王のアルゴリズム(10)
新推薦ロジックのテスト開始からさらに数週間が経った。
外向きには「改善した」と言える結果が出ていた。
しかし星河の社内は、予想外の重い空気が漂っていた。
成長チームのリーダーが、会議室のモニターを睨みながらため息をついた。
「今月のDAU(デイリーアクティブユーザー数)伸び率、目標の68%しか達成してない……」
以前のような爆発的な伸びは完全に止まり、グラフは緩やかな横ばいに入っていた。
「安全にはなったけど、ユーザーがスクロールする理由が減ってる」と誰かがぼそりと漏らした。
プロダクト部では、エンジニアの一人が深夜のデスクで同僚に愚痴をこぼした。
「正直、フィードがつまらないんですよね」
刺激は減り、代わりに「長く見られる」動画ばかりが並ぶようになった結果、
全体のテンションが明らかに下がっていた。
「誰も文句は言わないけど、誰も熱狂もしない。なんか……味気ないよな」
クリエイター担当者はモニターを見ながら頭を抱えた。
「また泣き動画かよ……」
アルゴリズムに最適化された、同じような「感動系」「親孝行系」「病室系」の動画が急増していた。
一方で、社が本気で売り出したい若手クリエイターたちからは不満の声が殺到している。
「全然伸びないんですけど」「これじゃ個性出せない」「前のほうがよかった」
広告営業部長はクライアントからのメールを読みながら、苛立ったようにコーヒーを置いた。
「安全になったことは評価する。だが、予算は据え置き、か」
景気減速で広告単価は落ち、どのクライアントも次の四半期の出稿には慎重だった。
ブランドセーフティは向上した。説明もしやすくなった。
広告主の反応も悪くない。
ただ、それは新しい予算を引き出す理由にはならなかった。
信頼安全部のリンは、通報件数が大幅に減ったダッシュボードを見ながら、ため息をついた。
危険は確かに減った。
しかし、むしろ「なんか全体が重苦しい」という声のほうが多く聞こえてくる。
彼女は複雑な表情を浮かべた。
社内を奇妙に沈んだ空気が包む。
数字は悪くない。
リスクは減った。
「改善したはずなのに……会社が良くなった感じがしない」
誰が最初に言ったのかは分からない。
けれど、その言葉は、数日かけて社内のあちこちに薄く広がっていった。




