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0.3秒の王国 ―アルゴリズムの王と宰相―  作者: Furi0804
最終章 0.3秒の王国
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王のアルゴリズム(9)

夜遅くの総裁室。賀雲舟は一人、スクリーンに向かっていた。


新しい推薦ロジックのテスト結果が、延々と流れ続けている。




危険な動画は確かに減った。


コメント欄の暴力的な書き込みも、わずかながら低下した。


広告主には説明しやすくなり、当局への報告書にも「改善傾向」と書ける。


主要指標も致命的には落ちていない。




しかし、彼は眉間に深い皺を刻んだまま、画面を凝視していた。




例えば、コメント欄。




『飛べ』


『もっと上』


『投げ銭した』


『もう一回』




という荒々しい煽りや衝動は姿を潜め、代わりに




『泣いた』


『応援したい』


『いい子すぎる』


『親孝行』


『最後まで見てしまった』




という、感動・共感系の言葉に置き換わっていた。




一見、「優しく」なったように見える。


温かみが増したようにさえ感じられる。




「……なるほど」




賀雲舟は、静かに息を吐いた。




アルゴリズムは善悪を理解しない。


ただ、人間が強く反応する感情の強さを貪欲に探し、最大化するだけだ。




泣いている少女。


病室の父親。


田舎の祖母に尽くす少年。




どれも「いい話」だった。


どれも、表面的には正しい。


だからこそ、余計にたちが悪い。




「……面倒なことになった」




彼は小さく吐息を漏らした。





翌日。星河互娛本社で行われた主要広告主向け新方針説明会。


会場は柔らかな照明と重厚な空気に包まれていた。




啓文は会場の後方で、手元の進行表を確認していた。


賀総は自ら壇上に立ち、マイクの位置を軽く調整した。




席には化粧品、ファッション、食品など大手ブランドのマーケティング責任者たちが並び、


期待と警戒が入り混じった視線を壇上に向けている。


賀総は彼らを見まわし、ゆっくりと話し始めた。




「星河は、見つからなかった才能を拾う場所でありたい。それは変わりません。


ただ、その仕組みが誰かを追い詰めるなら、私たちはそこを変えなければならない」




一瞬、視線を落としてから、落ち着いた低めの声で語り続ける。




「今回の推薦ロジックの調整は、その一歩です。


広告が置かれる場所としても、クリエイターが見つかる場所としても、


星河が何を見せ、どんな感情を集めているのか。


そこまで含めて、私たちは見直します」




会場には、短い拍手が広がった。




説明会が終わるまで、賀総は丁寧に質問に答えた。


会場の端で、啓文はその様子を見ていた。


賀総が少し言葉に詰まれば、いつでも補足に入れるように。




だが、その必要はなかった。





説明会を終え、賀雲舟は広告主たちと笑顔で握手をした。


広告主の一人が「安心しました」と言い、彼は軽く頷き返す。




説明会は無事に終わった。


それでも、昨夜のコメント欄は彼の頭から消えなかった。




『泣いた』


『応援したい』


『最後まで見てしまった』




控室に向かう足取りは、いつもより少しだけ重かった。



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