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0.3秒の王国 ―アルゴリズムの王と宰相―  作者: Furi0804
最終章 0.3秒の王国
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王のアルゴリズム(12)


深夜のオフィスは、ほとんど明かりが落ちていた。




周啓文は自分のデスクの前で、静かに資料を整理していた。


推薦ロジックの変更対応、上場見送りの発表、タウンホールでの説明——


危機管理広報として、ひとまずやるべきことは終えた。




米国上場準備の想定問答。


賀総のインタビュー記事。


アンダーライター向けの補足資料。


小鹿の事故後に出した初動声明。




彼は一つずつ丁寧にファイルにまとめ、段ボール箱に収めていった。


デスクの上に残った最後のファイルを取り、手のひらで表面を軽く撫でた。


賀総の過去スピーチの草稿だった。


その一番上に、先日のタウンホールの草稿が重なっている。




張の言葉が、脳裏に蘇る。




『君が代わりに経営者の言葉を話してきたから、賀総はずっと創作者でいられたんだよ。』




啓文は小さく息を吐き、苦笑した。


あの時はただの冗談のように聞こえたが、今になってみると重い。


自分が賀総の言葉を整え、守り、時には代弁してきた時間は、確かに長かった。




記者だった頃は、自分の言葉で書いていた。


広報に移ってからは、会社の言葉を作る側になった。




だからこそ、賀雲舟の言葉の生々しさに、どこかで惹かれていたのかもしれない。


王の言葉は危うく、粗く、そのままでは社会に出せない。


それでも、力だけはあった。




啓文はその言葉を削り、整え、時には消した。


その矛盾ごと、自分の仕事だと思ってきた。




しかし、その役割は、もう同じ形では続かないのだと分かっていた。





窓の外には、夜の街の灯りがぼんやりと広がっている。


景気は冷え込み、広告市場は厳しく、星河は米国上場を見送った。


外からの圧力は、どんなに言葉を美しく整えても、完全に防ぐことはできなかった。




——結局、星河もまた、もっと大きなアルゴリズムの中で揺れている。




彼は箱の蓋を閉め、静かにテープを貼った。




デスクの上の明かりを消すと、オフィスはさらに深い静寂に包まれた。


彼は段ボール箱を棚にしまうと、誰もいないフロアを歩き始めた。


足音だけが、静かに響いていた。

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