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0.3秒の王国 ―アルゴリズムの王と宰相―  作者: Furi0804
第1章 未成年クリエイター事故
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8/16

王と宰相(8)

小鹿の事故の後、星河本社では連日、取締役会、法務、IR、ナスダック上場準備のアドバイザーを交えた臨時ミーティングが続いていた。




謝罪では弱く、反論すればさらに燃える。


原因が確定しないうちに責任を認めても、否定しても危険だった。




賀雲舟に求められていたのは、事故と自由と責任のあいだに置く、


曖昧で正確な言葉だった。


しかしそれは、彼が最も不得手とする領域でもあった。




香港の夜景が足元に沈むような高層マンション。


雲舟が自宅に戻ると、妻・宋薇安がソファに座ってタブレットを見ていた。


裸足の白さが、目を引く。




ビビアン・ソウ。


世間ではこちらの呼び名の方が通りが早い。




元々は無名モデルだったが、いまはライフスタイル系ブランドのクリエイティブディレクターを務めている。




彼女を見出したのは、他ならぬ賀雲舟だった。




星河がまだこれほど巨大になる前、




#一秒入鏡


「日常の一瞬を映画にする」




というキャンペーンで、ビビアンの投稿した短い動画が雲舟の目を強く引いた。


彼女は魅力的に笑うだけではなく、光のとらえ方、歩き方、視線、カメラとの距離感を、本能的に理解していた。


雲舟はそこに「見せ方」の才能を見抜いたのだ。




キャンペーンの打ち上げで知り合い、交際し、香港上場後に結婚した。


世間は、典型的な「IT長者とトロフィーワイフ」の夫婦だと見ている。




ジャケットを脱ぎかけると、ビビアンがタブレットから目を上げずに言った。




「今日は、総裁の格好をしていたのね」




「打ち合わせだったから、ジャケットを着ただけだ」




冷蔵庫から炭酸水を取り出しながら答えると、妻は背中越しに静かに続けた。




「それを世間では、総裁の格好と言うのよ」




一口飲んで振り向くと、ビビアンがようやく顔を上げた。




「あなた、また作り手の論理で話したのね」




雲舟は動きを止める。




「間違っているか」




ビビアンは少し間を置いて、淡々と言った。




「間違っていないわ。でも今のあなたは、作る側だけではないのよ」




雲舟は無言で妻を見つめた。ビビアンは画面を指で軽くスクロールしながら、静かに言葉を続けた。




「あなたはあの子を“クリエイター”として見た。


でも、あの子の親は、娘として見ている」




香港の夜景が、ガラス窓の向こうで冷たく輝いている。




ビビアンはタブレットを膝の上に置き、夫をまっすぐに見上げた。




「作り手として美しい言葉は、親にとってはただの言い訳に聞こえるかもしれない。


あなたはまだ、そのことに気づいていない」




ビビアンは、星河が見つけた人間だった。


だからこそ、その言葉は賀総の中で、どこにも逃げ場を持たなかった。


賀雲舟は炭酸水の缶を軽く握りしめたまま、結局、何も答えられなかった。



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