31 ルリカといきなりキャンプ
◆
そして翌日の午前中……。
「おはよう、ルリカ! さあ、行くぞ!!」
「え? ルコウさん!? おはようございます!?」
「すみません、朝早くから……」
「アオハさんまで!? 一体どうしたんですか!?」
ルコウさんとアオハさんが来た。
緊急事態!? ……かと思ったが、ウツギさんからは何の連絡もないので、たぶん違う? 二人とも緊張感がないし……。
「実は……」
「ルリカ、誰が来たんだ?」
「あ! ニゲラ君、ちょっと待──」
「え?」
「は?」
「ええ!?」
三人が驚きの声を上げ、私は頭を抱えた。
「なんだ、二人とも同棲していたのか?」
「なんと……」
「ち、違います! 昨日、たまたまニゲラ君がうちに泊まっただけで……大雨だったので!」
私はルコウさんの言葉を否定する。
「まあ、そういうことにしておくわ」
ルコウさん、ニヤニヤしてる。
信じてないな……?
「……それで一体、何があったんですか?」
「おお、そうだった。ニゲラもいるなら、一緒に来い」
「は? どこに?」
「これから四人で、キャンプに行くぞ!」
「キャンプ!?」
「いきなりだな……」
「期間は今日から一泊二日。コテージに泊まる予定だから、キャンプ道具の準備は必要なし。コテージは風呂・トイレ付き。
必要なら、普段使っている化粧品と着替えだけ持ってきてくれ。化粧水とメイク落としは、アメニティとして用意されている。
食材は行く途中でも買う予定だ」
「そ、それなら……」
「まあ、いいか……」
今日は特に予定がなかったので、誘いを受けることにした。
◇
それから私とニゲラは準備をして、ルコウさんの車に乗り込んだ。
いつもの癖で、お札ホルダーも持ってきてしまったけど、使うかな?
いつもどおり、運転するのはルコウさん。助手席にはアオハさんが座り、その膝の上には小型犬サイズになったワタゲさん。後部座席には私とニゲラだ。
アオハさんが最近契約した、黒いヒヨコ型の神異であるカラスバちゃんは、アオハさんの影の中で寝ているらしい。
「一体どこのキャンプ場に行くんですか?」
「『青蔓ふれあいの森』っていうキャンプ場。テントを張って泊まることもできるけど、コテージもあるんだ。湧き水が豊富で、蕎麦が美味いらしい」
「へ〜。でも、どうしていきなり、キャンプなんですか?」
「あ〜、それは……」
「支部長からの命令ですね」
「支部長さんからの?」
「ルコウは夏畑中学の事件で最も大きな功績を上げた一方、誰よりも無茶をして疲弊していましたからね。
それなのに、退院した翌日から訓練所で筋トレし始めて……。
さすがに休めと言われて、キャンプに行くことになったのです」
言葉を濁したルコウさんに代わって、アオハさんが説明を続ける。
「それで六人用のコテージの予約が取れたから、アオハとルリカ、そしてニゲラも誘ったわけだ。
イワツメとバショウは二人で別のところに旅行に行ってるとかで、捕まらなかったな」
「なるほど〜」
「あの二人、プライベートでも一緒なのか……」
あまりにもルコウさんが休まないから、強制的に休ませようってことかな。
でもなんで、キャンプ?
「まったく、だからといって刀まで取り上げなくてもいいだろうに!」
「あったら、素振りし始めるだろ?」
「肉体っていうのは、一日筋トレをサボっただけでも衰えるんだぞ?」
「筋トレだけなら、刀がなくてもできますよ」
あ、ルコウさんが不満そうなのは、愛用の刀がないからかな?
『刀がなくとも、儂がいるから問題はないぞ』
ワタゲさんはフンスと胸を張る。
「そーだな。期待してるよ……」
そんなわけで、まずはキャンプ場近くのスーパーに立ち寄り、夕食と明日の朝食分の食材を購入。
「バーベキューするからな! とにかく肉だ! 代金はウツギが支払ってくれるらしいから、遠慮するなよ!!」
「野菜も買いましょう。朝食用のカレーも作りますから」
「俺、キャンプなんて初めてだ……アイス買って良いか?」
「さすが、キャンプ場最寄りのスーパー。でっかいマシュマロがありました! あ、バナナやパイナップルも、焼くと美味しいらしいですよ!」
私も前世でも今世でも、キャンプをした記憶はほとんどない。強いて言うなら、小学校時代の宿泊学習くらいだ。
でも知識はなんとなくある。
前世の動画サイトで一時期、キャンプ動画を見まくったせいかもしれない。
「おう、そいつも全部買っていこう。クーラーボックスがあるからアイスも大丈夫だ。氷も追加しておくか。酒は……」
「一応、対策局名義でコテージを予約してるんで、ノンアルコールにしてください」
「チッ、しゃーないな。おい、二人も飲み物をいくつか買っとけよ。現地にも一応、売店と自販機はあるが、観光地価格だからな」
「「はーい」」
買い物が済んだので、私たちはキャンプ場へと向かった。
◇
キャンプ場に着くと、まずは受付を済ませて料金を支払い、それから、宿泊予定のコテージに向かった。
車を横付けできないので、買った食材などを自分たちで運ばなければならないのは、ちょっと大変だ。
駐車場にあるのが私たちの車だけなのは気になるが、アオハさん曰く、まだ時期が少し早く、しかも平日だかららしい。
一応、テントサイトの方には、数人の利用者がいるらしい。
そちらは車の乗り入れが可能なので、利用者の車は駐車場にないのだとか。
荷物を運び終わったので、ひとまずコテージの設備と備品の確認。
コテージ内には、台所とトイレ、お風呂が備わっていた。
ベッドは二つだが、小上がりになった畳スペースがあり、そこに敷布団を敷いて寝られるようになっていた。
ちなみに、ほぼワンルームだ。
希望すれば、寝巻きとして浴衣の貸し出しもしてくれるし、浴室にはシャンプーとコンディショナー、ボディソープも設置されていた。
意外にも、化粧水やメイク落としが入ったアメニティセットまで人数分用意されていた。ちなみにこのアメニティは受付でも売っている。
「な? 手ぶらでよかっただろ?」
「アメニティは対策局職員へのサービスなんですよ。それにここ、対策局の福利厚生で割引が利くんです」
「なるほど。ありがたいですね」
それで、キャンプなのか。
その後、軽い掃除をし、先にベッドメイキングと敷布団の準備をしてから、少し早い夕食の準備をすることになった。
コテージの前には、専用のバーベキュースペースがあるし、網もレンタルできるのだ。
「ルリカさん、これ食べやすい大きさに切ってもらえますか?」
「はい!」
「ニゲラ君は、こちらをちぎってください。サラダにします」
「了解」
私とニゲラは、アオハさんの指示に従って食材を準備。
私たちの料理の腕に合わせて指示を出してくれるので、とてもやりやすい。
あっという間に、準備が整った。
ちなみに、ルコウさんとワタゲさんはというと……。
「火起こしは終わったぞ〜」
筋トレしながら、バーベキュー用の火を起こしていた。
料理が苦手なのかなと思ったが、アオハさんによると、そういうわけではないらしい。
ただ「よそ様の施設を破壊するのは、よろしくないので……」と、アオハさんが言っていた。
一体、何があったんだ……。
その後、たっぷりと買い込んだ食材を焼き始めた。
そういえば、この日はまだ昼食を食べていなかったので、かなりお腹が空いていた。
そのせいか、多いと思っていた肉も、あっという間になくなったのだった。
そして、大きなマシュマロやバナナを焼く頃には、辺りは暗くなっていた。
「マシュマロを焼くのか? バナナも?」
「うん。マシュマロは棒に刺して、とろとろにする感じ。バナナは皮ごと焼いて、皮が黒くなると中身がとろとろになって美味しいらしい」
「両方とも、焼いてとろとろにするのか」
「そうだよ。あ、ニゲラ君が買ったアイスも一緒に食べると、美味しいかも」
「そうだな。とってくる」
ニゲラが、冷凍庫に入れてあるアイスを取りに行った。
この世界でも、バーベキューでマシュマロを焼くのは定番らしいね。
ちなみに、一緒に買った丸々一個のパイナップルは、食べきれないと判断され、翌朝のデザートにすることになった。
◇
「そろそろ、片付けますか」
「「はーい」」
バーベキューの片付けが済むと、自由時間となった。
「アオハは朝食のカレーの準備をするらしいから、私たちは花火でもしよう。コテージ周辺は花火をしてもオッケーなんだ」
「花火!?」
「いつの間に……」
「ここの最寄りのスーパーじゃなくて、アタシの家の近くで買ったんだ。花火の問屋が近くにあるんだよ。時期は早いけど、在庫があって助かった」
「花火の問屋!?」
そんなのあるんだ!?
ルコウさんが持ってきたのは、手持ち花火数十本と、打ち上げ花火数個。
何より驚くのは、手持ち花火のゴツさ。
スーパーなどでセットで売っている花火が、モヤシに見えるくらいに太くて長くてゴツい!
火をつけてみると、結構な迫力で、燃焼時間も長い!
「こ、これが花火……」
どうやら、花火をするのも初めてらしいニゲラも感動しているようだ。
朝食の準備を終えたアオハさんも加わり、打ち上げ花火も楽しむ。
「ここに火をつければいいのか?」
「そうだ。点火したらすぐ離れろ──って、なんで倒すんだ!?」
「火がついてますよ!?」
「おっと」
「わあああああっ!? 〝水檻〟!」
ちょっとしたハプニングもあったが、持ってきたお札で事なきを得たのだった……。
その後は順番にお風呂に入り、就寝。
ベッドは、私とルコウさんが使うことになった。
初めは緊張して眠れるか不安だったが、疲れていたのか私はあっさり眠りに落ちてしまった。
◇
「……?」
ふと目が覚めた。
スマホを確認すると、まだ真夜中だ。
他のみんなは寝ている。
一度寝ると、朝まで起きない体質なんだけど、やっぱり新しい場所は眠りが浅くなるのかもしれない。
再び眠ろうとした時、妙な気配を感じた。
これは……神異!?
私は警戒しつつ、外の様子を窺う。
どうやら、神異らしきものは、コテージの周りをぐるぐると回っているようだ。
どうする? ルコウさんたちを起こす?
そんなことを考えていると、背後から抱きしめられた。
ぎょええええええっ!?
私は、声にならない叫び声を上げた──。




