初詣 二
お雪が黒田家に着くと、淳がご主人を診察しているところだった。
奥様が心配そうに見守っている。こんな時私も何かお役に立てたら。何もできない自分を不甲斐なく思いながら、部屋の外の廊下に座った。
奥様がお雪に気が付き、部屋から出てきた。
「お雪、ありがとう。あなたが急いで行ってくれたから、本当に助かったわ。」
そう言って、奥様はお雪の手を取った。
「私、何の役にも立てなくて…。」
奥様はそう言ってくれるが、自分への歯がゆさからお雪はうつむく。
「こんな時にお雪がいてくれてどれだけ心強かったことか。長谷川先生のところに走って行ってくれて、本当にありがとう。」
奥様はそう言うと目を潤ませた。
奥様の言葉がお雪の心に染みわたってゆく。お雪はありがたくて頭を下げた。
診察が終わり、奥様が呼ばれた。
「心の臓の動きが一時的に悪くなり、軽い発作を起こされたようです。今は落ち着ついておりますので、ひとまずご安心下さい。奥様もさぞご心配なさったことでしょう。」
淳は穏やかにそう告げた。
それを聞いた奥様は大きく一息つくと目頭を押さえた。
淳が帰り支度を済ませ玄関に向かった。お見送りをしようと奥様の後にお雪も付いていく。
「先生、今日は本当にありがとうございました。何とお礼を申し上げてよいやら。そして元日の朝から申し訳ありませんでした。先生にも予定があったでしょうに。」
そう言って深々と奥様が頭を下げた。
淳は首を振って、
「何よりもご主人が落ち着いて良かったです。元日と言っても何の予定もありませんから。」
その時、外の梅の枝が風もないのにさわさわと揺れた。
そして、奥様がはっとしたようにつぶやいた。
「そうだわ。お雪と三人で初詣に行くところだったんですよ。それがこんなことになってしまって。私は主人に就いていなければならないから、お雪は一人で初詣に行くようね。」
すると、それをきいた淳が、
「じゃあお雪ちゃん、僕と一緒に初詣に行くのはどうだい?」
と微笑みながらお雪を誘った。
突然の展開にお雪は声が出ない。どう返答したらいいかと淳の顔を見ていたら、
「あら、それは助かりますわ。年始めから一人で参拝させるなんてかわいそうだと思ったんですが、先生がご一緒してくださるならこんな安心なことはありません。」
そう言って、奥様は胸をなでおろし喜んでいる。
「僕が責任を持って、お連れしますよ。では、ひとまず荷物を置いてから、お雪ちゃんを迎えに来ます。」
そう言って淳は帰って行った。




