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0.3秒の王国 ―アルゴリズムの王と宰相―  作者: Furi0804
最終章 0.3秒の王国
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王のアルゴリズム(6)

賀総はまだ戻らない。


社内外からの問い合わせ対応で疲れ果てた啓文は、重い足を引きずるように残業を終え、帰り道にある、夜遅くまで開いている小さな飯屋に入った。


混みあった店内で、店員に奥の席へ通される。


向かい側には、すでに一人の客が座っていた。




沈予真だった。





予真の前には、蓋を開けたばかりの土鍋ご飯が湯気を立てている。


醤油が焦げた香ばしい匂いと、中華ソーセージの脂の匂いが、狭いテーブルに濃く残っていた。




啓文は、スペアリブと蓮根のスープを注文した。


ほどなくして、蓋つきの白い陶器の碗が静かに置かれた。


蓋をとると、スープの湯気が立ち上る。




「周部長、それだけですか」




「胃が疲れているので」




啓文は苦笑しながら答えた。




「沈記者は、この時間にご飯ものですか」




「やけ食いです」




予真は土鍋ご飯をさじで軽くかき混ぜながら言った。


少しの沈黙が落ちる。




「今日配信された記事、見ました」




啓文が静かに切り出した。




「見ないでください」




予真は小さく息を吐く。


啓文は少し間を置いて、




「珍しく、強い見出しでしたね」




「強くされました」




予真は箸を止めて、淡々と言った。




「……なるほど」




「あれ、伸びたんですよ」




予真は自嘲するように小さく笑った。




「私の見出しじゃないほうが」




「そうですか」




「だから食べてるんです」




予真は再び土鍋ご飯を掬いながら返した。




「……胃に悪いですね」




啓文がスープを一口飲んで言った。




「周部長もだいぶお疲れですね」




啓文は苦笑する。




「今日、同じ質問を二十七回されました」




「数えたんですか」




予真が少し目を細めて笑った。




「途中から」




予真は土鍋ご飯を口に運びかけて、手を止めた。




「何を聞かれたんです」




「言えません」




彼女の視線が若干鋭くなる。




「賀総裁の件ですか」




啓文はまっすぐ視線を返しつつ、穏やかに遮る。




「言えません」




スープに目を落とす。




「今夜は取材ではないんでしょう」




予真は唇の端に笑みを浮かべ、




「癖です」




「お互い様ですね」




啓文は小さく肩をすくめ、スープをもう一口飲んだ。


予真もそれ以上は聞かなかった。


代わりに、土鍋の底にできたおこげをさじで剥がし始めた。

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