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0.3秒の王国 ―アルゴリズムの王と宰相―  作者: Furi0804
第1章 未成年クリエイター事故
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4/20

王と宰相(4)

啓文は椅子から立ち上がるのと同時に、キーボードを叩いた。




モニターに映し出されたのは、星河のトレンド画面。


そこには、赤字で「#小鹿 転落」「#LIVE事故」という不吉な単語が躍っていた。




心臓の鼓動が一段、速くなる。




拡散されている動画は、数分前のライブ配信の録画だった。


画面の端には「星河ライブ」のロゴ。


小鹿は、錆びついた工場の、吹き抜けになった三階部分の縁に立っていた。




『もっとギリギリまで行って!』


『小鹿なら飛べる!』


『怖いの?』




画面下部から湧き上がるコメントが、少女を追い詰めていく。


小鹿は、無理に作ったような笑顔を浮かべ、カメラ——スマートフォンのレンズを見つめた。




「……あ」




小さな声。


直後、画面が激しく回転し、鈍い衝撃音と共に砂嵐のようなノイズが走った。


視聴者の悲鳴のようなコメントが、一気に加速して画面を埋め尽くす。




「周部長」




広報部の部下たちが、顔を青くして啓文を見た。


オフィス全体に、重苦しい静寂と、それに続くパニックの前触れのようなざわめきが広がる。




啓文は深呼吸をし、眼鏡をかけ直した。




「――対策チームを立ち上げる。法務と信頼安全部門を緊急招集。


小鹿の登録情報、保護者同意、所属MCNの有無を確認。


安否確認は関係者経由で急いで。


信頼安全は配信ログ、通報ログ、モデレーション履歴を保全。


関連動画とミラーコンテンツは、証拠保全をしたうえで拡散抑制に入って」




矢継ぎ早に指示を飛ばしながら、啓文は自分の指先が微かに震えていることに気づいた。




三日前、リンが言った「良心」という言葉。


そして、自分が「賀総を説得する」と言いながら、


結局は日々の業務の波に飲まれ、後回しにしていた事実。




(私が、止めるべきだったのか)




その時、オフィスの奥にある総裁室のドアが開いた。


騒ぎを聞きつけたのか、賀総が姿を現した。




彼は混乱するフロアを一瞥し、そして啓文のデスクへと歩み寄った。


その顔には、驚きも、恐怖も、後悔も読み取れなかった。




「どうした」




声は低く、平坦だった。




「小鹿です。ライブ配信中に転落した可能性があります。現在、安否を確認中です」




言葉を一旦、区切る。




「……星河も、プラットフォームとして、責任の追及は免れないでしょう」




賀総は答えず、モニターを見た。


乱れた映像の端で、コメントだけがまだ流れ続けている。




「コメントを保存しておけ」




「すでに指示しています」




「彼女は、自分で行ったのか」




啓文は、わずかに眉を動かした。




賀総は画面から目を離さない。




「それとも、コメントに押されたのか」




啓文の胸に残っていた小さな傷が、そこで深く開いた。




その問いは、事故の核心に近かった。


近すぎるほどに。


だからこそ、いま口にすべきではないことだった。

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