13 ルリカと新しい仲間
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休日終了。今日は二日ぶりの出勤だ。
ちなみに、対策局は土日祝日も稼働している。休みはシフト制なのだ。
左手の怪我は治癒の魂術と護符で完全に治った。
そのため、左手の薬指に刻まれた、水引のあわじ結びを模したデザインの〝婚姻契約の印〟もようやく見える。
まるで、赤い指輪をはめているみたいだ。
というか、マジであるよ……。
「おはようございます」
「お、おはよう、ルリカ。体調は大丈夫か?」
『おはよう』
事務所に入ると、ルコウさんとワタゲさんが出迎えてくれた。
そして──。
「ルリカ!」
「うわ!?」
ニゲラが抱きついてきた。
紫色の制服のジャンパーを着ている。
「あ、こら! ルリカは病み上がりなんだから、もっと労われ!」
「あ! ごめん……」
しょんぼりするニゲラは、叱られた子犬のようで、序盤ボスの片鱗はまったくなかった。
「大丈夫です。ニゲラ君もお元気そうで」
「ニゲラって呼んでくれ。俺たちはもう、夫婦なんだから」
「え〜と……」
イケメンにキラキラした目で頼まれると、断りづらいな。
「まだ、友人になったばかりなので、しばらくはニゲラ君でお願いします」
「そんな!?」
「夫婦でも、関係はゆっくり育んでいくものです」
いや実際はどうかは分からないけど。
「え〜?」
「お〜い、朝礼始めるぞ。朝礼が終わったら、ルリカとニゲラ、ついでにルコウとワタゲは俺のところへ来い」
「はい」
「了解です」
『おう』
「アタシらはついでか!」
「お前一人で巡回には行けないだろう?」
そうして、朝礼が始まる。
本部からの連絡事項や今後の予定などが伝えられ、朝礼は終了した。
私とニゲラ、ルコウさんとワタゲさんは、執務室へ向かった。
「お、来たか。座れ」
執務室には、重厚な机とソファセットなどが置いてある。
私はニゲラとルコウさんに挟まれる形で座り、ワタゲさんはそのソファの横に座っている。
支部長さんは、私たちの向かい側に腰を下ろした。
少し遅れて副支部長のアオハさんが執務室へ入ってきて、支部長さんの隣に座った。
「ルリカも復帰できてよかった。体調は大丈夫か?」
「はい」
「さて、ルリカを呼び出したのは、事件の顛末を説明するためだ。君は当事者で──ニゲラの妻だからな」
「はあ……」
まだ友人ですけど?
傍らでは、ニゲラが凄くニコニコしている。
「まず、ニゲラの身元は玄冬院家に戻された。これからは玄冬院ニゲラとなるわけだな」
「よろしく!」
それで原作でもその家名を名乗っていたのか。
その後、今回の事件について詳しい説明を受けた──。
まず、ニゲラ救出の依頼をしたのは、彼の義兄のヒオウギさんだったらしい。
ニゲラは元々、当主の妹と玄冬院家が一族で契約している神異との間にできた子供だが、神異退治を担う本家から混血の子供が出たと知られるのは恥だとされ、その存在を秘匿したまま育てられた。
母親は政略結婚の道具にされ、他家へ嫁がされてからは会うことはできず、父親の神異の行方はその後、不明になってしまった。
そして、ニゲラは戸籍上は現当主の子供として育てられた。
学校には行かせてもらったが、中学二年の時に長男を亡くした凍土家に養子に出された。
高校には合格していたが、中学卒業後から屋敷に監禁されて通うことはできなかった。
屋敷に監禁されてからは、毎日ほぼ休みなく水晶片に魂力を込める仕事をしており、それによって凍土家は裕福になった。
そして、そろそろ自分の人生を終わらせようとしていた頃、ようやく対策局によって救出された。
なので、実際に監禁されていたのは、四年間くらいだったらしい。
原作漫画だと、ニゲラの養子時代は、数コマのモノローグで軽く説明されて終わりだったけど、実際には、こんなに壮絶な過去があったのか……。
う〜む、彼が序盤ボスにならないようにすることは、できるんだろうか?
「へえ。どうしてニゲラの兄ちゃんは、こいつを助け出したんだ? それって、当主の命令に逆らう行為だろ?」
「義父上は俺を嫌っていたけど、俺と兄弟たちの仲は悪くなかったんだ。
特に長男のヒオウギ兄さんは俺をめぐっていつも父上と言い争っていた……」
ルコウさんの問いに、ニゲラが答える。
そういえば、原作でも彼と父親との仲は最悪だったが、兄やその他の兄弟とは仲が良かったな、ニゲラ。
ちなみに、彼の養父がニゲラを嫌っていた理由は、神異との混血で、気味が悪かったからだとか。
う〜ん、当主っていうのは、どこか情けない生き物なのだろうか?
私の父も、焦って側室を二人娶って、心から愛している本妻様と険悪になっているし……。
いや、朱夏院家と、白秋院家はそれなりにうまくやっているという噂も聞くな。土用院家は、よく分からない。
「追い出すにしても、搾取奴隷は見過ごせないということで、対策局が動くことになりました。神異に関する事件・事故は、対策局の管轄になりますからね」
と、副支部長のアオハさん。
「凍土家との養子関係は解消され、戸籍は玄冬院家に戻された。今は俺の家で面倒を見ている」
「で、せっかくなので対策局でも働いてもらうことになりました」
「なるほど〜。それで、凍土家はどうなったんですか?」
「養子に迎えた子供を奴隷同然に扱った上、屋敷内で神異を発生させたので、本家から縁切りされた。もう支援は得られないだろう」
お取り潰しにはならなかったけど、もう他人ってことね。
まあ、もともとニゲラの作る魂力石で裕福になった家が、これから普通に生活できるとは思えないので、緩やかに没落することになるのだろう。
「俺が作った魂力石には、十個に一つの割合で、魂力が抜けて使い物にならなくなる細工をしておいたからね。今頃、全回収してるんじゃないかな?」
「その回収に、凍土家は残った資産を投じることになった」
「足りない分は、玄冬院家から借金をする形になるな」
あ、すぐに没落しそう。
「今回の事件について、ルリカに伝えることはこれくらいか」
「そうですね」
「それじゃあ、仕事に戻ってもいいか?」
「ああそうだ。ルコウ、ルリカとニゲラを連れて、〝魂桃農家〟に行ってくれ」
「は?」
「担当地区の巡回は、他の者に任せているので、安心して欲しい」
「いやいや、安心できないし。なんでいきなり〝魂桃農家〟?」
「ルリカは慣れてきたとはいえ、まだ入局一ヶ月ちょいの新人で病み上がり。ニゲラはまだ新人だ。その二人を見ながらいきなりの通常業務は難しいだろう?」
「え? ウツギさん、二人とも私に任せようとしてます?」
「いや、そこはアオハをつけるから、心配はいらない」
「一応、僕がニゲラの教育係なのでね。同行するよ」
「まあ、それなら……」
「魂桃って、あの魂桃ですか?」
「ああ。神異が神異が現世で魂力を補える、唯一の食べ物だ」
神異、あるいは神異に転化した人間は、通常の食べ物から栄養を摂取できない。
一応、味は分かるし美味しいとも思うが、彼らを構成している魂力を補うことができないため、いずれは衰弱する。
そこで唯一、魂力を補える食べ物が魂桃というわけだ。
ちなみに、神異は禍津祠を壊さないと衰弱したまま復活するので、何もしないとそのままずっと苦しむことになる。
人間と契約した神異は契約者から魂力を得られるが、なんらかの理由で魂力が枯渇した際に必要になる。
なお、魂桃は人間でも食べられるが、香りはいいけど少々酸味がきつい。普通の桃と違って、一年中実をつけるらしい。
契約による供給を除けば、魂桃以外に神異が魂力を得る方法は、人間を食べることくらいだ。
「魂桃はその性質のせいで、神異に狙われやすい。農園側にも自衛手段はあるが、定期的に対策局でも護衛の仕事を請け負っている。新人研修には、もってこいだろう? 二人には一気に成長してほしいしな!」
「まあ、そうだな……」
「それに、今後、ニゲラにも必要になる可能性もある」
ああ、神異との混血だと、いざという時のために魂桃が必要なのかな?
「というわけで頼んだぞ!」
◇
こうして、私とルコウさんとワタゲさん、ニゲラとアオハさんはルコウさんの車で目的地へと向かった。
各対策局支部が置かれている地域には、必ず一箇所以上の魂桃農家があるらしい。
「やあ、ようこそ。桃木農園へ! オレは桃木タロウです!」
出迎えたのは、意外にも若い男性だった。
桃色の髪と空色の瞳が印象的だ。
というか、名前を略すと……。
「うちの農園では、魂桃の他にも、色々作っているのですが、魂桃を目当てに神異が集まってしまうのです。そうなると他の作物にも被害が出てしまうので、定期的に対策局さんには警備をお願いしています!」
ちなみに、桃木農園のメインの作物は葡萄らしい。
今の時期なら、苺が旬だとか。
「それでは、今回も例年通りでよろしいですか?」
と、アオハさん。
「はい。魂桃の木は、葡萄畑の近くにあります。神異が現れた際は、葡萄畑に被害を出さないように警備をお願いします。
あ、魂桃は仕事中でも好きなだけ食べていいし、持ち帰ってもいいですよ! 放っておいても毎日実をつけますから!」
というわけで私たちは、魂桃がある葡萄畑へ向かった。




