40 ルリカと再会
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芝草市にある大桜植物園が爆破されてから数日間は、対策局も忙しい状態が続いていた。
芝草市にある大桜植物園は、その名の通り樹齢二百年の桜の木が売りの植物園だ。
桜の古木の他にも四季折々の花々が、来場者の目を楽しませてくれて、人気の観光施設だ。
爆破された当日は、平日昼間の梅雨の時期ということで、来場客が春の桜の時期に比べると少なかったことが幸いし、来場客に死者や重傷者は出なかった。
しかし、従業員に多数の怪我人が出たうえ、施設も大規模な損害を受けたため、当面の閉鎖を余儀なくされている。
ツヅミさんは、自分がもっと早く千里眼で予知できていたら、と落ち込んでいたが、一人で二十四時間、担当地区内を千里眼で視続けることは不可能なので、責める人はいない。
まあ、強いていうなら、オルレアさんがほぼ強制的に爆破蟲の研究を手伝わせていたのが、原因といえば原因だ。
だが、それも爆破蟲に効く殺虫剤を作るためなので、仕方がないと言える。
そもそも神異や禍津祠の場所を、事前にある程度特定できることが奇跡なのだから、贅沢を言ってはいけない。
そんなわけで、前世日本だったら対策局の職務怠慢や不祥事として報道されそうな大桜植物園の事件は避けようがなく、死者が出なかっただけマシだというふうに、世間には報道されていた。
明確な共通の敵がいると、人間はこうもまとまるのだろうか?
対策局的には、都合がいいのでありがたいけど。
だが、悪いことばかりではない。
オルレアさんが頑張った甲斐あって、爆破蟲の気配を特定できる術式をこの短時間で作り出したのだ。
それを兄様が整理し、お札に最適化。私はさらに術式を調節し、誰でも使えるお札を作った。
そして、私や兄様、バショウ先輩をはじめとした符術を使える者たちが、総出でそれを量産。
なんとか各地の主要施設に数枚ずつ配り終えたのだった。
元々、神異探索用のお札の仕組みを一部流用しているので、お札を起動すると、折り鶴の形になるようにしている。これなら、お札を使い慣れていない人でも、爆破蟲の有無を調べやすいだろう。
爆破蟲探索用のお札の効果は確かで、現時点ですべての爆破蟲テロを防いでいる。
爆破蟲が見つかった場合は、早急に対策局へ連絡してもらい、近くにいる退異師が駆けつける。そして、私と兄様が作った札で爆破蟲を確保することになる。
回収された爆破蟲は、皇国軍の山間部にある演習場で爆破処理されている。なので、回収のお札の行き先は、演習場に設定している。
そのため、私と兄様が制作した爆破蟲捕獲用のお札、符術無効の札、回収のお札も、誰でも使えるように調節し、同時進行で量産しなければならなくなった。
つまり四種類のお札を同時進行で作っているというわけだ。
私と兄様、そしてお札用の紙を作る神異のコウゾ君もフル稼働中だ。
ちなみに、兄様は部外者だけど、今回の協力にあたって、フリーの魂術師として特別報酬も出るらしい。良かった。
もちろん、ほかのフリーの魂術師たちにも協力を仰ぐとか。
そうした忙しい日々が続き、今日になってようやく自分のノルマを終えた私は、ツノゴマ君と共に買い出しに行くことになった。
事務所を出る前、ニゲラと二、三日ぶりに顔を合わせ、三十分ほど抱きしめられていたが、何とか引き剥がした。
彼も連日忙しくしているので、かなりお疲れのようだ。
ニゲラのことも気になるが、今は買い出しに行かなければならない。
「ツノゴマ君、お疲れのところ、ごめんね」
「いえ、いいんです。ボクは新人であまりお役に立てませんから」
「そう? 結構役に立ってると思うけど?」
ツノゴマ君は白秋院系の血筋の方で、人形を使って戦うことを得意としている。
人間サイズなら二体が限界だが、爆破蟲を見つけたりお札を貼ったりするのなら小型の人形で間に合うので、数十体を一度に操れるらしい。
人が入れないような場所にも向かわせることができるし、ドローン技術の応用で飛翔型の人形も作ったそうで、上空の爆破蟲にも対処できるとか。
「そ、そんなことないですよ」
「そう?」
「そうです」
ツノゴマ君が赤くなる。褒められ慣れていないのかもしれない。
「でもどうして、ツノゴマ君は対策局に協力する気になったの?
あ、お兄さんのためだっけ?」
彼を紹介してくれた当日は、爆破蟲騒ぎがあってドタバタしてたから、忘れてた。
「それもありますが、その……」
ツノゴマ君が、こちらを見る。そして赤くなる。
なんで?
「ルリカさんが、いるから、です……」
「え? そうなんだ」
……ん? もしかして、兄の敵だから、私も敵視されている的な?
いや、私はそこまでツノゴマ君のお兄さんをボコボコにはしていないと思うけど……?
いや、受け取り方は人それぞれだ。警戒しておこう。
「女装をやめたのも、それで、なんです」
「へ、へぇ〜?」
ゴスロリだと、動きづらいから仇が取れないとか?
恐ろしい……! 話題を変えよう!
「そ、そういえば、狭野市で女性の変死体が見つかったそうだね〜。朝のニュースでやっていたよ」
って、変える話題を間違えた!
「そうなんですね」
「なんでも、体の内側から、破裂したような……」
ってあれ? この事件も爆ぜているな?
「あ、そのニュースなら、ボクもネット記事で知っているかもしれません。確か被害者の名前が〝日永チコリ〟で、彼氏さんが見つけたらしくて、部屋が大変なことに……」
「……え?」
〝日永チコリ〟って、イソトマ様の恋人じゃん!?
「ルリカさん?」
「い、いや、結構、凄惨な事件で驚いた。朝のニュースじゃ事件の概要しか説明してなかったし!」
「そうですね」
なんだろう……無関係ではない、気がする……。
◇
最寄りのスーパーに到着。
だが、店内の様子がおかしい。お客さんが避難している?
「どうかしたんですか?」
近くにいた従業員に、話を聞いてみる。
「あ、対策局の……! もう、いらっしゃったのですか?」
「いえ、ボクたちは買い出しに来ただけです。それでどうしたんですか?」
「実は、いただいた爆破蟲探索用のお札が反応したので、お客様を避難させていたのです」
「なんですって!?」
「対策局にはすでに、連絡してあるのですが……」
「どうやら、行き違いになったようですね」
「避難の状況は?」
「ほとんどのお客様の避難は完了しています。あとは逃げ遅れた人がいないか、店内の見回りだけですね」
「では私たちも、逃げ遅れた人がいないか確認しつつ、爆破蟲を探しましょう」
「お願いします!」
そうして、私とツノゴマ君は二手に分かれて、店内を探索することになった。
スーパーは二階建てで、一階部分は食料品を取り扱うスペースや、薬局、百円ショップ、婦人服のテナントなどが入っており、二階は自社の衣類やリビング用品などを取り扱う売り場となっている。
飲食店は入ってはいないらしい。
地方の、ちょっと寂れたスーパーといったお店だ。
ツノゴマ君は一階を、私は二階を探索することになった。
持ってきた爆破蟲探索用のお札も起動しておく。
しかし、店内にはいないようだった。逃げ遅れた人も幸いいなかった。
あとは……。
エレベーターの表記を見ると、どうやらこのお店には屋上駐車場があるらしい。
私は、単身屋上へと向かった。
◇
屋上駐車場には、車が何台か停まっていたが、人が乗っている様子はなかった。避難済みのようだ。
そして、空を見上げると、上空に爆破蟲がいた。
う〜ん、さすがに上空すぎる。ツノゴマ君のドローン型人形に頼るしかないか?
スマホを取り出し、ツノゴマ君に電話をかける。
「……ルリカ?」
呼び出し音が鳴っている間に、声をかけられた。
「え──っ!?」
見れば、元婚約者のイソトマ様がいた。
通話がつながった気配がしたので、咄嗟にスピーカーモードに切り替える。
「久しぶり」
「イソトマ様……」
イソトマ様は、少々やつれてはいるが、元気そうだった。
「お元気そうですね」
「君にはそう見えるんだね」
不自然な程に笑顔だ。
婚約していた学生時代でも、ここまでの笑顔は見たことがない。
「なぜここに? 婿取山で……失踪したと言われたのですが?」
さすがに、死亡したとはいえなかったので、少し濁した。
「そうだね。きっと実家はオレの捜索なんて早々に諦めてるんだろうね」
「……」
諦めにも似た感情をにじませながら、明るく語るイソトマ様。
なにか、嫌な感じがする。
それでも、確認せずにはいられない。
「日永チコリさんを殺したのは、貴方ですか?」
「……」
イソトマ様の顔から、表情が抜け落ちる。
その反応を、肯定と捉えさせてもらう。
「最近、各地で見つかっている爆発する虫を設置しているのも、イソトマ様では? 婿取山の主に、協力しているのですか?」
「……そうだよ」
「やはり、そうですか……」
「理由は訊かないんだね?」
「婿取山の主は強大な神異です。捕らえた方々を無理矢理従わせる力もあるでしょう」
「……」
「でも、チコリさんは貴方の最愛の恋人だったはず。何故……」
「ああ、どうしてオレは、あんな女に騙されてしまったのだろうね……」
「え?」
「オレは、昔からルリカのことが好きだった。だけど、幼い頃に親から引き剥がされて、まともな愛情を得られなかったオレは、他人の愛し方が分からなかったんだ」
「……」
「だから、中学生の頃は、『ルリカは婚約者なのだから、何をしても良い』と思い込み、召使のように扱ってしまったし、高校の時は、君への恋愛感情から生じる胸のざわつきを、チコリのせいで嫌悪感だと思い込まされてしまった。だから、罰を与えただけだよ」
「でも、それを選んだのは、イソトマ様です」
「でも、チコリは都合が悪くなったら、オレを婿取山の主に差し出した。事情を知っている友人のウメキとトキオと共にね。
そこでオレがどんな扱いを受けたか、君に想像できるか?」
「それ、は……」
「ねえ、ルリカ」
「え?」
いつの間にか、イソトマ様が目の前まで来ていた。
「オレと一緒に行こう。そうすれば、すべての爆破蟲を無力化してあげる」
「し、しかし……」
「拒否するのなら、今すぐ爆破するよ」
「……」
『──ルリカさん!? どうしました?』
スピーカーモードにしていたスマホから、ツノゴマ君の声がした。
しかし、ツノゴマ君に返事をする前にスマホを叩き落とされ、そのまま私は、イソトマ様の転移魂術によって、その場から連れ去られてしまったのだった……。




