36 ルリカと新しい仲間!?
◇
「雨月ツノゴマって……」
「フヨウたちの仲間の……!?」
アオハさんとルコウさんも驚愕している。
「ああ。退異師養成所に通ってもらっていたんだが、今回協力してもらうことになった」
「え〜と……」
「大丈夫なんスか?」
「ツノゴマ」
「はい」
ツノゴマ君は、一呼吸置いて続ける。
「ボクこと、雨月ツノゴマは、誠心誠意、神異対策局のために働くことを誓います!」
「……これ、大丈夫か?」
瞳孔の開いた目で言われて、みなさん戸惑っている。
退異師養成所って大丈夫な機関?
「丁度、ウチに人形使い系の人材が不足していてな。上層部との協議の結果、彼の兄の処分を保留する代わりに、協力してもらうことになった」
「な、なるほど……」
司法取引的なことかな……?
「さて、君たちを呼んだのは、今回の婿取山の主の討伐を頼みたいからだ」
「え?」
「アタシたちに?」
「ルコウはこの支部最強で、アオハは全体を見てまとめる能力に優れている。イワツメとバショウも経験は豊富だ。ニニゲラは経験が浅いが、膨大な魂力と強力な魂術を扱えるし、ルリカは治癒の天賦を持っている。ツノゴマも人形使いとしては優秀だ。
婿取山の主の討伐には十分だろう?」
「本当の理由は?」
と、ルコウさん。
「十分に休暇を取って、元気なのが君たちだけだ」
「ああ、地方の対策局は万年人手不足ですからね……」
アオハさんも納得している様子。
「それはいいけどさ〜」
「私たちだけでは、さすがに荷が重いのでは?」
イワツメ先輩とバショウ先輩も、討伐に加わること自体に異論はないようだが、不安げだ。
「もちろん、他の職員も協力はする。それに、本部から助っ人も来る予定だ。まあ、来るのは二、三日後だがな」
「本部から〜?」
『え〜?』
ルコウさんとワタゲさんは不服そうだ。
そういえば、初めて会った時に、ワタゲさんは本部の人のせいで怪我をしたって言っていたっけ……。
「心配するな。前回視察に来たクソッタレとは違う、話の分かる奴だ」
「本当か〜?」
「とにかく、頼んだぞ」
◇
「本部からの助っ人ねぇ……」
「どんな方がくるのでしょうか?」
ウツギさんの執務室から会議室に移り、今後の予定を立てることになった。
「あんまり期待しないほうがいいぞ?」
『ああ、前回のアレは酷かったからな……』
「前回というと、ワタゲさんが怪我をした?」
「そうそう」
『あの後、ルリカに出会わなければ、当分怪我の治療に専念せねばならなかった……』
「え? ルリカちゃん、神異も治せるの?」
「あ、はい……」
「それはいい! 人間を治せる治癒師はそれなりにいるが、神異を治せる者は少ないですからね!」
「そうなんですね……」
そういえば、そんな話を聞いたことがある。
でも神異って回復力凄いから、そこまで重要ではないけどね。
「お二人さん、そんなことより……」
ルコウさんは二人の話を遮ると、ツノゴマ君を顎で示した。
「オマエ、アタシたちに言うことがあるんじゃないのか?」
「謝罪でもしますか? 申し訳ございませんでした」
そう言って、頭を下げるツノゴマ君。ポニーテールにまとめた黒髪が、サラサラと揺れる。
「はぁ〜〜っ?」
「ルコウ、落ち着いて。お互い思うところはあるだろうけど、今は〝婿取山の主〟を倒すことを考えよう」
「とはいえ、どうする?」
「現在の状況は、芝草市の市営体育館が爆破され、犯行声明が出されているだけです」
「内容は?」
「ええと、『婿取山の主の望みを叶えよ。さもなければ、このようになる。その準備もすでにできている』……だね」
「随分、オレ様な要求だな〜」
「婿を取るのだから、女性なのでは?」
「それより、相手が爆破の準備をしているなら、それを探し出せれば、対処できるんじゃないか?」
「そうなんですが、範囲が特定できませんと……」
「それなら、ツヅミに探してもらおう!」
「ツヅミさん?」
「そういえば、遠視とか透視ができるんだったか?」
「そうだ。いっつも事務所の自室で暇してるから、会いに行くと喜ぶぞ!」
「そ、そうなんですね……」
「……」
そんなわけで、ツヅミさんに会いに行くことになった。
◇
「ええと、大したおもてなしもできませんが……」
ツヅミさんの部屋は、対策局事務所の三階にあった。
畳敷きで、い草の香りが満ちており、ザ・和風といった感じの部屋だ。
部屋の中央にはちゃぶ台があり、正面の壁の真ん中には丸い大きな鏡がある。炎のような装飾で縁取られており、地獄で亡者の罪を暴く鏡に似ている。
その部屋で過ごしているツヅミさんは、白を基調とした巫女服のような格好をしていた。袴の色は橙色だ。
「こちら、粗茶でございますが」
割烹着姿の和服美人が、お茶とお茶菓子を用意してくれる。
「あ、こちらは、鏡草オオネさん。私の身の回りの世話をしてくれている方です」
オオネさんがぺこりと頭を下げる。
土用院家の方々は、遠隔透視や予知によって、神異や禍津祠などが発生した場所、あるいは、あるいは、これから発生する場所を特定できる〝千里眼の天賦〟を持っているらしい。
そんな貴重な魂術や天賦を持っているので、専属のお世話係がいても不思議ではない。
「それで、話は聞いています。〝婿取山の主〟が爆発物を仕掛けた施設を探すんですよね?」
「はい」
「話が早いな」
「神異の情報は逐一、わたしの所にも来ますから。範囲は県内南部を中心に、その周辺でいいですか?」
「そうだな」
「ですね。いくら人間から転化した神異でも、自分の祠から長くは離れられないし、その能力を安定して発揮できる範囲も、せいぜい県内くらいでしょう……もちろん、例外もいますけどね」
「では、その範囲で視てみますね」
ツヅミさんは大きな鏡の前に座り、鏡をじっと見つめる。
すると、鏡とツヅミさんの蜜柑色の瞳が輝き始めた。
「──オオネさん、筆と紙を」
「こちらに」
オオネさんが、筆ペンとクリップボードにセットされた紙を渡す。
ツヅミさんはそれを受け取り、顔を鏡に向けたまま紙に何かを書き始めた。
「──こんなところでしょうか?」
鏡と瞳の光が収まると、ツヅミさんはアオハさんに、書き終わった紙を渡す。
「……ありがとうございます」
「場所は?」
「そうですね……」
アオハさんとルコウさんは、ツヅミさんのかいた紙を見ている。
「……はぁ」
「ん? ツヅミさん、大丈夫ですか?」
「あ! は、はい。すみません!」
「お疲れのようですね……」
私は、お札ホルダーから〝万象札〟を一枚取り出すと、そこに疲労回復の術式を魂力で焼き付ける。
「これ、持ってると自動で疲労を回復してくれるお札です」
「え?」
「あ、描かれている文字や図柄が薄くなったら、効果が切れた証拠なので、適当に捨ててくださいね!」
「は、はい……ありがとうございます……」
「ずるいぞ! 俺もルリカのお札欲しい!!」
「ニゲラ君はいつも元気じゃないか……」
「……俺も少し頭が痛いかも?」
「ワザとらしいぞ、ニゲラ」
「体調が悪いなら、私も回復のお札は使えますので、差し上げますよ?」
と、イワツメ先輩とバショウ先輩が、それぞれ口を挟んだ。
「……いや、もう治った。さっさと任務に行こう」
「あはは、それじゃあ、ツヅミ。ありがとな」
「助かりました」
「まあ、無理はするなよ?」
「それじゃあ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
ツヅミさんと同期のイワツメ先輩とバショウ先輩は、仲が良いらしい。
こうして、私たちはツヅミさんの元を後にした。
◆◇◆
ルコウたちが去ったあと、土用院ツヅミはルリカから貰った疲労回復のお札をじっと見つめていた。
(わたしのために作ってくれた、お札……)
ツヅミは胸が温かくなり、その喜びを噛み締めた。
(同年代の女の子に、こんなふうに心配してもらったの、初めてかも……)
土用院家は千里眼の天賦で神異を感知するほかに、魂力の回復薬なども作ることを得意としており、ツヅミもこの支部ではその役割を担っていた。
対策局内では重要な役割を担っているのだが、気弱なツヅミはどうにも舐められやすく、周囲からは、彼女が尽くすのが当たり前だと思われていた。
もちろん、同期で幼馴染のイワツメとバショウは、彼女をいつも気遣っている。だが、常に一緒にいられるわけではないため、なかなか彼女の現状を改善できなかった。
(お友達に、なれたら良いな〜なんて……)
「ツヅミ様」
「あ、はい! すみません、オオネさん! 皆さんが大変な時に浮かれて!!」
「お守り袋、ご用意しましょうか? その方が、お札も長持ちしますし」
「え?」
ツヅミは一瞬、ポカンとしたあと、オオネの言葉の意味を理解した。
「あ……はい! ぜひ、お願いします!」
「かしこまりました」
「あ、片付け手伝いますね!」
ツヅミはルコウたちに出した湯呑みとお茶菓子を、お盆の上に乗せ、オオネに渡した。
「ありがとうございます」
専用の給湯室に向かう間際、オオネはチラリとツヅミを見る。
「お友達に、なれるといいですね」
「え?」
ツヅミは真っ赤になった。
「そう、ですね……」




