王と宰相(7)
事故から1週間後、星河ではない小鹿のアカウントに、短い文章が投稿された。
一命はとりとめました。
ただし重傷のため、治療にはしばらく時間がかかります。
本人および家族への取材は固くお断りいたします。
プライバシーを尊重していただきますようお願い申し上げます。
文章全体は比較的落ち着いていた。
しかし、最後の一文だけが、明らかに温度が違った。
―――彼女が自ら配信を選んだことは理解しています。
しかし、未成年の子どもが視聴者の反応に応え続ける構造を、
プラットフォームはどこまで把握していたのでしょうか。
啓文は、その一文をしばらく見つめていた。
小鹿本人の文章ではないと、すぐに分かった。
おそらく父親か母親、あるいは弁護士が書いたのだろう。
静かな怒りと、抑えきれない問いが、丁寧な言葉の裏に透けていた。
デスクの反対側には、ナスダック上場に向けたアドバイザーとのスケジュール表が置かれている。
その中に、英語で小さく書かれた項目があった。
Founder Personality Assessment
創業者特性評価。
米国の機関投資家とアンダーライターは、独創的な天才を愛する。
しかし同時に、その天才が暴走したときのリスクを極端に恐れる。
賀雲舟の創造性は、これまで星河の最大の価値だった。
そして今、同じ創造性が、明確なリスク要因として認識され始めている。
星河という巨大なプラットフォームのガバナンスが、
結局のところ、周啓文という翻訳者の腕一本で支えられている——
そう見られた瞬間、これはもう美談ではなく、致命的な脆弱性になる。
啓文は椅子の背もたれに体を預け、天井を眺めた。
「……国を燃やす、か」
リスク会議で誰かが笑いながら言った言葉を思い出す。
あのときは、ただの冗談だった。
今、その同じ言葉が、啓文のデスクの上でずっしりと重い。
王の言葉を、外に出せる形に整える。
それだけで、この王国は守れるのだと、
自分はいつから本気で思い込んでいたのだろう。
啓文はゆっくりと息を吐き、小鹿のアカウントに投稿された文章をもう一度読み返した。
プラットフォームは、どこまで把握していたのか。
その問いが、静かに、しかし確実に、彼の胸の奥に突き刺さっていた。




