王のアルゴリズム(11)
それから一ヶ月。
推薦ロジックの大幅変更と世界的な景気減速が重なり、星河の内部は静かに緊張を帯びていた。
賀雲舟は自ら、タウンホールミーティングの開催を指示した。
本社大ホールをメイン会場に、世界各地の拠点をライブ配信でつなぐ大規模なものとなった。
啓文は前夜遅くまで草稿を練り、賀総に提出していた。
賀総はその草稿を手に、壇上に上がった。
マイクの前に立つと、彼は資料をそっと横に置いた。
会場は水を打ったように静まり返っていた。
数百人の本社社員と、画面越しに世界中の社員たちが息を潜めて見守る中、
賀総はゆっくりと口を開いた。
「悪いニュースから話す」
声は低く、わずかに掠れていた。
「米国上場は見送る。世界的に景気が悪くなり、広告が落ちている。
推薦ロジックの変更で、短期の数字も読みにくくなる」
ホールに緊張が走った。画面越しの社員たちも息を飲むのがわかった。
賀総は視線を少し落として続けた。
「事故の件で、星河は批判を浴びた。批判される理由もあった」
賀総はそこで一瞬、言葉を区切った。
彼の視線は真正面に向けられていた。
「でも、星河は終わったわけじゃない。
俺たちは、見つからなかったものを見つけるためにこの会社を作った。
それは変えない」
指がマイクを強く握る。
「ただ、伸びたら終わりじゃない。数字が跳ねたら勝ちでもない」
一拍。
「数字はしばらく落ちる。気分のいい四半期にはならない」
誰かのため息。
賀総は、それを聞いてから続けた。
「だからこそ、星河が何を見つける場所なのかを、外の誰かに決めさせるつもりはない」
原稿にはなかった言葉が、最後に自然と零れ落ちた。
「俺たちで、やるしかないんだ」
沈黙だけが、ホールに残った。
しかし、それは、社内を包んでいた奇妙で重たい空気ではなかった。
沈黙の後、ぽつり、ぽつりと拍手が起き、やがて大きな波となった。
画面越しの海外拠点からも、同じ拍手の音が重なって聞こえてきた。
壇上から降りてくる賀総の横顔を、啓文は無言で見つめていた。
草稿の骨子は拾っていた。
しかしほとんどの言葉は、彼自身のものだった。
直したいところは確かにあった。
もう少し数字で安心させるとか、危機感の伝え方を柔らかくするとか。
でも、消すべき言葉は一つもなかった。
啓文は胸の奥が静かに軋むのを感じた。
王は、自分の言葉で王国を語り始めた。
——自分の役割は、もうすぐ終わるのかもしれない。
その予感が、妙に現実味を帯びて胸に落ちた。
啓文は拍手の余韻に耳を傾けたまま、目を閉じた。




