初詣 三
「さあさあ、お雪支度をしましょう。淳先生が一緒に初詣に行ってくれるなんて、助かったわ。」
そう言って奥様は雪についてくるよう促した。
急な展開に、お雪は頭がついていかない。
「前からこの着物をお雪に着せたいと思っていたの。」
そう言うと、奥様は桐箪笥から水浅葱の小紋と若草色の帯を取り出した。
「奥様、こんな高価な着物を、」
お雪は慌てて辞退しようとした。
「私には娘がいないから、若い頃の着物を着せる相手がいなくてね。お雪が着てくれたらこんな嬉しいことはないわ。」
奥様は少しさみしそうな、しみじみとした顔でそう言った。
お雪は、奥様には本当にいつも良くしてもらってありがたい思いと同時に、申し訳ないような気持ちを持っている。でも今日は喜んで着せてもらうことが恩返しになるのかもしれないと思った。
「奥様、私なんかにはもったいない着物ですが、今日はありがたくお借りいたします。」
そう言うと、お雪は深く頭を下げた。
奥様は喜んでお雪の支度を始めた。
水浅葱の小紋に若草色の帯、薄紫の帯締めに金の帯揚げ。
「寒いから、羽織も着ていきなさい。」
そう言って紺の羽織も掛けてくれた。
奥様が手伝ってくれて髪もきれいにまとめた。梅の小花のかんざしもさしてある。
「よく、似合っているわ。お雪は色白でべっぴんさんだからね。」
奥様にそう言われて、お雪は嬉しくもあり、照れくさくもある。
そこへ淳がやってきた。
「失礼します。」
お雪と奥様が玄関に行くと、濃紺の紬に灰と白の縞袴、紺の羽織を羽織った淳が立っていた。長身の淳は洋装も似合うが、和装も素敵だ。清潔感があって爽やかなうえに、優しい人柄が雰囲気に出ている。
お雪と二人での初詣のために正装をしてきてくれたと思うと、うれしいやら照れくさいやらで、お雪は淳を直視できない。
淳は晴れ着を着たお雪をじっと見ていた。かわいい子だなと思っていたけれど、こんな格好をすると大人っぽくなって、きれいだ。
「あらまあ、先生素敵だこと。和装もよくお似合いですね。うちのお雪もきれいでしょう?」
奥様にそう言われ、先生もどぎまぎしている。
お雪が草履を履き淳の隣に立つ。
「まあ、」
そう言って奥様は口をつぐんだ。
お似合いね、と言いたかったが、お雪と淳では立場が違う。結ばれることはない二人なのだ。奥様は“お雪には良い相手を私が見つけましょう”と心の中でつぶやいた。
淳は夕方までにはお雪を送り届けますと言い残し、二人は熱田神宮へと出かけて行った。




