お見合い 一
春分が近づき寒さも和らいできた頃、黒田家に見合いの話が持ち込まれた。
「ねえねえ、聞いた?お見合いの話。」
お春がこそこそと話しかけてきた。
「お見合い?」
お雪は首を振った。
「聞いちゃったのよ。奥様にお客が来て、お茶出ししてたら縁談を持ってきたって言ってたわ。」
お春は眉間にしわを寄せて渋い顔をしている。
「どんな相手かしらね。あたしかあんたのどっちかよ。」
そう言い捨てていった。
お見合いか。私もお春も年頃。そろそろ結婚してもいい年だもんな。結婚か。
お雪はどこか他人事な響きだなと思った。
それから数日が過ぎ、お春とお雪がご主人の部屋に呼ばれた。
「実は、縁談が来ていてな。二人のうちのどちらかが良ければ、見合いをすることになった。」
そう言ってご主人は縁談の相手の話を言って聞かせた。
「黒田家の取引先を建てた大工の職人だ。名前は庄太。大工を初めて十年だそうだ。腕は良いらしい。22才。性格も穏やかだそうだ。大工ならば収入は安定している。結婚相手として不足はないだろう。どうだ?」
どうだ、と言われ返答に困っていると、
「お春。お前の方が少し年上だからな。この縁談はどうだ?受けてみるか?」
とご主人がお春に聞いた。
お春はもじもじしていたが、
「ありがたいお話ですが、私はまだ結婚は、ちょっと。」
そう言ってお春は頭を下げた。
「そうか。ではお雪はどうだ?」
淳の顔が浮かんだが、結ばれる相手でないことはお雪もわかっている。であればこの縁談を断る理由はない。
「はい。ご主人様わたしでよろしければお受けしたいと思います。」
と、お雪は頭を下げた。
台所に戻るとお春が寄って来た。
「あんた、お見合いするのね。大工なんていいじゃない。あんたにぴったりよ。」
そう言ってにやにやしている。
「私には淳先生がいるからね。大工なんかと結婚するわけにはいかないわ。」
淳の名前を聞き、お雪はやるせない気持ちになった。しかしどう考えても、女中が医者の嫁になるなんてありえない。お雪は大きく息を吐くと気持ちを切り替えなきゃと、自分に言い聞かせた。
外では梅の木とツワブキがざわざわと揺れている。
「これはまずいことになったわよ。」
「何とかしなくちゃね。」
この縁談をどうにかすることができるのだろうか。




