表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バトル漫画のモブに転生しましたが、何故か序盤ボスに溺愛されています!?  作者: 彩紋銅


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/32

10 ルリカと運命の出会い

 ◇◆◇


 玄冬院ニゲラは、前世の日本で連載されていた、この世界の元になった漫画『東都神異録』に登場する、()()()()()だ。


 人間の母と神異の父との間に生まれた混血で、その分、魂力も多いし、強力な魂術まで使える。〝固有の天賦〟に関しては覚えていない。少なくとも、私が読んでいたときには、特に言及はされていなかった気がする。

 単行本の方は読んでいないので、加筆修正分は分からない。


 彼は、玄冬院本家の血筋ではあるが、当主の子供ではない。

 当主の妹が、一族と契約している神異との間にもうけた子供で、公にはできないため、表向きは当主の実子ということにされた。


 だが、正妻やその子供たちに疎まれ、哀れに思った側室たちに育てられた。

 十四歳までは不遇な立場ながらも、それなりに幸せに暮らしたが、その年に養子に出されて、酷い扱いを受ける。

 そして、詳細は不明だが、自分に優しくしてくれた人々が殺されたことで狂気に陥り、玄冬院家へ舞い戻って一族を掌握する。


 序盤のボスとして、主人公たちの前に立ちはだかるのだ。しかも、まあまあ強い。


 というのが、原作ニゲラなのだが……。


「本当に、行くんですか?」


「ああ。履歴書はちゃんと持ったか?」


「はい」


『面接の受け答えは?』


「なんとか」


「対策局の身分証は持っていけ。身分が証明できないと、保護対象に信用してもらえないからな。

 だが、決して見つかるなよ? 対策局の者だとバレれば、何をされるか分からんからな」


「はい〜」


 難しいことを言うなあ〜。


「それじゃあ、行ってきます」


「いってら〜」


『気をつけろよ』


 二人は私を凍土家まで送り届けると、そのまま去っていった。

 終わったら、迎えに来てくれるらしい。


 まあ、今日は面接だけだし、大丈夫だろう。


 ◇


「ええと? 春湖(はるこ)ルリさん?」


「はい〜」


 もちろん、偽名である。

 住所も電話番号も、こういった潜入時に使う架空のものだ。

 そのためのスマホも支給された。


「ふ〜ん、うちで働きたいのか〜」


「はい〜」


 一応、求人は出ていたから、応募しても不自然ではないはず……。


 ちなみに、面接を担当しているのは、この家の家令らしい。

 三十代くらいで、少々やる気のなさが滲んでいる男性だ。

 着物を着ているが、こちらの世界では着物が現代でも普段着として定着しているため、特に珍しい格好ではない。


「いつから、働ける?」


「え? 明日からでも……?」


「ふ〜ん。住み込みだけどいい?」


「はい」


「じゃあ、頼むわ。うちは三日働いたら三日休みだから、休みの日は家に帰ってもいいよ」


「それでは、三日分の着替えがあれば大丈夫ですね」


「そういうこと。仕事着はこちらで用意するから、あとでサイズだけ教えてね。寝間着もあるから、希望するなら貸すよ」


「分かりました」


「じゃ、明日の午後二時くらいにまた来てね」


 ◇


「というわけで、無事採用されました」


 面接後、迎えに来てくれたルコウさんに、事務所近くのファミレスへ連れてこられた。

 カバンの中に隠れている、ワタゲさんも一緒だ。


「お〜、良かった!」


『一応、スマホ以外の連絡手段も必要か?』


「それなら、伝令用のお札がありますよ」


「いいね。数枚もらっておこう」


「私以外にも、相手の顔と名前が分かれば誰にでも送れますので、いざというときに使ってください」


「ありがとう、そうさせてもらう」


 私はルコウさんに、伝令用のお札を何枚か渡しておく。

 これは、話した言葉を一時的に記録し、相手に届けることができるお札だ。使用者は指定していないので、魂力を込めて起動すれば誰でも使えるし、相手の顔と名前が分かれば、基本的に誰にでも送れる。


「それじゃあ、ルリカ、ワタゲ。頼んだぞ!」


「はい!」


『おう』


 ファミレスの食事代は、ルコウさんが支払ってくれた。


 ◆


 翌日、指定された時間に、再び凍土家に向かった。


 ワタゲさんは子犬サイズになって、カバンの中に潜んでいる。


「本日よりお世話になります、春湖ルリです! よろしくお願いします!」


「はい、よろしくね。まずは自室に案内するわ。あ、自分の靴は自分の部屋で管理してね。たまに、勝手に他人の靴、履いていっちゃう人がいるから」


「はい!」


「荷物、少ないわね」


「圧縮袋に入れてきました!」


 というのは半分嘘で、長居するつもりがないだけだ。

 私の荷物は、普段使い用のリュックサック一つである。


 女中長さんに案内されて、使用人寮に向かう。


「ここが、あなたの部屋ね。二時間経ったら迎えに来るから、荷物の整理して、着替えておいて。ベッドの下の鍵付きの引き出しに入れておいてね。部屋を出るときは戸締まりもしっかりしてね。たまーに、手癖の悪い人がいるのよね、うち」


 その手癖の悪い人は、他人の靴を勝手に履いていってしまう人と同一人物なのだろうか?


「分かりました」


 部屋は一人部屋で、ベッドと箪笥、机と椅子があった。

 窓は一つ。

 トイレや洗面所、風呂は共同。食事は朝昼晩、使用人専用の食堂でとるそうだ。


 女中長さんの足音が遠のいたので、扉に鍵をかけて、ようやくワタゲさんをリュックサックから出すことができた。


『ぷはっ、狭かった!』


「大丈夫ですか?」


『大丈夫だ。これくらいで神異は死なん!』


「それじゃあ、敷地内の偵察は頼みます」


『ルリカも気をつけろよ』


「はい!」


 ワタゲさんは小さい姿のまま、窓から出て行った。


「さて、私も頑張らないと!」



 ◆◇◆


「──!」


 作業の手を止め、俺は不思議な気配に顔を上げた。


「……」


「どうかしましたか?」


 監視役の男の使用人が声をかける。

 コイツはことあるごとに当主にチクるが、暴力的なことはしてこないので、気にしなくていい。


 この日は、どういうわけか作業室ではなく、自室で仕事をすることになったが、どうやら使用人に新人が入ったようだ。


 新人の女中は、俺の魂力に当てられると、慄くか、言い寄ってくるかのどちらかだ。その影響に慣れるまでは、自室での作業となるのだろう。


 血縁上の父が言うには、伴侶がいればそう言うのは無くなるそうだ。


 俺にそんなものが、見つかるとは思えないが……。


 しかし、この不思議な気配はなんだ……?


 気が散って仕方がないのに、なんだか心が躍るというか、ソワソワした感じがする。


 こんな感覚は、初めてだ……。



 ◇◆◇


「春湖ルリです! よろしくお願いします!」


「よろしくね〜」


「若いのにえらいね〜」


「……」


 同僚の年配の女中さん方は温かく迎えてくれるが、若そうな方は無言で鋭い眼差しを向け、明らかに不服そうな様子を見せている。

 まあ、若いといっても三十代くらいだが。


 その後は先輩方について回り、仕事の説明を受けた。メモを取りながら、作業手順を覚えていく。


 まず任されたのは、簡単な場所の掃除だった。

 初日の仕事は、そこまで大変ではなかったけど、疲れた〜。


 仕事を終えたあとは夕食をとり、お風呂を借りて、ようやく夜の自由時間となった。


 家事って、大変なんだな〜。


 まあ、教えてもらっても、すぐに出ていってしまうから、申し訳ないんだが。


『大丈夫か?』


 ベッドに倒れ込んでいると、ワタゲさんが顔を覗き込んでくる。


「あ、ワタゲさん、戻ってたんですね」


『ああ』


「どうでした?」


『離れに、話に聞いていた人物らしい気配があった』


「では、深夜にでも?」


『そうだな』


 どうやら、ここに長居しなくても済みそうだ。


 ◇


 そうして、深夜になり私は部屋を抜け出した。

 リュックサックも持ってきている。


『今日は満月か。隠れて動くには厄介だが……雲が多いなら大丈夫か』


「それなら、隠密のお札を使いましょう!」


『それ、効果大丈夫なのか?』


「存在感を薄くするだけなので、すでに見つかっている相手には効きません」


『……気休め程度にしておけよ?』


 ワタゲさんによると、凍土家の周囲には、一応、神異除けの結界が張られているらしい。しかし、神異の侵入を妨げるだけの単純な結界で、侵入を察知して術者に知らせる機能はないそうだ。

 一度入り込んでしまえば、屋敷の者に気づかれる心配はないとか。


 どうやら、費用を安く抑えるために、そうなったらしい。


『もしかしたら、敷地内で神異が発生しても、気付かないかもな』


「念のため、ルコウさんにメールでお知らせしておこう」


 五行家系の術師なら、そんな雑な仕事はしないから、野良術師にでも頼んだのだろうか?


『止まれ』


「!」


 ワタゲさんの言葉に身を隠す。

 見回りの使用人たちだ。


『──よし、行こう』


「はい」


 そうしてなんとか、離れの近くまでやってきた。


「それで、なんと声をかけましょう?」


『は? ここまで来てそれか?』


「その、潜入のことで頭がいっぱいで、そこまで考えていませんでした……」


『普通に事情を話せばいい。相手もこんな家で搾取され続けたくはないだろう?』


「そうですね……」


 そうして、意を決した時──。


「何やってるの?」


 声をかけられた。


『!?』


「わっ!?」


 思わず声を上げて、口を抑える。


「ああ、大丈夫だよ。この辺りには、普段から見回りは来ないから」


 声がした方へ目を向けると、離れの窓が開いており、そこに誰かがいた。


 雲の切れ間から、月明かりが降り注ぐ。


 長い黒髪の、整った顔立ちの男性がそこにいた。


「わ、わ、どうしましょう、ワタゲさん! 心の準備が……!」


『お、落ち着け……そいつが、保護対象だ……』


「え!?」


 私は居住まいを正した。


 まずは、本人確認だ。

 私は窓からこちらを見ている、その男性に近付いた。


「失礼ですが、あなたのお名前は?」


「俺? 俺はニゲラ。苗字は……今は凍土かな?」


 本当に、ニゲラだ。原作漫画よりも若い印象だ。

 とりあえず、私も自己紹介をしておこうか。

 身分を明かしても、()()()()()()()()()()()だし。


「お騒がせしてしまってすみません。私は長閑ルリカと申します!

 こちらは、仲間が契約している神異のワタゲさんです。

 私たちは、あなたを助けに来ました。一緒に来てくださいますか?」


 さて、断られたらどうやって説得しようか?


「うん。いいよ」


「──え? いいんですか」


「うん」


 そう言って、彼はニコニコしている。


「ええっと……いいんですかね? ワタゲさん」


 何かの罠?


『まあ、本人が一緒に来ると言っているのなら……』


 ならいいのか?


「じゃ、じゃあ、一緒にいきましょう! ニゲラ君!」


 私は、ニゲラに手を差し出した。


 苗字は玄冬院か凍土、どちらが良いか分からなかったので、下の名前だけ呼ばせてもらった。


「──っ! ……うん」


 ニゲラは一瞬目を見開いたあと、私の手をとってとても嬉しそうに笑った。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ