王と宰相(6)
投稿から七分で、広報部のモニターは赤く染まった。
「トレンド、上位五つを独占しています」
広報部の若手が、掠れた声で報告した。
モニターには、いくつものタグが並んでいる。
#星河
#小鹿転落
#自己責任
#創作の自由
#賀雲舟発言
その横で、拡散速度を示すグラフが、ほとんど垂直に立ち上がっていた。
啓文は、賀総の投稿をもう一度読んだ。
―――創作には、失敗も逸脱もある。
そのすべてを先回りして止める社会で、自由なクリエイターは育たない。
言葉そのものは、彼の思想から出たものだった。
だが、今この文脈では、別の意味に読まれる。
未成年が転落した直後に、自由を語った。
星河は責任を避けた。
賀雲舟は、少女の安否よりクリエイターの自由を優先した。
そう読まれる。
そして、すでにそう読まれていた。
「広告主対応チームから入電です」
「英語メディアが拾いました」
「香港市場の掲示板でも広がっています」
報告が重なる。
啓文はデスクの間を駆け抜け、再び総裁室に入った。
賀総は窓際に立って、スマートフォンの画面を眺めていた。
「削除してください」
自分でも驚くほど強い声が出た。
賀総の目が、わずかに揺れた。
賀総は、スマートフォンをデスクに放り出した。
「なぜだ。俺の言葉だ」
「だからです」
指をきつく握りしめる。
爪が食い込むほどに。
「この状況で、あなたの生身の言葉は、世間を刺激しすぎます」
「生身の言葉でなければ、意味がない」
「今は、その言葉が人を傷つけます」
言葉は、外に出た瞬間、持ち主を失う。
このことを誰より知っているはずの自分が、賀雲舟にだけは、まだ分からせられずにいた。
デスクの上では、彼が先ほど投げ出したスマートフォンが、一秒ごとに震えていた。
しばらく沈黙が落ちる。
賀総はゆっくりと、デスクの上のスマートフォンをとった。
「……削除する」
「ありがとうございます」
だが、削除通知が出るより早く、広報部のモニターには投稿のスクリーンショットが流れ始めていた。




