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0.3秒の王国 ―アルゴリズムの王と宰相―  作者: Furi0804
最終章 0.3秒の王国
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王のアルゴリズム(10)

新推薦ロジックのテスト開始からさらに数週間が経った。


外向きには「改善した」と言える結果が出ていた。


しかし星河の社内は、予想外の重い空気が漂っていた。




成長チームのリーダーが、会議室のモニターを睨みながらため息をついた。




「今月のDAU(デイリーアクティブユーザー数)伸び率、目標の68%しか達成してない……」




以前のような爆発的な伸びは完全に止まり、グラフは緩やかな横ばいに入っていた。


「安全にはなったけど、ユーザーがスクロールする理由が減ってる」と誰かがぼそりと漏らした。





プロダクト部では、エンジニアの一人が深夜のデスクで同僚に愚痴をこぼした。




「正直、フィードがつまらないんですよね」




刺激は減り、代わりに「長く見られる」動画ばかりが並ぶようになった結果、


全体のテンションが明らかに下がっていた。


「誰も文句は言わないけど、誰も熱狂もしない。なんか……味気ないよな」





クリエイター担当者はモニターを見ながら頭を抱えた。




「また泣き動画かよ……」




アルゴリズムに最適化された、同じような「感動系」「親孝行系」「病室系」の動画が急増していた。


一方で、社が本気で売り出したい若手クリエイターたちからは不満の声が殺到している。


「全然伸びないんですけど」「これじゃ個性出せない」「前のほうがよかった」





広告営業部長はクライアントからのメールを読みながら、苛立ったようにコーヒーを置いた。




「安全になったことは評価する。だが、予算は据え置き、か」




景気減速で広告単価は落ち、どのクライアントも次の四半期の出稿には慎重だった。


ブランドセーフティは向上した。説明もしやすくなった。


広告主の反応も悪くない。


ただ、それは新しい予算を引き出す理由にはならなかった。





信頼安全部のリンは、通報件数が大幅に減ったダッシュボードを見ながら、ため息をついた。


危険は確かに減った。


しかし、むしろ「なんか全体が重苦しい」という声のほうが多く聞こえてくる。


彼女は複雑な表情を浮かべた。






社内を奇妙に沈んだ空気が包む。




数字は悪くない。


リスクは減った。




「改善したはずなのに……会社が良くなった感じがしない」




誰が最初に言ったのかは分からない。


けれど、その言葉は、数日かけて社内のあちこちに薄く広がっていった。



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