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0.3秒の王国 ―アルゴリズムの王と宰相―  作者: Furi0804
最終章 0.3秒の王国
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王のアルゴリズム(11)

それから一ヶ月。


推薦ロジックの大幅変更と世界的な景気減速が重なり、星河の内部は静かに緊張を帯びていた。




賀雲舟は自ら、タウンホールミーティングの開催を指示した。


本社大ホールをメイン会場に、世界各地の拠点をライブ配信でつなぐ大規模なものとなった。




啓文は前夜遅くまで草稿を練り、賀総に提出していた。


賀総はその草稿を手に、壇上に上がった。


マイクの前に立つと、彼は資料をそっと横に置いた。




会場は水を打ったように静まり返っていた。


数百人の本社社員と、画面越しに世界中の社員たちが息を潜めて見守る中、


賀総はゆっくりと口を開いた。




「悪いニュースから話す」




声は低く、わずかに掠れていた。




「米国上場は見送る。世界的に景気が悪くなり、広告が落ちている。


推薦ロジックの変更で、短期の数字も読みにくくなる」




ホールに緊張が走った。画面越しの社員たちも息を飲むのがわかった。


賀総は視線を少し落として続けた。




「事故の件で、星河は批判を浴びた。批判される理由もあった」




賀総はそこで一瞬、言葉を区切った。


彼の視線は真正面に向けられていた。




「でも、星河は終わったわけじゃない。


俺たちは、見つからなかったものを見つけるためにこの会社を作った。


それは変えない」




指がマイクを強く握る。




「ただ、伸びたら終わりじゃない。数字が跳ねたら勝ちでもない」




一拍。




「数字はしばらく落ちる。気分のいい四半期にはならない」




誰かのため息。


賀総は、それを聞いてから続けた。




「だからこそ、星河が何を見つける場所なのかを、外の誰かに決めさせるつもりはない」




原稿にはなかった言葉が、最後に自然と零れ落ちた。




「俺たちで、やるしかないんだ」





沈黙だけが、ホールに残った。


しかし、それは、社内を包んでいた奇妙で重たい空気ではなかった。


沈黙の後、ぽつり、ぽつりと拍手が起き、やがて大きな波となった。


画面越しの海外拠点からも、同じ拍手の音が重なって聞こえてきた。




壇上から降りてくる賀総の横顔を、啓文は無言で見つめていた。




草稿の骨子は拾っていた。


しかしほとんどの言葉は、彼自身のものだった。





直したいところは確かにあった。


もう少し数字で安心させるとか、危機感の伝え方を柔らかくするとか。


でも、消すべき言葉は一つもなかった。




啓文は胸の奥が静かに軋むのを感じた。





王は、自分の言葉で王国を語り始めた。





——自分の役割は、もうすぐ終わるのかもしれない。





その予感が、妙に現実味を帯びて胸に落ちた。


啓文は拍手の余韻に耳を傾けたまま、目を閉じた。

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