37 ルリカと不審物探索
◇
「で? まずはどこに向かうんですか?」
「小丘駅だな。とりあえず、被害が起きたら一番ヤバい場所からなんとかすることにした」
というわけで、私たちは小丘駅に向かうことになった。
人数が多いので、二台の車に分かれて乗る。
ルコウさんの車には運転手のルコウさんとアオハさん、ニゲラと私という、いつものメンバーだ。
イワツメ先輩の車には、バショウ先輩とツノゴマ君が乗っている。
ツノゴマ君は人形が入っているトランクも持っていくみたいだ。
イワツメ先輩の車は四人乗りのスポーツカーだが、後部座席にツノゴマ君と人形入りのトランクまで押し込まれているので、かなり狭そうだった。
目的地の小丘駅は、十千木県から東都へ向かう交通の要となる駅だ。
破壊されると、住民の足にかなりの影響が出るだろう。
「小丘駅は広いので全員で向かいますが、その後は別れてそれぞれの場所に向かうことになるかと思います」
と、アオハさん。
「まあ、その方が効率はいいか」
でも、小丘駅って結構広いんだよね。色んな電車の乗り場があって、新幹線乗り場もあるし、周りには駅ビルもある。
まあ、東都のでっかい駅に比べると、ショボく感じるだろうけど。
そんなところにある爆発物なんて、そう簡単に見つかるのかな?
◇
対策局の事務所から、車で三十分ほどで小丘駅に着いた。
車を有料パーキングに停めて駅に向かう。
「ああ、対策局の方ですね。お話は伺っています」
駅の窓口で事情を話すと、どうやら支部長さんがすでに話を通していたらしく、スムーズに話が進んだ。
「一応、神異避けの結界は設備に組み込まれており、常に展開しています」
事務所に通され、話を伺う。
「ただし、人が意図的に神異やその端末を持ち込んだ場合は別です」
「そうですね。こちらは、通行証の腕章です」
駅長さんは、二種類の腕章を人数分用意してくれた。
「これを左腕に付けていれば駅構内を自由に行き来できます。こちらは駅ビルの出入り用の腕章です。両方とも腕につけていれば、駅構内や駅ビル内のどこにでも自由に出入りできます」
「ご協力感謝します」
事務所を出て、どう捜索するか決める。
「では、それぞれ分かれて捜索しよう」
「じゃあ、アタシ、アオハ、ニゲラ、ルリカは駅を担当する。イワツメ、バショウ、ツノゴマは駅ビルでいいんじゃないか?」
「ですね」
「あ、神異探知用のお札使いますか? 爆発物を見つけることはできませんが、神異の気配は探れます」
「あ、それなら私も使えます」
と、バショウ先輩。彼も青春院系の血筋らしいので、符術が得意だ。
「ないよりマシか。お願いしよう」
神異探知用のお札を起動すると、折り鶴の姿に変わる。
この姿で浮遊し、ある程度自律して動くのだ。
こうして二手に分かれて担当場所へ向かい、到着後はさらに手分けして捜索を開始した。
◇
私は駅の一階部分から捜索を始めた。
駅の一階には、居酒屋やファーストフード店、お土産を売っている店などが並んでいる。
そこを一軒一軒確認させてもらったり、駅周辺を調べたりしたが、それらしい物は見つからなかった。
神異探知のお札も特に反応はなかったし、不審な物も見つからなかった。
まあ、人の出入りがある場所に不審物は置かないか。
仕方なく別の場所を確認する。
二階部分には、改札や駅構内の飲食店、コンビニ、駅ビルへの連絡通路などがある。
しかし、そこでも神異探知のお札に反応はない。変な物もやっぱりなかった。
ふと気付くと、東口に来ていた。
小丘駅には西口と東口がある。私たちは西口の駐車場から来たので、反対側まで来てしまっていた。
ルコウさんたちから連絡がないところを見ると、あちらもまだ何も見つけていないのだろう。
しかし、こんなにも見つからない物だろうか? もしかして虚言だったとか?
いや、そもそも犯行声明が出されたのは、今日の明け方頃。
その頃はまだ、駅も駅ビルも開いていなかったんじゃないか?
まあ、始発は朝の五時前くらいだけど。
ひとまず、駅の東口の周囲を探索する。
東口には大規模な駐輪場や車用のロータリーなどがある。その向こうにはコンビニがあり、結構な人が利用していた。
その時、不意に日の光が遮られた。
事務所を出た時は晴れていたが、曇ってきたのか?
私は、天気を確認するために空を見上げた。
「──えっ?」
そして、〝不審なモノ〟を見つけた。
空に、何かが浮いている。
なんだ? 丸い……だめだ。よく分からない。
私は、スマホのカメラを向け、最大までズームして撮影した。
そして、撮った写真を確認する。
「なんだろう? ……虫?」
強いて言うなら、カブトムシの幼虫を巨大化させたような物に見えた。
神異探知用のお札は、距離がありすぎて反応していない。
なんでそんなものが空に浮いているんだ? 風船?
しかも、よく見ると、同じような物が駅の上空に複数浮いている。
いや、それにしては、風に流されることもなく、一定の場所に留まっている。
ん? ……一定の場所に留まっている?
そのことに気づいて、嫌な感覚がした。
あ、私、それができる天賦の持ち主を知っている……。
いや、まさか……。
「……と、そんな場合じゃない!」
私は、ルコウさんたちに画像データを添付してメールを送った。
◇
「なるほど、確かに不審な物だ」
私のメールを受けて一同が集まり、空を見上げていた。
ちょっと変な集団だ。
「どうにかするにしても、かなりの上空だな。新幹線のホームの屋根に登っても届かないんじゃないか?」
「でしたら、カラスバに……」
「え!?」
蘇るキャンプの夜の悪夢。
「カラスバは飛べるが、持久力がない。ここでは、ニゲラの氷の足場も作れないから、危険だろ?」
「そ、そうですね……」
あ、アオハさんが、ガッカリしてしまった。
「他に飛べる奴か……」
「まあ、ひとまず、ウツギに報告しておくぞ」
と、ルコウさんが支部長のウツギさんにメールを送り始めた。
「とりあえず、駅の最上階まで行けるように……」
「あれ? 君たち、そのジャンパーを着ているってことは、この地域の対策局の退異師だよね?」
「え?」
声のした方を見れば、濃紺の着物の上に銀鼠色の羽織を着た男性がいた。長い白髪をゆるく結っており、瞳の色は灰色だ。
なんだか既視感のある人だ。初対面のはずなのに……。
「あ、あなたは……!?」
アオハさんが、驚いている。
「ん? 初めましての子が二人いるな。んじゃ、自己紹介しとこうかな」
白髪の男性は、咳払いをして続ける。
「あっしは〝白秋院オルレア〟。本部から派遣された助っ人だ!」
そう言いながら、退異師の身分証を見せてサムズアップする。
……あ、ああ! 知ってる!!
この人、原作漫画でも出てくる準レギュラーキャラじゃん!!
白秋院家の長男で、その血筋らしく、複雑なカラクリを操って戦うことに長けている。そのうえ、武器やカラクリを自ら作るのも得意な武器屋だ。
原作でも、主人公たちの武器を作っている。
でも、助っ人なのはありがたいけど、武器屋の彼がいたところで、上空にある怪しいものをどうにかできるのか?
「俺は、玄冬院ニゲラだ」
「あ、長閑ルリカです!」
「ふむ、君たち新人さん?」
「はい」
「もし、欲しい武器があったら、言っとくれ! なんでも手配するし、場合によってはあっしが作るよ!」
「あ、ありがとうございます……」
「それで? 君たちは何をしていたんだい?」
「実は……」
アオハさんが事情を説明した。
「なるほど。それなら、あっしも協力できそうです。チトセ!」
あ、そういえば、オルレアさんの契約神異は確か……!
オルレアさんの影から、サバトラ柄の子猫……いや、子虎の姿をした神異が出てくる。
その背には一対の白い羽があり、飛べる!
『あら、何よオル? 事務所までは、まだ電車を乗り継ぐんでしょ? 予定より早く着いたんだから、ちゃんと連絡しなきゃダメよ?』
「いや、あっしの助けを必要としている仲間と早々に合流できたんだ」
『そりゃ、良かったわね。で? どうしたの?』
「チトセ、あれが見えるか?」
『あれ? ──あら? あれって〝婿取山の主〟の端末じゃない』
「分かるんですか?」
『昔、オルと討伐に参加したことがあるわ。その時は、為す術もなく逃げ帰ったけど』
「あはは、あんときはあっしも若かったから、逃げるのに必死だった。それじゃあ、アレをなんとかするために協力してくれるかい?」
『仕方ないわね。でもあれ〝爆破蟲〟でしょ? 触るだけで爆発するかもしれないわ。あたしだけじゃ、どうにもできないわよ?』
「ふむ、それなら……」
オルレアさんが、一同を見回した。
そして、私と目が合う。
あれ? 嫌な予感と、デジャビュが……。
「この子なら、背中に乗せて飛べるんじゃないか?」
「え?」
嫌な予感が的中した……。




