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0.3秒の王国 ―アルゴリズムの王と宰相―  作者: Furi0804
第1章 未成年クリエイター事故
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王と宰相(5)

事故発生から半日。広報部の空気は、摩擦で発火しそうなほどに張り詰めていた。


啓文は、対外発表向けに初動声明を出した。




> 当社は、未成年クリエイターの安全確保に関する運用体制について、重大な課題があった可能性を認識しております。


> 関係者の安否確認と事実関係の把握を最優先に進めるとともに、当該配信および関連コンテンツの拡散抑制措置を講じています。




賀総の案から、「創作の自由」に関する一文は広報判断で外した。


いつもなら、それで終わるはずだった。




総裁室に入ると、賀総はいつものように、スクリーンを流れる動画を見ていた。


こちらを見ないまま、問いかける。




「『重大な課題があった可能性』——なぜ、こちらから責任を認めるようなことを言う」




「責任を認めたのではありません。可能性を認識していると書いています」




「同じだろ」




「違います。市場は、我々が事態を過小評価していると判断した瞬間に離反します」




「だが、これは星河の自由を否定することにならないか?」




賀総は、まだ納得していなかった。




「啓文、これだけは言わせてほしい。


ひとつの事故で、次に作る人間の手を止めてはいけない。


これは事故であって、表現そのものの否定であってはならないんだ」




啓文は苛立ちを抑えて答えた。




「それは受け入れられません」




「なぜ」




「安否が分かっていない未成年の事故に対して、その言葉は早すぎます」




賀総の視線を真っ向から受け止める。




「社会は今、自由ではなく『誠実さ』の証明を求めているんです。ここで自由を語れば、責任回避に読まれます」




賀総は黙った。


だが、その視線は啓文の言葉を拒絶している。




「啓文」




「はい」




「あれは、俺の言葉か」




「星河としての声明です」




「俺は、あんなことは言っていない」




「言うべきではない言葉を除きました」




「それは……俺の言葉を直したのか。それとも消したのか」




啓文は一瞬、言葉を探す。




「社会に届く形に整えました」




「君はいつもそう言う」




賀総は吐き捨てるように言った。


啓文はそれ以上言葉を重ねず、総裁室を出た。




(プラットフォームの、良心)




またリンの言葉が頭をよぎる。


信頼安全チームとの打ち合わせに入ろうとしたときだった。




「周部長!」




広報部の若手が、悲鳴に近い声を上げた。




「賀総が、個人アカウントで投稿しました……!」




啓文の指が、ピタリと止まった。


嫌な予感が、背筋を駆け上がる。




SNSを開く。




―――創作には、失敗も逸脱もある。


そのすべてを先回りして止める社会で、自由なクリエイターは育たない。

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