14 ルリカと魂桃
◇
魂桃の木は、山裾から少し登った辺りに広がる竹林の中にあった。
桃特有の瑞々しい香りが辺りを満たしており、木の周りには熟して木の周りには熟して落ちた魂桃が転がり、枝にも沢山の実が成っている。
想像していたよりも大きな木で、花や葉はなく、実だけが成っている。
魂力を持つ私の目には、木全体が薄らと輝いて見えた。
魂桃の木の周囲には紐が張り巡らされ、それを境に結界が張られていた。
思わずかぶりつきたくなる香りだが、人間が食べると、フツーに酸っぱいので要注意だ。
人間が食べる場合は、ジャムなどに加工するらしい。
一応、人間でも魂桃を食べれば、魂力を回復できるそうだ。
竹林から見下ろした先、山裾の平地には葡萄農園が広がっている。
農園の周囲には結界が張られており、神異除けにはなっているが、それでも突撃してくる神異がいるらしい。
猪みたいだな……。
葡萄農園の近くには、葡萄狩りに訪れたお客さん用の休憩所もあり、トイレなどの心配もなさそうだ。
「確かに芳しい香りだ」
『美味しそうだな』
「食べるのは後にしましょう。まずは周りの様子を確認します」
ひとまず、私とアオハさん、ルコウさんとニゲラの二組に分かれ、周囲を確認。
ワタゲさんは魂桃の木のそばで、魂桃を食べながら待機することになった。
「仕事には慣れましたか?」
「はい。ルコウさんとワタゲさんのおかげです」
私とアオハさんは竹林の中を、ルコウさんとニゲラは葡萄農園の周辺を巡回した。
周囲に禍津祠や神異の気配はなかった。
周囲の巡回が終わると、魂桃の大木のもとへ戻る。
「こちらは何もありませんでした」
「こっちもだ」
余裕があるうちに、改めて今回の仕事について確認することにした。
「夜は帰っていいんですか?」
「はい。夜は、タロウさんたちが見回っています。タロウさんをはじめ、従業員の方々も元退異師なので、神異と戦えるだけの力はありますし、結界発生機構も設置されていますからね」
タロウさんたちって、実は凄い人たちだったんだ。筋肉は伊達じゃなかったんだな!
「へえ、金かけているな。この結界発生機構、最新型だ」
「そんだけ稼いでるんだろ? でも、油断はできない。結界は神異を防ぐだけで、倒してくれるわけじゃない。それに、彼らは現役の退異師ではないからな」
ニゲラの言葉に、ルコウさんが答える。
「そこで、退異師の出番ですね」
神異は禍津祠から生まれ、そこから定期的に魂力を補給している。そのため、生まれたばかりの神異は禍津祠から長時間離れることができない。だが、レベルが上がると蓄えられる魂力も増え、ある程度離れた場所でも行動できるようになる。
まるでロボット掃除機と充電ステーションみたいな関係だ。
神異としてのレベルが上がるほど、魂力を蓄えておける容量も増えるらしい。
そのため、魂桃の大木付近までやってくる神異は、長時間禍津祠から離れていられる、そこそこ強い神異ということになる。
ちなみに、この世界にもロボット掃除機はあるが、前世ほど普及してはいない。
『ふむ、悪くない味だった』
魂桃を満足するまで食べたワタゲさんが、機嫌よく言った。
ルコウさんが、ワタゲさんの口の周りをウェットティッシュで拭いている。
「ニゲラ君も、魂桃を食べたいと思うのですか?」
「ん〜、今は魂力が足りてるから、そこまでではないかな? 香りはいいと思うけどね」
私に後ろから抱きついているニゲラは、ニコニコと答える。
ちょっと離れて欲しいかな〜?
「ニゲラ君。仕事中はイチャイチャしないように」
「は〜い」
アオハさんに注意され、一応は離れるニゲラ。
助かった。
でも、すんごい近くにいる。
「そういえば、近くに禍津祠がない神異は、どう対処するんですか?」
私がこれまで倒してきたのは、生まれたばかりの神異ばかりだった。近くに禍津祠があったため、神異を倒した後、すぐに禍津祠も駆除できたのだ。
「余裕がない時はとりあえず、神異だけ倒す。余裕があれば、ギリギリまで魂力を削って、自分の禍津祠に戻るように仕向ける」
とルコウさんが答えた。
「その際は、目印をつけて追跡できるようにします。そこで使うのが、これです。」
アオハさんが、小型の銃を取り出す。
「この銃から発信機を内蔵した弾丸を撃ち込みます。タブレットやスマホと連動しているので、撃ち込んだ神異の位置を追跡できます。同じものをルコウも持っています。」
「へぇ〜」
意外とハイテク。
「あとは、導のお札だな。ルリカ、アンタも使えるだろ?」
「ああ、そうでした!」
神異と戦う時は必ず持つように言われていた〝導のお札〟。具体的な使いどころを知らなかったけど、こういう時に使うのか!
今もお札ホルダーに入ってるよ。
「それで、禍津祠の位置を確認して、近くにいる退異師に位置情報を送って、駆除を依頼するんだ」
「なるほど〜」
「ですが、慣れないうちは余裕はないでしょうから、ルリカさんとニゲラ君は、神異を倒すことに専念してください」
◇
そして、発信機の出番はすぐにやってきた。
昼近くになると、神異が魂桃の大木付近に群がり始めたのだ。
「無理に追跡しなくても構いません! 倒してしまってもいいので、自分の身を守りながら魂桃の木を死守してください!」
「はいよっ!」
『ホイホイ』
「了解」
「は、はい!」
ルコウさんは魂力で肉体を強化し、さらに刀にも魂力を纏わせて、手慣れた様子で神異を倒していく。ほどよく魂力を削ったところで、発信機も撃ち込んでいる。
ワタゲさんとのコンビネーションもバッチリだ。
ニゲラは強力な氷の魂術で神異を倒している。
魂力も豊富で、魂術も自在に使えている。さすが、原作序盤のボス。
アオハさんは、私たちに指示をしつつ、時折、魂力で作り出した球を、凄まじい威力で神異へ蹴り込んでいる。
アオハさんは、蹴りが得意なのか? 多分、学生時代はサッカー部だったな。
私はというと、お札で戦っているものの、一体倒すだけでも時間がかかる。うん、私は本来、支援向きだからね。
でも、対策局に所属している退異師なら、支援型でも、ある程度は一人で神異を倒せないといけないのだ。人手不足だから。
漫画原作の舞台、東都なら人も多いから、それぞれの役割に専念できるんだけどね。
でそれでも、自分なりの倒し方が段々と分かってきた。
まず〝金縛りの札〟で動きを止め、人間の身体に似た部分を〝風刃〟で切断する。そして、弱点の目玉を〝氷刃〟で貫くのが基本で、硬い相手には〝岩槍〟を使う。
正直、他の二人に比べると、一体を倒すだけでも時間がかかるが、なんとかなってきた。
そうして、気付けば、時刻はお昼を過ぎていた。
◇
「みなさん! 休憩にしましょう! 下の休憩所に食事も用意しましたよ!」
そう言ってタロウさんがやってきた。
他にも、従業員らしい屈強な方々が一緒にやってきた。
「ありがとうございます。さあ、行きましょう」
「全員行ってしまっていいんですか?」
「私たちが見ていますので、大丈夫です!」
従業員の方々が白い歯を見せて笑った。頼もしい!
「普段から神異とはやり合ってますからね。安心して休んできてください」
とタロウさん。
そういうわけで、休憩時間となった。
葡萄園近くの休憩所には、食事もたっぷり用意されており、炊き出しみたいな状態になっていた。
もちろん、桃木農園産の果物や野菜もたっぷりだ。
しかし、凄い量だ。四人で食べ切れるのか?
ワタゲさんは魂桃しか食べないし。
「あ、残ったものは俺たちで食べるんで、大丈夫です」
私の心配を察したのか、タロウさんが言った。
「そ、それでは、いただきます」
あ、おいし〜。豚汁、しみるわ〜。
「ルリカ、これもうまいぞ!」
そう言って、ニゲラは唐揚げを一個、私の口に突っ込んでくる。
「ングッ!?」
「どう?」
なんとか咀嚼して飲み込む。
確かに美味しい。美味しいが……。
「ありがとう。おいしいけど、いきなり口に突っ込むのはやめるんだ。ニゲラもちゃんと食べなさい」
「食べてるよ〜。これもおいしいよ〜」
「ンググッ」
今度は、サンドイッチを突っ込んできた。
少しイラッときたので、私も仕返しに、おにぎりをニゲラの口元へ押しつけた。
「うぐっ」
「いきなり口に突っ込まないでください! 苦しいでしょう!?」
美味しいけど!
「……」
ん? なんだかニゲラの顔が赤い? まさか、喉に詰まった!?
「ニゲラ、大丈夫!? お、お茶!」
急いでコップに冷たいお茶を注いで渡すと、ニゲラは一気に飲み干した。
「大丈夫?」
「ルリカ、君の愛は確かに受け取った……」
「何故っ!?」
「あっはは、二人は仲がいいんだね」
タロウさんが楽しそうに笑った。
「婚姻契約してるからなぁ」
「婚姻契約特有の行動です。お気になさらず」
ルコウさんに続き、アオハさんまで真顔でそんなことを言う。
何が〜〜?
こうして、休憩時間も終わり、私たちは再び仕事に戻った。




