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バトル漫画のモブに転生しましたが、何故か序盤ボスに溺愛されています!?  作者: 彩紋銅


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20/30

20 ルリカと朱塗りの祠

 ◇◆◇


「ダメだ! まだ早い!!」


 休み明けの朝。

 出勤早々、支部長さんの怒号が飛ぶ……いや、ただ声が大きいだけか。


「何故だ? 夫婦なのだから、一緒に暮らしてもいいだろう?」


 理由は、ニゲラが私との同棲を支部長さんにお願いしたからだ。

 まさか、本当に支部長さんへ直談判するとは……。


「婚姻契約の上ではな。だが、君たちはまだ友人だろう?」


 支部長さんが、こちらを見る。


「そ、そうですね……」


「そんな! 昨日はあんなに仲良くしていたじゃないか!!」


「私の自宅で、友人として一緒に過ごしただけですね。私も、同居するのはまだ早いと思います」


 あえて、同棲ではなく同居と言わせてもらう。


「な!? 酷いぞ、ルリカ! こんなに俺は好きなのに!!」


 ニゲラが涙目になりながら、私をぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。


「うぐぐ……」


 内臓が口から飛び出しそうだ……。


「本当にルリカのことを好きなら、自分の想いを押し付けるだけでなく、相手のことを思いやれるようになれ」


「相手のことを?」


 ニゲラの手が緩む。


「分からないか? それなら、ルリカとちゃんと話し合うんだ。コミュニケーション不足が、すれ違いや勘違いを生むんだからな!」


「そ、そうか……」


 ニゲラは私から少し離れ、今度はきちんと距離を取った。


 他者のアドバイスを素直に受け取れるのは、ニゲラの良いところだろう。


「ルリカ、すまない。気が急いてしまった。だが、俺はルリカとずっと一緒にいたい。ルリカはどうだ?」


「私も、ニゲラ君のことは好きですよ」


 ニゲラの表情が明るくなる。


「だけど、今はまだ、友人としての『好き』なんです。だから、その……できれば待っていてほしいというか……」


「……そうか。今は嫌われていないだけで十分だ」


「ありがとう」


「でも、俺はいつだってルリカのことが好きだから、忘れないでくれ!」


「は、はい!」


「では、話もまとまったし、仕事に戻ろう」


 でも、私が彼の大切な人になると、私が死ぬ可能性があるんだよね……。

 とはいえ、今すぐ何かできるわけではない。


 うん、面倒なことは、面倒なことが起きてから考えよう!


 こうして、ニゲラの直談判は終わったのだった。


 ◇


「ルリカ、部屋の外まで聞こえていたぞ」


「もう少し、声のボリュームを下げた方がよかったですね」


 事務所に戻ると、ルコウさんとアオハさんが残っていた。

 他の職員は待機組以外は、巡回に向かったらしい。


「あ、ルコウさん、アオハさん!」


「二人とも、聞いていたのか?」


「聞こえていたんだ。今回は、アオハとニゲラも一緒に巡回することになった」


「何かあったのですか?」


「ああ。担当地区のとある神社の境内で、朱塗りの祠が見つかった」


 と、ルコウさん。


「朱塗りの?」


「ということは……」


「ああ。もしかしたら、契約できる神異かもしれない」


 神異には人間と契約できるものもいる。

 その違いは明白で、普通の神異が生まれる禍津祠は石の祠に似ており、灰色をしているのが一般的だ。一方、人と契約できる神異の禍津祠は朱塗りで、形状も木製の祠に近い。


 また、そこから生まれる神異は、生まれた時から自我を持ち、人間との意思疎通もできる。通常の神異とは異なり、人体の部位や弱点となる目玉も、体内にあることが多い。


 一説には、通常の禍津祠と朱塗りの禍津祠では、()()()が違うのではないかといわれているが、定かではない。

 なお、人間と契約できる神異を生み出す禍津祠は、通常のものと区別して『朱塗りの祠』と呼ばれることもある。


「それで、朱塗りの祠を保護するために四人なのですか?」


「そうだ。人と契約できる神異は貴重だからな。神異と戦うというよりは人と戦うことになるかもしれない」


「人と……」


「相手は、対策局に所属していない()()退異師――いや、正しくは魂術師と呼ばれる連中だな」


 対策局に所属する魂術師だけが、「退異師」を名乗ることができ、対策局に所属していない者は、単に魂術師と呼ばれている。


「今回は、対人戦闘の訓練も兼ねているというわけですね」


「なるほど〜」


「へぇ〜」


 アオハさんの言葉に、納得する私とニゲラ。


「一応言っておくが、制圧のために怪我を負わせるのはやむを得ないが、殺すのはダメだ。正当防衛の結果ならともかく、最初から殺すつもりで攻撃すれば色々と問題になる」


「うちも一応、()()()()()()()ですからね〜」


「アタシとアオハが前衛を担当し、ルリカとニゲラは祠の護衛に徹してほしい」


「了解しました!」


「了解だ」


 そういうわけで、私たちはルコウさんの車で目的地へと向かった。


 ◇


「あれ? ワタゲさんは?」


 車中、ワタゲさんがいないことに気付く。


「ワタゲは私の影の中で待機している。新しく生まれてくる神異が警戒しないようにな」


「そうなんですね」


「俺たちが、新しく生まれる神異と契約してしまってもいいのか?」


 ニゲラの問いに、アオハさんが答える。


「問題ありませんよ。まあ、その神異が僕たちを気に入れば、ですけどね」


「契約できなくても、事務所へ連れ帰れば、相性のいい奴が見つかるかもしれないからな」


「連れ帰ることができるんですね」


「仮契約をすれば祠も一緒に移動できるよ」


 そういえば、仮契約だけなら、すでに別の神異と契約している人でも結べるんだったか。


 そうして、目的の神社に着いた。

 担当地区の中心からは少し離れており、周りを林と田んぼに囲まれている。

 ちなみに、早苗鳥家のあった地区とは反対方向で、別の地区だ。


 神社自体はそこそこの規模で、社務所にも神職の人がいる。

 どうやら、鳥にまつわる神社らしい。


「お待ちしておりました!」


 神社の神主さんが出迎えてくれる。


「お待たせしました。朱塗りの祠はどちらに?」


「ご案内します!」


 私たちは、神主さんの後に続く。


 この世界にも、神社やお寺はある。

 神話や信仰の内容も、前世の日本とほとんど変わらない。しかし、この国の神話に神異は登場しない。

 少なくとも、神異が公に認識されるようになったのは、かなり後の時代らしい。


「こちらですね」


 神主さんに案内された先は、本殿の横だった。そこに、小さな朱塗りの禍津祠がちょこんと鎮座している。

 家の庭先に置かれているような小祠(しょうし)を、さらに小さくしたような形だ。

 御扉(みとびら)が閉じているので、まだ神異は生まれてはいないらしい。


「では、我々で保護しますので……」


「あっれー? 先を越されちゃった?」


 その時、妙にキャピキャピした、若い女性の声が響いた。


「お前が、寄り道していたのが悪い」


 そこに現れたのは、奇妙な男女だった。


 女性の方は、深緑色の髪に一部黄色のメッシュが入った襟足の長いショートボブで、オレンジの瞳をしている。

 服装は、白地に虹の柄が入った丈の短いパーカーと、同じ柄のフレアミニスカートを身に着け、その下には黒いインナーと同色のスパッツを合わせている。

 年齢は二十代前半ほどだろうか。布に包まれた棒状の物体を持っている。


 男性の方は、強く波打つ赤褐色の長髪に、チューリップハットをかぶっている。丸いサングラスをかけているので、瞳の色は不明。コートを羽織り、全身を茶系でまとめている。

 手には革製のトランクを持っており、年齢はよく分からないが、声の感じからして結構若そうだ。


 二人とも系統は違うが、何故か『サブカル』という言葉が浮かぶ。


「あら? ルコウじゃない。アオハ君もいる〜」


「フヨウか」


 どうやら、二人の知り合いらしい。


「見ない顔が二人いるな……」


「それじゃあ、自己紹介でもしてあげましょうか?

 私は卯波フヨウ、魂術師ね。

 そこの雲ノ峰ルコウと朱夏院アオハとは親戚よ♡」


()()()()な」


 と、ルコウさんに訂正される。

 つまり、朱夏院系の魂術師か。


「雨月エゴマ。同じく魂術師だ……」


「それで? お二人は、何しに来たんです?」


 アオハさんが珍しく棘のある言い方をしている。警戒しているようだ。


「そりゃ、人間と契約できる神異の祠が現れたっていうから、回収しに来たのよ。自分で使役できなくても、欲しがる魂術師に高く売れるしね!」


「……この祠のことを、どこで知った?」


「さあね。それを教えるほど、仲良しじゃないでしょ?」


「死にたくなければ、邪魔をするな。特に、新人……」


 何とも物騒な言葉が飛び出した。


「ルコウさん、彼らは一体……?」


「男の方は知らんが、女の方は元対策局の退異師だ。素行が悪すぎたので、クビになった」


「あら、クビじゃなくて、私の方から辞めてあげたのよ」


 ルコウさんの言葉にフヨウが反論する。


「職場で男女関係のトラブルを起こしまくりましたからね」


「そのせいで、何人も異動する羽目になった。よりによって、忙しい時期に……」


 アオハさんが胃のあたりを押さえる。思い出したくないらしい。


「ふん、少し優しくしたら、コロッと恋人や伴侶を裏切る男の方がやばいっしょ?

 そんなことより、さっさとどきなさい」


 フヨウは、持っていた棒状の物体を包む布に手をかける。


「若人が死ぬのは見たくない……」


 エゴマもトランクを前に差し出す。


「そう簡単に、引くわけないだろう?」


「こちらも仕事ですから」


 ルコウさんは刀の柄に手をかけ、アオハさんは両脚に魂力を込め、戦闘態勢を取った。


「神主さんは避難してください!」


「は、はい〜」


 神主さんは、社務所へ駆けていった。

 魂術師の二人も、逃げる神主さんを追おうとはしなかった。


 私は朱塗りの祠を囲うように、防御壁を張った。

 ニゲラも私の隣で、二人の出方を窺っている。


 そして、フヨウは棒状の物体を包んでいた布を引き剥がし、エゴマの差し出したトランクが、独りでにバカッと開く──!







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