初詣 一
師走とはよく言ったもので、12月に入ると時間が過ぎるのがあっという間だ。今年も年末となり、黒田家ではお節の準備が始まる。
12月28日は数の子の塩抜きや干し椎茸などの乾物の水戻し、29日は黒豆や煮物、かまぼこなどの準備、30日に昆布巻きやきんとん、なます、にしめなどの調理全般、31日に仕上げと盛り付けを行う。
この地域は二日から挨拶回りが始まるので、元日女中は里帰りとなり、主人夫婦だけで初詣をすることになっている。お雪は両親を亡くし実家がないので里帰りすることなく主人夫婦の初詣に同行する。
お節の準備も滞りなく進み、今年も残りわずかとなった。お雪以外の女中たちは皆それぞれの実家に帰って行く。
里帰りができないお雪を奥様は不憫に思い、大晦日の年越しそばはご主人奥様とお雪の三人で食べることにしている。奥様の心遣いがとても嬉しくはあるが、それ以上に気を遣ってしまう。毎年美味しいはずのお蕎麦の味をいまいち味わえないお雪である。
元旦も三人一緒に初詣に行くことになる。
朝食を済ませ初詣に出かける準備をしていると、バタバタと奥様が女中部屋のお雪のところにやって来た。
「お雪、主人の様子がおかしいの。悪いけど黒田先生を呼びに行ってくれる?」
いつも落ち着いた奥様が取り乱している。
お雪は慌てて長谷川医院に走った。
元日でもちろん医院は閉まっている。休みのところ申し訳ないと思ったが、思い切ってお雪は医院の戸を勢いよくドンドンとたたき息を切らしながら大声で言った。
「すみません。長谷川先生、黒田家のものです。」
気が付いた淳がカギを開けて出てきた。
「お雪ちゃん。どうかしたの?」
ただならぬお雪の様子に、淳も緊張した様子だ。
「お休みのところすみません。ご主人が。」
急いで走って来たので、息が上がってうまく話せない。淳の顔をみてホッとしたせいか、目が潤む。
「わかった。すぐ用意するから。」
そう言うと、淳は奥に戻り大きな診察カバンを持って出てきた。
「お雪ちゃんは後からゆっくりおいで。僕は先に行くから。」
そう言ってお雪の肩に手を置くと、淳は黒田家へと急いだ。




