳君が来るなんてめずらしいわね。」
「実は相談に乗ってほしいことがあって。」
そう言うと淳は唾をのんだ。
「なんて言えばいいのか。知り合いの女中さんがお見合いをすることになって、それを止めたいんだ。」
淳が思い切って言うと、良一とお光は状況がよく飲み込めず夫婦で顔を見合わせている。
「どうしてお前はその女中さんのお見合いを止めたいんだ?」
良一が核心をついた質問をした。
「その女中さんが、お雪ちゃんて言うんだけど、お見合いをするって聞いて、自分の気持ちに気が付いたんだ。」
淳の顔が赤くなっている。
「自分の気持ち?」
お光は気が付いたようだが、あえて言わない。
「でもな、淳。お見合いを止めるってことはどういうことかわかってるのか?」
良一は真剣な顔になって聞いた。
淳は一瞬考えたが、改まった顔で頷いた。
淳が頷いたのでお光はほっとして笑顔になったが、良一は違った。
「相手は女中さんなんだな。」
「黒田家の女中をしている人なんだ。」
淳も医者と女中の立場の違いはよくわかっている。
「そうか。淳の気持ちはわかった。けど、うーん、どうかな。第一関門は母さんだな。」
そう言って難しそうな顔をしている。
「母さんの説得が難しいことはよくわかってる。それよりもまず見合いを止めないといけないんだ。五日後なんだ。」
「五日後か。お見合いを止めるってことは、かわりに自分と結婚してほしいと求婚するってことだからな。その覚悟があるんだな。」
「覚悟はできてる。」
「ならば、まずはうちの父さんと母さんに結婚の許しを得る。母さんは難しいだろうけど、とにかく伝えるだけ伝えたら、次は黒田家に結婚の意思を伝えに行く。黒田家だってな、お見合いを承諾したのを断らなきゃいけないんだから。なあ。」
そう言って、良一はお光を見た。
「そうね。お相手の面子をつぶすことになるわけだから、黒田家のご主人には誠心誠意お詫びしないといけないわね。」
お光は淳に向き直ると、
「でもね、お見合いの前で良かったね、淳君。まだ何とかなるかもしれない。」
そう言って励ましてくれた。
「お雪ちゃんって言ったか、どんな子なんだ?」
良一が聞いた。
「穏やかで優しくて、ひかえめで仕事も一生懸命でとてもいい子なんだよ。」
淳はそう言うとお雪の顔が目に浮かび、胸が温かくなった。
「そうか。まあ、どうなるかわからないが、悔いのないように頑張れ。」
そう言って良一は淳の背中を優しくたたいた。




