王のアルゴリズム(13)
啓文は、静かにドアを閉めた。
窓から差し込む午後の光が、総裁室のデスクの上に淡く影を落としている。
賀総はスクリーンからゆっくりと顔を上げ、啓文の視線を受けた。
「話があります」
啓文の声は穏やかだった。
二人で応接テーブルをはさんで向かい合う。
賀総はソファの背もたれに体を預け、軽く顎を引いた。
「退職したいと思います」
賀総は一瞬、目を細めたが、すぐにいつもの落ち着いた表情に戻った。
創業CEOとして、彼はこの瞬間をこれまで何度も味わってきた。
「いつ決めた」
「前から考えていました」
賀総は指でテーブルの端を軽く叩きながら、淡々と続けた。
「待遇か」
「違います」
「どこに行く」
「まだ決めていません」
短い沈黙の後、賀総は視線を真正面から啓文に向けた。
「俺のせいか」
啓文は一瞬、言葉に詰まった。
「そういう話ではありません」
賀総は小さく息を吐いた。
「今か」
優秀なエンジニアが、敏腕営業が、海外拠点を任せていた責任者が、
そして上場前後の激動の中で何人もの幹部が、去っていった。
感情で縛るのは無意味だと、理屈では理解している。
それでも、この日が予想より早く来たことには、わずかな苛立ちが残った。
「星河は、これからも続く」
「はい」
「引き継ぎは、しっかりやってくれ」
その声は、冷静さを保とうとしていたが、どこか乾いていた。
啓文は静かに頭を下げた。
話は、終わった。
終わったはずなのに、啓文はしばらく立ち上がれなかった。




