王と宰相(9)
星河互娛本社 危機管理本部フロアは、再び重苦しい空気に包まれていた。
未成年クリエイターの取扱いに関する緊急会議。
信頼安全部門、プロダクト部門、法務、広報が揃う中、議論は早くも熱を帯び始めていた。
「ランキングアルゴリズムの調整は最低限にすべきです」
プロダクト責任者が強い口調で言った。
「これ以上過度に制限をかければ、クリエイターのモチベーションが明らかに落ちます。
小鹿の件は痛ましいですが、すべての未成年を同じように扱うのは過剰反応です」
対する信頼安全部門のチーフは、資料をテーブルに置く手が少し震えていた。
「過剰反応?十六歳の少女が廃ビルから飛び降りるような真似をしたんですよ。
投げ銭ランキング上位を狙わせる仕組みそのものが、彼女を追い詰めた一因です。
ここで手を打たなければ、次はもっと深刻な事態になります」
会議室の空気が一気に張りつめた。
啓文はテーブルの端で、黙って両者のやり取りを聞いていた。
啓文の役割は、対立を結論に変えることだった。
しかし、どちらの側にも完全に寄り添えない自分が、最近特に重く感じる。
法務部長がため息混じりに口を挟んだ。
「ナスダック上場準備の観点からも、未成年保護の強化は避けられない」
啓文は今朝送られてきたメールを思い返していた。
送信元は、上場準備を支援する米国のアンダーライター。
件名はシンプルだった。
>>Regarding Founder Control and Governance Concerns
「創業者の統制およびガバナンス上の懸念について」
本文は短く、しかし容赦なかった。
>>賀氏の最近の公的発言、および創業者による対外発信に関する社内エスカレーション体制について、当方では懸念が高まっています。
>>今回の事案により、星河がFounder Riskを個人の判断に依存するのではなく、組織的な枠組みによって管理できているのかという点について、疑問が生じています。
>>次回の投資家向け協議に先立ち、星河が導入を予定しているガバナンス上の対応策について、詳細なご説明をお願いいたします。
要するに、彼らが知りたいのは一つだった。
賀雲舟の発言リスクは、周啓文個人の腕ではなく、星河という組織の仕組みで管理されているのか。
彼の耳には、もう参加者たちの声が少し遠く聞こえていた。
賀総の無垢を守り続けることが、
本当に星河を守ることになるのか。
そして答えは、まだどこにもなかった。




