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バトル漫画のモブに転生しましたが、何故か序盤ボスに溺愛されています!?  作者: 彩紋銅


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2 ルリカと神異

 ◆


 次の日、引っ越しの片付けが一段落したので、私は買い物に行くことにした。


 近くのスーパーでは、揃わない物もあるので電車で少し遠出をし、大型商業施設(ショッピングモール)に向かう。

 念のため、攻撃用のお札もいくつか持っていくことにした。


 平日の昼間ということで、ショッピングモールは、客が少なめだった。


 必要な物を買い終えたが、一人で持ち帰るには多すぎるので、すべて配送してもらうことにした。明後日、届けてもらう予定だ。

 この辺りのサービスも、前世の日本とほとんど変わらない。


 買い物を済ませ、昼食をとって一休み。

 今日と明日の分の食料は、マンション近くのスーパーで買う予定だ。


 さて、帰ろうと建物の外に出たところで、異様な気配に気づく。


 これは……?


 私は、その気配がする場所へ行ってみることにした。


 ◇


 このショッピングモールには、〝庭〟と総称される屋外空間が複数ある。

 噴水を備えた人工池のある中庭が最も大きく、その他にも、憩いの場として大小さまざまな〝庭〟が設けられている。ただ、中にはあまり人の寄りつかない場所もある。


 そんな人けのない庭の一つで、そこで小さな()を見つけた。


 近代的なショッピングモールには似つかわしくない、禍々しい気配を放つ古びた石の祠だ。


 これは、人が作ったものではない。〝神異〟が発生する前触れである


 〝神異〟には、さまざまな種類がいる。


 人や動物などが何らかの影響で()()()()()()()()()が、その多くは発生原因すら分かっていない。

  ただ、そうした神異が現れる前には、元となる祠が、ある日突然その場に出現する。まるで一夜にして生えるキノコのように。


 そして、神異を生み出すその祠を、〝禍津祠(まがつほこら)〟という。


 目の前の祠はまだ、御扉(みとびら)が閉ざされているため、〝神異〟が生まれる前の卵に当たる状態といえる。


 これは……すぐに対策局に連絡したほうがいい。


 〝神異〟という脅威がいるのなら、それを倒す組織もある。

 その名も『神異対策局』。そのまんまな名前だ。

 昔は『特殊災害対策局』と呼ばれていたらしく、〝神異〟による被害は、災害として扱われていたらしい。

 いずれにしろ、『対策局』で意味は通じる。


 対策局は、強力な魂術を操る退異師(たいいし)が多数在籍している。

 原作漫画でも、後に主人公たちが後に所属することになる組織だ。


 ちなみに、対策局に所属せず、フリーで活動する者は〝魂術師〟と呼ばれている。

 異世界ファンタジー風にいうなら、魂術師は冒険者。退異師は国に仕える騎士といったイメージだ。


 なお、魂術師が仕事を請け負うための専用ギルドも存在するらしい。


 しかし、ショッピングモールのように大勢の人が集まる施設は、建設時に〝神異避け〟の結界を張るための設備を建物に組み込むので、基本的に、敷地内で神異が発生することはないはずなんだけどな?


 まあ、とにかく通報しておこう。


 私はスマホを取り出し、この地域を管理する対策局の支部に連絡を取ろうとした、そのとき──祠の御扉(みとびら)が開いた。


 内陣の中には御神体ではなく、一つの目玉がこちらを覗いていた。


 ──マズイ!


 その目玉が私の姿を認めた瞬間、〝神異〟が生まれた。


 ()()は、骨だけの魚のように見えた。


 だが、胸ビレに当たる部分には、人間の腕が生えている。

 頭部には下顎しかなく、そこから上はえぐれており巨大な目玉が一つあった。

 先ほど、御扉から覗いた目玉だ。

 全身骨なのに、人間の腕部分だけは皮膚も筋肉もあるしっかりした腕なので、なんとも奇妙な造形だ。


「仕方ない!」


 私は攻撃用のお(ふだ)を取り出し、その骨魚神異に放つ。

 効果は〝氷刃〟。お札を経由して氷の刃を作り出し、その目玉を狙って射出。


 しかし、胸ビレの代わりに生えた人間の腕が、飛来した氷の刃を弾く。


 やはり、先に人間の腕を無力化しないと、核は狙えないか。


 私は、捕まえようとしてくる骨魚神異の手から逃れる。

 生まれたばかりだからか、大した攻撃もしてこないし、動きも速くはない。

 一刻も早く目の前にいる他の生き物から、魂力を摂取したいという本能だけで動いているようだ。


 神異には必ず、人間と同じ体の部位がある。その部位を破壊すれば大幅に弱体化し、目玉の形をした〝核〟を壊せば討伐できる。

 この骨魚神異の場合、人の部位に当たるのは胸ビレ代わりの両腕、核はむき出しになった巨大な目玉だ。


 しかし、この骨魚神異の場合は両腕が邪魔をして、なかなか攻撃が当たらない。

 ショッピングモール内である以上、周囲への被害を考えて術の威力を抑えているのもあるが、早く倒さないと生まれたばかりの今は露出している目玉(弱点)も、成長すれば骨に覆われてしまうかもしれないし……。


 まあ、支援型の私では、一人で神異を倒すのは無理だけどね!

 正式な異師でもないしさ!!


 それでも、なんとかこいつを食い止めて、せめて対策局に連絡だけでもしないと……。


 その時、誰かの声が響いた。


「動くな!」


「え?」


 私がその言葉に従った瞬間、疾風のような魂力の塊が二閃、すぐそばを物凄い勢いで駆け抜けた。


『──ッ!?』


 二閃の斬撃は、骨魚神異の両腕を瞬く間に切断した。


 赤い髪をなびかせた人影は地面を蹴ると、空中に浮かぶ骨魚神異へ跳びかかり、その目玉を十字に切り裂いた。


『〜〜〜〜!!』


 骨魚神異は声にならない叫び声を上げ、黒い煙になって消滅した。

 その場には、その元になった禍津祠だけが残される。


 おっと、こちらも何とかしないと!


 神異だけを倒しても、禍津祠が残っていては神異はいずれ復活してしまう。だから、こちらも()()()()()()()()()()()


 私は禍津祠に近づくと、開いた御扉の奥、内陣に記された神異の真名を確認した。


 そして──。


「『骨天魚主(こってんぎょぬし)』は討伐しました! こちらの勝ちです!!」


 私の宣言で、禍津祠も黒い煙のようにほどけ、消滅した。


 その跡には、魚の骨らしきものが一揃い、残っていた。

 この魚の骨が、禍津祠を生み出すきっかけになったのだろうか?


 正月とかに出てくる、鯛の骨っぽい。

 わざわざ回収するほどのものでもないが、そのまま放置しておくのも良くないだろう。私は庭の隅に穴を掘り、魚の骨を埋めた。


 これで、さっきの骨魚神異──いや、骨天魚主が復活することはないだろう。この地の魂力をかなり消耗したからね。


「アンタ、大丈夫かい?」


 声をかけられた。


 振り向けば、赤い髪とオリーブ色の瞳を持つ女が、刀を鞘へ収めながら、こちらへ歩いてきた。

 女性はカーゴパンツと黒いジャンパーを着ており、姉御肌の格好いい雰囲気を纏っている。


 先ほど、骨天魚主を倒してくれたのは彼女なのだろう。


 ん? さっきの魂力の塊は、斬撃的なもの? 

 もし当たっていたら、私まで真っ二つになっていたのでは?


 い、いや、とりあえず、お礼を言っとこう。


「あ、あの! 助けていただいてありがとうございました!!」


「いや、こっちも仕事で来たんだ。気にするな」


「え?」


「うちに()()()()()がいてな。禍津祠の発生を察知したんだよ──と、自己紹介がまだだったな。

 アタシは雲ノ峰ルコウ。この辺りの対策局支部に所属している退異師だ」


 ほ、本物の退異師だ!


「私は、()()ルリカと申します」


 長閑(のどか)は偽名であり、青春院家の分家の一つが名乗る姓だ。

 一人暮らしを許してもらう条件の一つに、私が青春院本家の娘であることを明かさない、というものがある。

 理由は、面倒ごとに巻き込まれないようにするためらしい。


「アンタ……」


「は、はいっ!?」


 お姉さんが、ずいっと近づいてくる。


「さっきの符術……アンタ、()()()()()()()か?」


「え? はい……」


 やっぱり、術を見れば分かるのか?

 まあ、符術で戦うのは青春院家の血を引く人が多いか。


「やっぱり! アタシも朱夏院家の分家筋なんだ!」


「そうなんですね……」


 あの戦闘力は、やはり朱夏院家の血筋によるものだったのか。

 朱夏院家の者は、肉体や武器を強化する〝天賦〟を受け継ぐことが多い。それ故、個々の戦闘力が高いことが特徴だ。


「青春院の一族なら、治癒系の魂術も得意だろ?」


「え? それは、まあ……」


 青春院家では、治癒系の〝天賦〟を使えなければ、一人前とは認められないからね……。

 そのせいで、いろいろと苦労している人を身近に知っているし。


「それなら、アタシを助けてほしい!」


「え? 雲ノ峰さんを?」


 雲ノ峰さんは元気そうだが?


「あ、えーと、アタシじゃなくて、アタシの相棒を助けて欲しいんだ! あと、私のことは、ルコウでいい」


「なるほど。そういうことなら、喜んで」


 私の手に負えなくても、腕の良い一族の者を紹介すればいいしね。


「そうか、助かる! それじゃあ、早速一緒に来てくれ!」


「え? ちょっ!」


「そうだ、アンタはここまで何で来たんだ?」


「電車とバスですね。車を持っていないので」


 地方では、車がないと何かと不便なのである。

 自動車運転免許は、高校在学中に取得している。

 私が通っていた高校では、卒業見込みが立った生徒に限り、在学中の免許取得が許可されていた。

 実際に車に乗るのは卒業まで禁止されていたけど。


「それなら、このまま乗せていっても問題ないな。帰りはアタシが送るから」


 私は雲ノ峰さん──いや、ルコウさんの車に乗り込み、彼女と一緒にある場所へ向かった。

 ルコウさんの車は真っ赤な四輪駆動車で、車内には、甘い芳香剤の匂いが漂っていた。


 う〜ん、いかにも格好いいお姉さんの車、といった感じだ。


 ◇


「これは……」


 それからルコウさんの運転で三十分ほど走り、連れてこられたのは、名前も知らない山の中だった。


 山道をさらに進むと、やがて開けた場所に出た。

 そこに建物らしきものはなく、開けた土地の手前にに古びた鳥居だけが立っていた。


 かつては、ここに神社でもあったのだろうか?


 車を降りて鳥居の奥へ進むと、結界が張られていることに気づいた。


 その結界の中に、巨大な白い犬──いや、白銀の狼がいた。







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