21 ルリカと魂術師(敵意有り)
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ルコウさんとフヨウが鍔迫り合いをする一方、アオハさんは魂術で作った球を、魂力をまとわせた脚で蹴り飛ばし、エゴマのトランクから出てきた何かに叩き込んだ。
フヨウの武器は大剣だ。細身の女性なのに、軽々と扱っている。
朱夏院家の遠縁らしいので、肉体や武器を強化できる魂術が使えるのだろう。その戦いぶりは、凄まじい迫力だ。
一方、エゴマのトランクから出てきたのは、三面六臂の女性型の人形だった。三対ある腕のうち、一対は鎌のようになっており、下半身は蠍の姿をしている。
〝物〟を使う戦い方からして、白秋院系の魂術師のようだ。
アオハさんの攻撃は、その人形に受け止められ、弾かれた。
明らかに、あのトランクには収まらない大きさだが、空間系の魂術でも使っているのだろうか?
「ひえええ、境内での戦闘はご遠慮くださ〜い!」
社務所の方から、神主さんが叫ぶ。
「……聞いたか? フヨウ」
「……聞いたわね、ルコウ。
でも、この神社が壊れたところで、私たちに何か不都合があるかしら? 少なくとも、私は困らないわ!」
そう言ってフヨウは、ルコウさんを弾き飛ばす。
「相変わらずのゲスか……」
ルコウさんは足で地面を削り、土煙を上げながら止まる。
「貴方も同じ意見でよろしいですか?」
「……そうだな」
アオハさんの問いに、エゴマが答える。
「だが、被害が出る前に済ませれば良いわけだ。それなら神社に迷惑はかからない」
「──っ!?」
異様な気配を感じ、そちらに目をやると、私たちの背後に、エゴマのそばにいるものと同じ、三面六臂で下半身が蠍の女性型人形が二体立っていた。
「大人しく、朱塗りの祠を渡せ。期待の新人二人を、ここで死なせたくはないだろう?」
「……」
「おっと、ぼんやりする暇はないぞ? まずは、お前から倒すからな」
アオハさんとエゴマが戦い始める。
うむむ、何とも卑怯な方々だ。
目的のためには手段を選ばない感じだ。
さて、どうする?
ルコウさんはフヨウと戦っている。神社に被害が出ないよう戦っているので、やりづらそうだが、フヨウを引きつけてくれている。
しかし、アオハさん一人でエゴマと人形一体を抑えながら、残る二体にまで対処するのは厳しいだろう。
人形使いの魂術師は原作漫画『東都神異録』にも出てきた。
今対峙しているエゴマとは別人だが、原作では、人型の人形を何十体も操る敵を、操り手本人を倒すことで無力化していた。
それならとエゴマの方を見るが、肉弾戦でアオハさんと渡り合っている。人形はついでに使っているような戦い方をしていた。
普通に本人が強そう。
そして、目の前の二体の異形の人形は自動で動いているのか?
こちらの一挙手一投足を、じっと観察している。
なんか、原作に出てきた人形師より強くない?
モブである私じゃなくて、原作主人公にそういう敵をぶつけてほしい。
とりあえず、人形と使役者をつなぐ魂力の接続を切れば、動きは止まるだろうけど……。
防御壁でこちらへの攻撃は防げる。まずは、〝風刃〟のお札で攻撃してみよう。
その動きに反応して、人形の一体が鎌になった腕を振りかぶり、攻撃してきた。
しかし、鎌は防御壁に阻まれ、私たちまでは届かなかった。
だが、なんとなく違和感があるな?
エゴマと共闘している人形とは、どこかが違う気がする。
具体的に何が違うのかは、分からないけど。
そもそも、アオハさんとあれだけ激しく戦いながら、こちらの二体まで同時に操れるのだろうか。
ある程度は自動で動くように作られているのか?
「ルリカ」
「うわ!? ニゲラ君?」
ニゲラが私のそばへ来て、耳元で囁いた。
「もう一人いる」
「──え?」
ああ、なるほど。
「ニゲラ君、居場所は分かる?」
「ああ」
「なら、捕まえてきて。でも、絶対に殺さないでね!」
「了解」
ニゲラの姿が消える。
え? 転移した? 瞬間移動?
彼、そんなこともできるのか? さすが、原作序盤のボス。
ニゲラが消えたことに気付いたのか、二体の人形の動きが慌ただしくなる。
「ひええぇ〜」
朱塗りの祠を守っているので、下手に身動きは取れない。
だけど!
私は〝万象札〟を数枚取り出すと、即興で術式を焼き付けて放った。
放った札は人形たちを素通りし、近くの木々に張り付く。
すると、木の根がタコの足のように蠢き始め、人形たちへ巻きついた。
これで、ひとまず動きは封じた。
〝金縛り〟のお札だと、人形相手に効果があるか分からなかったので、この方法にした。
木を操るお札の名は〝操樹〟とでも名付けようか。
〝万象札〟は、このように術者が思い描いた効果を自由に再現してくれる。
その分、術式の知識は必要だけどね。
木の根を通して、人形へ流れ込んでいる魂力をたどる。
その時──。
「うぎゃっ!?」
そんな叫び声と共に、ニゲラが戻ってきた。
その隣には、ゴスロリ姿の女の子(?)が倒れていた。
ニゲラが連れてきたらしい。
何故、女の子と言い切れないのかといえば、明らかに声が……。
「コイツが、この二体の人形を操作していた魂術師だ」
「う、うん……」
「ちなみに男だ」
「え!?」
「ちょっと、なんでバラすんだよ!!」
やっぱり! 女装系男子?
「ツノ!」
エゴマの関心がこちらに向いた。
彼が使役している人形が、こちらへ向かってくる。
「──っ」
私は、迫る人形との間に新たな防御壁を展開する。
しかし、祠を守る防御壁と、人形二体を拘束する術にも魂力を割いているため、少しばかり許容量を超えてしまった。
いや、いつもなら、術ごとの魂力の配分を調整して、もう少しうまくやりくりできるんだけど、こうも立て続けに予想外のことが起きると、魂力の配分を計算している余裕なんてないな……。
「やめろ!」
アオハさんが、エゴマを止めようとするが、殴り飛ばされる。
「ルリカ! ──っ!?」
ニゲラが駆け寄ろうとするが、その体にはいつの間にか魂力でできた糸が絡みついていた。
「おっと動くなよ? 少しでも動けばズタズタになるぜ?」
ゴスロリの少年が残忍な笑みを浮かべている。彼の仕業か。
「……」
「え? え? ちょっとっ!?」
ニゲラはゴスロリ少年の言葉も聞かずに、こちらに向かってくる。
そのせいで、糸が食い込んだ箇所から血が滲む。
「わあ!? ニゲラ君、止まって!! 私のことはいいから、自分のことを大切にして!!」
じゃないと、序盤ボスに近づいてしまうかも!?
自分の体を顧みないニゲラに、ゴスロリ君が慄く。
「しかし……」
「おい! あんたの体、ズタズタにできるって言ってんだろ!? 動くんじゃねーって!!」
自分でやっといて、ゴスロリ君が慌てている。
悪い奴ではなさそうだ。
「それなら離せ」
「できるか!!」
ニゲラは、絡み付いた糸をものともせず、ゴスロリ君の注意を引きつけている。
アオハさんはエゴマと戦い、ルコウさんはフヨウと戦っている。ルコウさんは神社への被害を気にしているため、本来の力を出し切れてはいない。
私は朱塗りの祠を防御壁で守りながら、木の根でゴスロリ君の操る人形二体を拘束している。さらに、エゴマの人形を防ぐため、もう一枚の防御壁も展開中だ。
正直、膠着状態だ。
何か、この状況を崩すきっかけがあれば……。
その時、後方から、光が迸った。
これは……もしかして、朱塗りの祠から神異が生まれた!?
一同の視線が、朱塗りの祠へと注がれる。
光る朱塗りの祠から、何かが飛び出してきた。
それは空中を旋回したかと思うと、私の防御壁へ攻撃を続けていたエゴマの人形の胸部を貫いた。
「な──っ!?」
あっけに取られたエゴマを、アオハさんが蹴り倒す。
「では、こちらも」
「え──?」
「これ以上、様子を見る必要もないな」
ニゲラがゴスロリ君の腕をつかむ。次の瞬間、ゴスロリ君の体から力が抜け、その場に崩れ落ちた。
「な、何を──」
「玄冬院系は魂力が多く、他者に分け与えることもできる。そして、その逆もできる」
「まさか……オレの魂力を……?」
ゴスロリ君から人形への魂力供給が途絶え、二体の人形も動かなくなる。
念のため、木の根で拘束し続けておこう。
「これは──」
『ぴよっ!』
そして──なんか黒くてでっかいヒヨコがそこにいた。




